第131話 Prelude②

 遥か彼方まで怪物が飛ばされる音が鳴り響く。木々をなぎ倒し、地面を転がり、岩にぶつかり、土煙が舞った。


「『1』。」


シャオはそう呟き、そして大きく息を吐く。身体を包むスーツは白銀に輝いている。


 シャオの解放は『連鎖コンボ』。相手の特定の1体に自分が攻撃を与えた回数がコンボとして残り、それが『777』になったら、神をも超える力を発揮する。コンボの数は右手の甲に表示され、金色に光る。今なら『1』という文字が光っている。


「ミシェル、合わせてね。」

「りょーかい。」


 俺たちは怪物が飛んで行った方に走り始める。約400mを40秒ほどで走り、怪物を見つけた。怪物は俺たちを見つけた瞬間こっちに飛んできて、右腕を振り下ろしてくる。その手を俺が切り落とし、シャオはそのまま突っ込んでいった。


「『単光』!」


振り上げた一撃は怪物の鳩尾に食い込み、怪物は宙に舞う。満月の輝く方に飛んでいく巨大な影は、月をも隠した。


 見れば切った右腕が再生し始めている。


「そんな簡単に再生されても困るんだよなぁ。」


俺は槍を振り、怪物を切り刻む。若干傷は浅いが、動きが鈍くなった。


 それをシャオが見逃すはずもなく、飛び上がって3発入れる。そして怪物は地面に叩きつけられた。シャオの右手の文字は『6』に変わっている。


「『777』って長いんだよな。もうちょっと短くは出来んかったのか?」

「仕方ないでしょ。私もこんなに長く殴り続けるのは疲れるわ。」


ストンと降りてきたシャオと喋りながら怪物が回復するのを待つ。


 この時俺たちは理解した。なぜ百野賢斗がこの怪物の相手を俺たちがするようにしたのか。それは、シャオの解放を最高値まで高めるためだ。最高の一撃を向こうのトップさんに叩き込む。そのための準備をここでやれと言うことだろう。


 ズシンと音が鳴って、土煙が立ち、怪物はまた立ち上がった。ズタズタに刻んだ身体も、シャオが入れたパンチも、完全に再生している。


「うわぁ。永久機関ですってかぁ。」

「こっちの体力が先に尽きるか、向こうが回復できなくなるか。どっちが先なんだろうねぇ。」


立ち上がった怪物は右手を大きく振り上げ、地面を崩す。それに合わせて俺たちは飛び、その衝撃から逃げる。


 土煙が晴れると、さっきまでとは様子が違う怪物がそこにいた。焼けるような匂い。そして赤くなった右腕の肌。触れた木は燃えてなくなり、岩は溶けて流れていく。


「これがこいつの解放?」

「いや、そう操作されているだけだろう。そういう能力を持つように。」

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