第2話 魔力の片鱗

 それに何か、変われる気がする。

 これはただの思い違いかもしれない。

 だとしても少しの期待をし、ユウナさんに付いて行く。


「それじゃあリステリ邸に向かおうか!」

「え? ヒュウガとの商談は?」

「あ、あんなのはどうでもいいよ」


 ユウナさんの言葉に、ボクは苦笑をする。

 流石帝国最強の魔法師家系。ヒュウガに物怖じを一切していない。

 それにヒュウガが、コケにされるのはいい気味だ。


「じゃあクロくん。護衛よろしくね」

「はい!」


 護衛と言ってもリステリの人間ならば、魔物に襲われても撃退出来ると思う。

 それにボクは魔力ゼロの無能。ユウナさんを、護衛出来る程の強さを持っていない。


「私がユーグリアに来るまでの道中、魔物とか現れなかったから大丈夫だと、思うけどね」


 魔物に合ったのってボクと出会った時か、あれ? だとしたらボクといるのやばくない? その予想は見事に的中する。


「なんでこうなるの!?」

「ユウナさん、喋ってる暇が合ったら逃げますよ!」

「うん、そうだね!」


 べオードウルフの十数体が、ボクたちを追いかけて来る。

 それに対し、ボクらは全速力で逃げている。

 さっきのように数匹はボクの言う事を聞くが、ボス格のベオードウルフのせいで、何一つ駄目だ。


「どうするクロくん!?」


 一体どうすればいい? ボクには魔力がない。その為魔法が使えない。

 それにユウナさんは頑なに、魔法を使おうとしない。

 次の瞬間、巨大な炎がべオードウルフの群れを襲う。

 そして炎は爆散をし、火の粉がボクたちに降り掛かる。


「あっつ!」

「この強大な魔力に威力……まさか!?」

「君ら大丈夫?」


 この聞き覚えのある声! 最悪だ。

 このままだと、ユウナさんまで危険に晒される。ボクの顔に布が被る。


「これは防煙魔法。クロくん、私の後ろに隠れといて」

「ど、どうして?」

「君の波長が大きく、波が出来ていたから」

「!? ありがとうございます」

「あれ、貴女はユウナ様」

「どうも、リグ=ヒュウガ様」


 リグ=ヒュウガ、一つの年違いの元・弟。ヒュウガの兄弟の中でも、シンに次ぐ、実力者。


「今からユーグリアにお向かいですか? それとそこの者は?」

「こっちは私の使用人です。それと、ユーグリアには出向いたので大丈夫です」


 ユウナさん平気で嘘を付いている。


「本当にですか?」


 リグはユウナさんの顔を覗き込む。

 片手で髪に触れている。ユウナさんの右手が、ピクついてるのに気付く。

 触れられるの嫌なのに、我慢をしている。

 多分、リグはそれを分かって触れている。


「どうかしましたか? ユ・ウ・ナ様!」


 リグはユウナさんを見下し、嘲笑っている。

 どうしてだろう? この光景を見てると、はらわたが煮え返りそうだ!


「は?!」

「え、嘘でしょ!?」


 気付いた時、リグが地面に這つばっていた。それにボクはユウナさんの前に、そしてリグの対面にいる。


「てめぇ何をしやがる?!」


 リグは激しく激昂をする。

 自分では自覚はないが、多分リグを殴り飛ばした。


「………」

「てめぇ俺を誰だと思っている!!」


 リグの問いにボクは黙っていた。

 ユウナさんが防煙魔法を掛けてくれたとはいえ、もし声を出せば気付かれるかもしれない。

 だから黙っていた。

 それが逆にリグの反感を買う。


「ぶっ殺してやる!」


 さっきまでの様子とは違い、リグは感情を剥き出しにして襲い掛かって来る。

 怒りで支配されている為か、魔法ではなく肉弾戦で向かって来る。

 一つ一つの攻撃が鋭く速い。それでも……ボクは紙一重で躱す。

 こいつ、頭に血が昇っているから素手だ。リグもボクも素手の近接戦は、得意ではない。

 特にボクは兄弟の中で体が貧相だったから余計。

 でも、今のボクならばリグに勝てるかもしれない。

 と、錯覚するくらい。勝てるビジョンが見える。


「何で当たらねぇんだよ!」

「凄い! 全部ギリギリで避けている」

「フッ」

「貴様!!」


 あまりにもリグの攻撃が当たらず、つい笑みを溢してしまった。ああ──面白い。


「次はこっちの番だよ」

「な!?」


 ドンッと鈍い音がし、リグは膝から崩れ落ちた。

 悔しそうにボクを見上げる。……今まで散々虐めて来た奴に、やり返すのは気持ちいい。

 追撃で攻撃する為に、拳を大きく振り被った。

 次の刹那、下から拳が振り上がって来た。

 その攻撃を咄嗟に前へ出した左肩で防ぐ。一瞬、痛みが走ったがすぐに治った。

 あれ? ここまでリグの攻撃って、弱かったのか?


