大陸没戦 一エリア鬼の誕生一

鍋敷

全ての始まり

第1話 新人トーマン

 とある大陸の各場所に、人にあだなす生き物達が住んでいた。

 人々も、それに対抗すべくハンターギルドを立ち上げ抵抗を始めた。

 そんな事が、ずっと続いてきた。

 人々は、そんな奴らの住む場所を見張るためにエリアを設けて監視した。

 とある大陸の片隅にある、一つのハンターの支援施設。

 そこの施設の長の前に、一人の青年が立つ。


「本日より着任いたします。トーマンです、よろしくお願いします。」


「うむ、よく来てくれた。楽にしてくれたまえ。」


 その青年は、施設に就いたばかりの新人のようだ。

 青年の動きからは、緊張が感じられる。

 そうしながらも、姿勢を正して敬礼をする。


「はい。精一杯頑張ります。」


「よく言った。でも、頑張りすぎるなよ?」


「了解しました。」


 それでも、青年は姿勢を正して返事をする。

 そうは言われても、いきなり態度を崩すのは至難の技だろう。

 それを見た施設の長は、笑いながら扉へ向かう。


「はは、ゆっくり慣れてくれれば良いからな。では、施設の案内をしよう。私の後に着いてきてくれ。」


「はい。」


 そのまま部屋を出た二人は階段を上がっていく。

 目指すのは、施設の頂上にある部屋だ。


「知っていると思うが、ここの目的はエリアの監視。危険な生き物が蔓延るこの場所から、奴らの動きを監視するのが目的だ。」


「何かあれば、本部に知らせるんですよね?」


「そうだ。そうやって、何かがあればハンターを要請する。それが我々のやり方だ。」


 大陸には、危険な生き物が蔓延る区域が存在する。

 そこの監視をして、ハンターに要請するのが施設の役割だ。


「ここの依頼は、基本的に王都からの依頼になる。本来の一般人が行うのとは別の扱いだ。」


「はい。エリアの施設は、公務に値するのですよね。」


「そうだ。エリアそのものが、王家の管轄だからな。」


 大陸の平穏に直結する場所だ。

 その大陸の王家が取り締まるのは当然の事。

 しかし、王家では身に余るだろう。

 そこで、ハンターギルドに依頼して見張らせているのだ。


「気を引き締めないとですね。」


「だな。しかし、肩肘張っては上手くいくまい。気楽にするのも大事だぞ?」


「了解しました。」


 そんな話をしている間に、階段を登りきる。

 そして、施設の長が目の前に現れた扉に手をかける。


「さ、着いたぞ。ようこそ、我が施設へ。」


 そう言って、施設の長が扉を開く。

 そこは、施設の頂上にある見張り台。


「うわぁ、凄い。」


 その部屋にあるのは、長い机と大きな窓。

 そこからは、エリアが見渡せるようになっている。

 その光景に、トーマンが見入ってしまう。


「どうだ、凄い眺めだろ? その上に、向こうからは見えないように景色に溶け込ませている。こちらからは、奴等の動きは筒抜けって訳だ。」


 外から見れば、ただの岩に見えるのだ。

 しかも、背後にある岩の壁に溶け込んでいる。

 ここに、人がいるのは分からないだろう。

 そこからの光景を堪能していると、職員の一人が声をかけてくる。


「おや、以前言っていた新人ですか?」


「そうだ。今日からここに来た新人だ。」


「トーマンです。よろしくお願いします。」


「なるほど、よろしくね。」


 トーマンが姿勢を正して頭を下げる。

 すると、部屋にいた職員達から返事が返ってきた。

 新たな仲間に、歓迎のムードが漂う。

 すると、別の職員が声をかけてくる。


「なら、丁度良かった。今、最高のショーが始まった所ですよ。」


「ほう、あれだな?」


「あれって何です?」


「ふふ、見れば分かるよ。さ、この双眼鏡を覗いてごらん?」


 職員に促されるままに、渡された双眼鏡を覗きこむ。

 そこでは、コングを払った草食竜に群れの王が殴りかかった様子が見えた。

 しばらくすると、水のブレスがそこに襲いかかった。

 その後に、長い首の海竜が現れ突っ込んだ。


「三匹の大きいのが争ってます。」


「三匹か。基本は二匹なんだがな。それが見えるとは運が良いな。」


 どうやら、珍しい光景らしい。

 それでも、職員達が慌てる様子は見られない。

 双眼鏡を覗きながら談笑している。


「あれは、縄張り争いですか?」


「そうだ。最近飽きずによくやってるよ。あまりにもよく争うので、どっちが勝つかでお金をかけてる奴らもいる。」


「ほっといて大丈夫何ですか?」


「大丈夫だ、いつもの事だからな。大方、餌場の取り合いかなんかだろう。ここには餌になるのもいないし、こっちに来る事は無いだろうな。」


「なるほど、そうなんですね。」


 わざわざ、餌のいない場所には近づかないだろう。

 だから、職員達は慌てる事なく楽しんでいる。

 もはや、この場所の娯楽となっているのだ。


「んじゃ、次に行くぞ。今日中に、お前の仕事場に案内しないといけないからな。」


「了解しました。」


 そう言って、施設の長と共に部屋を出る。

 その後は、ある程度の設備を周ってから事務の部屋へと向かう

 そして、自分の机に案内される。


「さて、ここがお前の机だ。早速、明日から作業に入って貰う。よし、お前ら注目だ。」


 施設の長の声に、部屋の職員達が二人を見る。

 すると、トーマンが姿勢を正して職員達を見渡す。


「この間、言っていた新人だ。」


「トーマンです。よろしくお願いします。」


「皆と同じ部署で働く。世話してやってくれ。」


 先程のように、トーマンが頭を下げる。

 すると、先程の同じような返事が返ってくる。

 ここの職員達も友好的なようだ。

 

「じゃあ、今日中に仕事を覚えておけよ。では、俺は戻る。」


 それだけ言うと、施設の長が部屋から出ていく。

 自分の部屋へと戻るのだろう。

 こうして、新人トーマンの施設での仕事が始まるのだった。

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