第7話 葛藤

 あの日から数日が経ち、ボクはリステリの執事として精進し始めた。最初は慣れはしなかったが、やっていけばだんだんと慣れてきた。

 執事としての業務が終われば例の部屋に行き、レードさん──執事長との特訓。

 あれは特訓ってより模擬戦だな。

 あれからもユウナさんは怪我をして帰ってくる。無傷で帰ってきた方が珍しいくらい。執事だから主人であるユウナさんを様付けで、呼んだ方がいいのだろう。

 でもユウナさんがさん付けを強要してきた。その為に渋々さん付けで主人をお呼びしている。


「ふぅー取り敢えず一段楽ついた」


 ボクはあの日を境に執事として、過ごすのと同時に日記を付ける事にした。特訓が終わってからいつも付けている。

 模擬戦では相変わらずのボロ負け。だけど着実と渡り合えている。

 まぁそれは肉弾戦に限る話。魔法を織り交えられると、確実にボコボコにされる。

 魔法での対処を流石に覚えないといけない。肉弾戦が強いだけではユウナさんを守りきれない。魔法が使えない分。魔法の対処を覚えた方がいい。

 時々特訓の時に意識を無くす。気付くとベットに眠っており、執事長はボロボロになっている。

 そして毎回の如く、本当に魔力がないのか聞いてくる。そのせいか最近自分でも分からなくなった。


「ヒュウガで調べた時に魔力がないと判断が下った。だから絶対にない」


 自分の中で腑に落ちない事が、何度もある。執事長との特訓、ユウナさんと出会う前のべオードウルフ。

 色々と魔力がないで片付けられる物ではない。

 トントンと扉がノックされる。


「どうぞ入ってきて下さい」


 返答は一切なく、ただ扉が開かれた。

 そこには予想外の人物がいた。


「……ユウナさん」


 扉の前には執事長ではなく、リステリの令嬢ユウナさんがいる。ボクはてっきり執事長だと思っていた。ユウナさんがボクの部屋に何の用? と思いながら部屋に通し椅子を渡し座ってもらう。

 お互い何も言わない為に沈黙が続いた。

 え気まず、何か話した方がいいんだと思う。でも何を話していいか分からない。

 その矢先、ユウナさんの目から、ポロポロと涙が流れその場にうずくまる。

 急いでユウナさんにかけ寄る。するとユウナさんはボクに抱き付いてきた。

 思わぬ行動だった為に上手く対処ができず為すがまま。体勢を大きく崩す。

 一体これどうすればいいのだ? どう動けば正解何だ?


「ごめんねクロくん。少しの間このままにさせて」

「好きなだけして下さい。この部屋には今二人しかいないですから」


 ははっと半笑いになりながら言う。いつもならば釣られて笑ってくれる。

 だけど今回は一切微動だにしない。

 逆にボクの体には異変、地味た事が起きている。さっきから胸がドクンドクンとうるさいくらい鳴ってる。それに鼻腔に微かな甘い匂いがする。

 今すぐにでもさっきの言葉を訂正したい。でも一回言った事を撤回するのもな。──結局ボクは撤回も訂正もしなかった。

 だんだんと嗚咽交じりの声が聞こえてくる。声の正体は探さずとも分かる。今ボクの胸で泣いている高貴な少女。だけど、今だけはか弱い可憐な少女に見える。


「私、もう学校に行きたくないよ! 辛い。リステリってだけで……」

「それ以上の言葉はお辞めになって下さい」


 ユウナさんが次に言う言葉は手に取るように分かる。そしてボクは気付いた時には待ったを掛けていた。それ以上の言葉は聞きたくなかった。

 自分と同じ境遇だからこそ、ユウナさんの口からそれ以上の言葉は聞きたくない。それがボクのわがままだとしても。


「ごめんね弱気になってしまって。もう大丈夫」


 ユウナさんはボクから離れ、部屋を出て行こうとする。ユウナさんの表情から哀愁さが漏れていた。

 このまま何も話さず帰してしまったら、多分後悔する。

 ボクに弱みを見せたのには何か意味がある筈。だったら帰せれない。


「ま、待って!」

「えっ!」


 ユウナさんの腕を掴み、歩みを無理矢理止めた。ここまで想定通り。

 これから先は何も考えなしだ。一体どうする? このままだと、ただ単に沈黙が続く。

 あ、もう考えたって仕方ない。

 フゥッと息を吐き、吸ってから手を離す。

 ユウナさんはキョトンと首を傾げる。


「ボクにだけでもいいので弱気を見せて下さい。愚痴くらいならば聞きます。解決になる事はできないかもしれない。でもユウナさんの役に立ちたいです!」

「ふふふ。ありがとうね、じゃあわがままを言ってもいい?」

「はい何なりと! ボクは執事なので」


 執事と言い張ったのはいいが、やはり主人をさん付けはどう何だろう? 主人からの命令だから付けで呼んではいるが……。

 そんな事を考えていると、ユウナさんが神妙な面持ちで──度肝を抜かす。

 その言葉に声がでなかった。ユウナさんは部屋から出ていた。


「私と一緒に魔法院ソロモンに来て」


 か、確かにわがままだな。さてと一体どうした物か。魔力のない無能が才能有望が集まる学院に行っても……。

 あーくそ今ここで考えても意味がない。そんな事は理解しているのに! 今その事が脳内に焼きついてる。

 思わず頭に手を置いてはかきむしる。

 答えの見つからない事案。胃がキリキリとし始めた。

 ……ボクは無能だ。それでもユウナさんの役には立ちたい。それにレードさんからは最強になれる。と太鼓判を押された物。

 だったら少しは自惚れて──自信を持ってもばちは当たらないだろう。


「思い立ったら即行動」


 自分ができる最優先の事を進めないと、まずそれには執事長の許可が必要。

       ◇

「もう一回言って貰えますか? 冗談ではなく本当の事を」


 執事長から感じた事もない圧を掛けられる。

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