第6話 似た境遇

「ユ、ユウナさん!」


 ボクは慌ててユウナさんの下に駆け寄る。体を少し抱え状態を見た。

 顔と腕に目立つほどの火傷と切り傷。回復魔法を使えればすぐに治る。

 だが問題はリステリ家の令嬢が怪我をして帰ってきた。これは一大事だ。場合によっては戦争沙汰になり得る。

 それほどリステリ家には歴史と信頼がある。ヒュウガにも匹敵するほどの力を有すしている。

 それがリステリ家。いやまずそんな事より、ユウナさんの手当てが先。


「レードさん! ユウナさんを」

「分かっています。とりあえず客室に運んで下さい!」

「はい!」


 レードさんの指示通りに運ぶ。その為にユウナさんには申し訳ないが、お姫様抱っこの形を取る。

 レードさん先頭になりながら、客室まで向かい近くにあるベットに横たわせる。


「うぅぅ……辛いな」


 ただの寝言。それでも聞き逃す事はない。一体ユウナさんには何が合った? その全てを知りたいと思った。

 肩にポンと手が置かれる。だけどその手は岩のようにズッシリして重く感じ取れた。

 重いなと感じながらユウナさんの下から離れ、レードさんを見る。そこには鬼の形相をしたレードさんがいる。

 殺気を丸出しにした鬼が目の前にいる。

 と、錯覚する程の威圧感に殺気。

 ……扉に手を起き、客室から出る。何故今、自分がユウナさんの傍から離れたのか分からなかった。

 ただ一つだけ言えるとすれば「許せない」それだけだ。

 一歩足を進めようとした時、扉が開かれ、さっきとは違い──優しい顔をしたレードさんが出てくる。


「すみませんお見苦しい所を見せてしまって」

「いえ大丈夫です。それよりユウナさんは……」


 レードさんは顔を曇らせる。

 自然とボクは拳を力強く握る。何でだろう? ユウナさんを傷付けられた事に対して怒りが収まらない。

 まだ会って間もないのに苛立ちが収まらない。

 あの傷の感じ──物理ではなく魔法。

 それに朝には傷が一切なかった。つまり学校に行ってから傷を負った。


「何か気付いたんですね。少しお嬢様に怒られるような話しをしてあげましょう」

「ユウナさんが怒るような話し?」

「簡潔にいうとクロさんとお嬢様は似た者同士」


 似た者同士? そういえばさっきも似た事を言っていた。それでもボクはその可能性を否定したい。

 ユウナさんとボクでは住んでる世界が違う。

 似た共通点があるとすればお互いに名家出身。

 ボクはヒュウガ、ユウナさんはリステリ。

 ただそれでしかない。

 レードさんに自分の事を話した。でもヒュウガの事は言ってない。

 一体何処が似た者同士なんだ? 考えれば考えるほど分からない。


「お嬢様はリステリ家令嬢。それでも魔法があまり使えない落ちこぼれ」


 その言葉を聞いた瞬間。胸がドクンと脈を打った。多分今ボクは信じられないような顔をしているだろう。それもその筈だ。

 だってその言葉通りならばボクとユウナさんは似た者同士。

 レードさんの言葉通りになってしまった。

 妙に納得をしている自分がいる。それにも腹が立つ。

 別格の存在と思っていた。だけど同じ立場。

 扉が開いた。ボロボロのユウナさんが顔を出している。その顔は朝同様に少し引き攣っていた。無理に笑い体を動かす。

 そんなユウナさんをみると胸が痛くなる。


「あははは、レードさんから聞いたんだよね? 私の事がっかりした?」


 ユウナは会ってからずっと笑顔を崩していない。それでも今回だけは崩れていた。本人は笑顔を通してつもりだろう。でも実際は笑顔ではなく、半泣きになっている。

 もしここでボクが心ない事を、言ったら

 ユウナさんは泣き崩れる。それだけは分かる。


「全然。逆に親近感が湧きました。ボクは魔力がないので」


 ユウナさんの目が大きく開く。泣きそうだった表情が一変し、驚愕の様子。

 どうやらユウナさんは気付いてなかったみたいだ。どうやらボクの勘違いだった。

 余計にあの時助けてくれた理由が、分からない。多分単純にユウナさんの優しさか。


「なんだ変に心配しなくてもよかったんだ。私とクロくんは似た者同士か」


 ユウナさんは嬉しそうに、体をユラユラしている。だが体勢を崩し倒れ掛かった。ボクは慌ててユウナさんを抱えた。


「あ、ありがとう」


 ユウナさんは顔を俯いている。気のせいか紅潮しているように見えた。

 ユウナさんを立ち上がらせ、レードさんにアイコンタクトした。

 レードさんはコホンと咳払いし、ユウナさんに視線を向けた。と、思ったら次は驚愕の表情を見せた。

 一体何だろう? ユウナさんを見ると

 あれ? さっきまであった傷が一切ない。

 それはいい事何だけど。急に傷が回復する物なのか? ユウナさんが魔法を使った。一番可能性があるのはこれだ。


「二人ともどうしたの? 面を食らった表情をして?」


 その言葉に思わずレードさんと目を合わせる。


「とりあえずユウナさん。部屋に戻って休みましょう?」

「部屋ってここじゃないの?」


 ユウナさんは後ろを振り向く。そこには客室と書かれた看板がある。

 咄嗟に客室に運んだのはやっぱり間違いだったか? そんな事を考えていると、ユウナさんは再びこちらに振り向き、頭を下げ慌てて何処かに行った。


「あははは、では今日これで解散って事にしましょう。夕ご飯の時また来ます」

「あ、はい」


 今日はある意味騒がしい一日になった。

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