真宵猫ーVSカレンー1
階段からする足音にその場にいた誰もが顔を向けた。
足音は一人、だんだんと近づいていき、とうとうその足音の元凶の顔が見える。
「!カレン様、何をなさっているのですか!?」
「―――!」
現れたのはあの時突っかかってきた
今境内で行われている状況に驚きを隠せない様子だ。
「荊芥、来たのですか。」
「はい、今日の供物をお持ちしました。というかこれはどういう状況ですか!?なぜこ奴らがここにいるんです!?」
「居てはダメなのですか?」
「あ、当たり前ですよ!こ奴らがカレン様の結界を壊した張本人なのですよ!」
荊芥の怒鳴り声に反応してか荊芥が持ってきたゲージの中身が一人でに暴れ出す。
「あっ!こら!暴れるんじゃねぇえ!」
そう言うと荊芥はゲージを地面へと叩きつける。
中に入っているのは生き物らしい。叩きつけられた時、動物の鳴き声が聞こえてきた。
嫌な予感がした
「なあっ!?」
何とかゲージ内に衝撃を加えることなく奪うことに成功した。手に取ると結構ずっしりとした重さがある。
急いで中身を確認すると中には猫がいた。
暗くて模様や色までは確認できないが猫であるのだけは確かだ。
ただ猫にとっては外が見えないためこちらに回収してもゲージ内で激しく暴れている。このままではどこか怪我をする勢いだ。
そのため魔法で一度眠らせる。
【二級魔法:
魔法をかけると揺れていたゲージはぴたりと動きを止め、中身を確認すると猫はぐっすりと眠っていた。
「くそがっ!探偵だか何だか知んねぇが邪魔すんじゃね!ぶち殺すぞ!」
荊芥は懐から小型ナイフを取り出すと目の前に構える。
すかさずこちらもゲージを地面に置き、杖を構える。
殺意が体に突き刺さる。早く殺せと叫んでいる。
ただ何故かこの村に着いた時のような体を支配される感覚はないため杖をしっかりと構え深く深呼吸する。
よし、落ち着いてる。大丈夫だ。
これから戦闘が始まるのだと緊張の糸を張り詰めていたがどうやらそうはならないらしい。
「荊芥、下がりなさい!」
そう言ったのはカレンだった。膝を着いたままだが荊芥を睨みつけている。
「で、ですが!?」
「いいから!」
「は、はい。」
二人がどういった関係なのかわからないがパワーバランスは何となくだが見ていてわかる。僕と先生のような上下関係のようだ。
「すみません、魔女様、この者が大変な失礼を。」
「気にしてないわ。それで話を戻すけどここに溜まっている穢れ、それとここに迷い込んだ猫はどうしたのか聞いてもいいかしら?」
「それは猫は供物としていつもこの時間にこの者、荊芥とあと高齢の女性が代わる代わるに捧げて来たのでこの者たちの願いを叶える代わりに私の力を高めるために使いました。穢れ、が何なのかわからないのすみませんが答えられません。」
「そう……。」
猫を供物として……
怜はゲージの中にいる猫に目をやる。この子が今日の供物として捧げられるはずだったようだ。もしかしたら依頼の猫ももう供物としてあのカレンとかいう女が殺してしまったかもしれない。
ただ今は何故かはわからないが先生を敬っているためこちらの質問にも答えてくれるかもしれない。
「じゃあもしかしてその供物として捧げられていた猫の居場所は知らないかしら?」
さすが先生、聞きたいことを聞いてくれた。
ただそう簡単に答えが返ってくる訳でもなく……
「あ、えっとごめんなさい、知らないです。」
求められた質問に答えられなかったのが申し訳なかったのか目に見えて落ち込んでいる。
「まあそうよね。いいわ、じゃあ知ってそうな奴に聞いてみましょうか。」
先生は荊芥の方に顔を向けると先ほどと同じ質問を荊芥へと投げかける。
「あなたなら、供物として捧げている猫の居場所、知ってるんじゃないかしら?」
「し、知らねえ。」
「荊芥、それは本当?」
彼女たちから睨まれ冷汗を流す荊芥、しばらく沈黙が続いたが耐えられなかったのか言い訳言い始めた。
「待ってくれ!本当に俺は供物用の猫の居場所なんて知らないんだ!管理しているのはいつも村長のとこの奥さんだ!俺はいつも待ち合わせ場所に置かれた猫を受け取ってここに運んでいるだけなんだ!」
「ふ~ん」
「ほ、本当だって!」
彼があまりに必死なため嘘を言っているようには見えないがただ信用もできない。
「まあいいわ。ならもう一度村長の家に向かいましょうか。」
「そうですね!僭越ながら私も御供させていただきます!」
え?あなたもついてくるつもりですか!?