「何なんだよお前!」

「よっわ」


 振り上げていた拳をそのまま振り下す。

 爆裂音に近い轟音がし、リグは失神していた。

 リグの周りにある地面は大きくヒビが入ってる。


「あ、えっと──クロくん行こうか」

「はい」


 ユウナさんは少し、驚愕しながら歩みを進める。

 リグの横を通り過ぎる時、リグの体に黒い炎が纏っていた。

 あの黒い炎は魔力の一部の筈。

 なんで魔力の一部が出ているんだろう? 今気にしても仕方ないか。


「どうかしたクロくん?」

「いえ、何もありません」

「それよりクロくん凄いね!!」

「え?」

「え? じゃないよ。まだ魔法師の卵とはいえ、ヒュウガの人間を倒すって快挙だよ!」

「はは、そうですね」


 ボク一応、元とはいえヒュウガの人間何だよな。

 まぁその事実をユウナさんが、知る事は一切ない。

 兄弟の一人をまぐれでも倒せた事。

 それはボクが今後生きていく中で、自慢出来て自信に繋がる。ユウナさんの言う通り、快挙なのかもしれない。


「クロくん心なしか嬉しそう」

「まぁ、ヒュウガの人間を倒せましたし!」


 少し口角を上げ笑う。


「さてさて、それじゃ魔法でも使って向かおう!」

「え、それ最初からすれば良かったのでは?」

「あ、うっさい」

「酷い」

「ふふふ」


 ユウナさんが笑い出し、ボクも釣られるように笑う。思い切り笑った。

 多分、人生史上初と思うくらい笑った。


「転送魔法。テレポート」


 次の瞬間、白い輝きが見え眩しくて目を瞑る。

 目を開いた時には街中にいた。


「ここは?」

「私が住んでいる街。グロリアだよ」

「ここがグロリア」


 ボクは少し感動をしている。

 今まで家から、出られなかった事もあり、嬉しく感じている。


「じゃあ街を観光ついでに、屋敷に向かおうか!」

「はい」


 ユウナさんの言葉通りに、街中を観光し様々な物を見ていた。

 流石、帝国最強の魔法師家系が住んでいる街なだけある。


「どうクロくん。グロリアはいい所でしょ?」

「はい……そうですね」

「どうかした?」


 ユウナさんが不思議そうな顔をして、ボクに聞いてきた。

 ボクは観光の中で、一つだけ気になっていた事を聞く。


「あそこにある大きな建物は何ですか?」

「え、アハハハ。まさかここに気付くとは思わなかったな」


 気付かないと思った? あれだけ建物が立派で、大きければ嫌でも目に入る。


「クロくんは、気付いてないかもしれないね。ここはね膨大な魔力で隠されているんだよ」

「膨大な魔力で?」

「そう。ここはね魔法院学園ソロモン!」


 ……全然聞いた事がない。

 魔法学院ヒュウドルは知っているが、ソロモンの名称が付く。学園は聞いた事はない。


「あれれ? もしかして知らないの?」

「あ、はい。すみません」

「あれれ、ソロモンに気付いた物だから、てっきりクロくんは魔法の才能が飛び抜けているのかと思った」

「ハハッ」


 ユウナさん、それは全く違います。ボクはその逆で魔力ゼロの無能。


「それじゃあ屋敷に向かうよ」

「はい」


 ユウナさんの後ろを付いていく時、学園から黒い光が見えた。リグに合った黒い炎と一緒だ。

 ……それを尻目に屋敷に向かう。


「着いたよ。ここが私の屋敷」


 ヒュウガにも負けず、劣らずの屋敷が合った。


「立派ですね」

「まぁ一応名高い家系の屋敷だからね」


 ユウナさんの口振りだと、嫌そうに感じ取れる。

 実際有名家系というのは、他の人が思う程いい物ではない。

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