そうツッコんでしまうことをなんとか堪える。
正直先ほどまで命のやり取りをしていたのに急に仲間みたいに振舞いだしたのでツッコまざるを得ない。
「怜、行くわよ。」
「あ、はい!」
先生に駆け寄ろうと近づいたとき、先生の近くにいたカレンがいきなり苦しみだした。
「うぐぅっ……!?」
『―――ッ!?』
先ほどの怜が当てた攻撃の傷が今になって痛みだしたのか先生の横に倒れ胸を押さえている。
荊芥も怜も二人の視線は倒れるカレンに向くなか、先生一人だけは拝殿へと視線を向けていた。
「まさか使徒様が我々を裏切るとは思いませんでした。」
声がしたのは神社の拝殿の奥からだ。
そちらに視線を向けると見覚えのある顔が二人、姿を現した。
「村長!来てくれたんですか!?」
「ええ、まあ~。まさか餌として送った二人がまだ生きていてしかも使徒様を懐柔してしまうとは思いもしなかったですよ。」
現れたのは村長とその奥さん、二人の格好は神主のようだ。ただその恰好は神聖なものとは程遠い。なぜなら二人の体には穢れが至るところにこびりついているからだ。
「さて、カレン様、私たちはあなたとは協力関係にあったと思われるのですがそちら側につくということはこちらとの契約も破棄されたということでよろしいでしょうか?」
「ふ、ふざけんな!私に何をした!?」
「なに、供物に少し細工をしただけですよ。」
「供物に……ですって?」
村長の
揺れる中身には黒い何かが入っている。
「うん?空の瓶?」
荊芥には中身が見えていないらしい、じゃああの瓶に入ったものは―――
「まさか穢れか!?」
「正解です。それもただの穢れではないですよ、その穢れには他の穢れを寄せ集める効果があるんです。」
「なっまさか!?」
どうしてそんなものを普通の人間が持っているのか。それを考える時間はらしい。
「うぐぁあ……!」
先ほどまでは横に倒れはしていたがまだ話す力はあったカレンだが急に体の中心部から黒い渦が弧を描いで現れると今以上に苦しみだし、渦はカレンの体を軸に近くにある穢れを次々に飲み込んでいく。
「くっ……!」
気を抜くと凄まじい引力に吸い込まれてしまいそうだ。そうならないためにも足に魔力を集中し、吸盤のように地面に固定し踏ん張る。横に置いたゲージにも土魔法を用いて地面に固定する。
人を軽々と浮かせる風に怜は魔力があったがため踏ん張りが効いたがこの中に一人だけそれができないものがいた。荊芥だ。
最初、荊芥はいきなり発生した渦に訳もわからないと言いたげな顔をしていたがそれが自分にも危害を加えるものだと知った時、すでに宙に浮いていた荊芥にはもうどうすることもできなかった。
「た、助けてくれ―――!!」
「なっ……!あ~もうくそっ!」
宙に浮きながらも必死で怜へと手を伸ばす荊芥、怜もまた飛ばされないように踏ん張りながらもなんとか掴めないかと手を伸ばす。
ただ荊芥とすれ違うのはほんの一瞬、荊芥の手には触れることすらできずそのまま渦へと飲み込まれていった。
「うわああぁぁぁ――――!!!」
「くそっ!!」
過ぎた後醒めた頭の中で魔法を使って柱を建てればだとか動体視力を上げれば掴めたかもしれないとか後悔だけが頭の中をぐるぐると巡る。
「怜!しっかりしなさい!」
「―――ッ!先生!?」
先生の方に目をやると荊芥が境内の奥にある木に括られ縛られている姿が見えた。
「え!?」
「怜、この子とあとあそこの老夫婦は私が受け持ってあげるからさっきも言った通りカレンの相手はあなたがしなさい。頑張れたらご褒美をあげるわ!」
その目にはあなたを信頼している、という意思が感じ取れた。
というかこの状況でも先生は怜の修行のことを考えているようだ。さっきもそうだが先生が出ればすぐに終わっていただろうし、このような状況にはならなかっただろう。
先生にとっての価値基準は怜の成長が最優先なようらしい。
ため息をこぼしながらもいつでも始められるように魔力を練っておく。
先生がご褒美をあげるなんて言っているのを聞いたのは本当に久々だ。先生がご褒美を用意する時は大抵クリア困難な場合が多い。一度だけご褒美付きのクエストをこなしたことがあったがその時は左腕と右目を失った。
ただご褒美はいつもいくらお金を積んでも手に入らないものをくれる。怜の持つ杖もご褒美でもらえたもだ。なんでも異界の素材を使って創られたらしい、折れることもなくそして何より魔力を無限に杖にためることができる世界に一本だけの杖だ。
そのためやる気という面ではすごくあるのだが正直言って勝てるビジョンが思い浮かばない。
そうこう考えているとやがて渦は境内にある穢れすべてを飲み込むみカレンの体に吸い込まれていき体が異形のモノへと姿を変えていく。
それは横にいた騎士も同じようで腕は人間だった頃の面影はなく剣が体の内側から生えてきたような腕に手は完全に一本の剣へと姿を変えている。
兜からは角が生え兜の口元部分は無くなり禍々しい牙の生えた口元が見えている。
胸元の鎧には真ん中にぽっかりと穴が開き、黒い泥のようなものが溢れている。
カレンの方はと言えばベールで顔を見えないのは同じだが背中からは蝶の様な羽が生えそれだけを見れば綺麗なものだが消し飛ばしたはずの右腕からは黒騎士の胸から出ている泥で形づくられた触手のような右腕が生えており、左腕は関節部分が地面につくほど伸びている。
そしてドレスの裾から見えていた足は消えその代わりとばかりに八本の蜘蛛のような足が生えている。
それはもう先ほどまでのカレンではなく別の生き物であった。
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