第128話 School③
最寄り駅を過ぎる。電車に揺られて座っている俺たちは、ただぼーっとしながらこのときを楽しんでいた。
「帰りたくないなぁ。」
「俺も。帰ったら次は任務だし。」
なんだかんだであの騒がしい生活も嫌いじゃなかった。変人長男といってくるクラスメイトも、特に何のイベントもなかった毎日も、それなりに楽しかった。もうあそこに行けないかもしれないと思うと、少し寂しい。
「このまんまどっか寄り道して行くか?」
「だね。」
百花は俺の肩に頭を乗せてくる。夕暮れの車内。学校帰りの学生の楽しそうな声と、ガタゴトと揺れる電車の音。それだけが俺たちの周りを包んでいた。
真っ赤に燃える山の稜線。夕陽が沈んでいくのを眺める。車庫も川の水も何もかもが赤く輝き、時間だけがゆっくりと流れていく。車内にいた人々は1人2人と消えていき、次第にいなくなった。
俺たちは結局、どこにも寄らなかった。ショッピングモールのある駅でも、遊園地のある駅でも、俺たちは降りようとしなかった。終点まで何も喋らずに乗って、そのまま折り返した。時刻はもう6時を回ろうとしている。穿たちには『遅くなる』との連絡はしているので心配はしていないだろう。
「始まるね。」
「ああ。始まる。これが終わったとしてもZEROは無くならないだろうけど、一番大きな戦いになるだろうな。」
最寄り駅が近づいてきて、電車が減速し始める。ブレーキ音が鳴り響き、止まった。
「賢斗
百花はそう言った。それだけ言った。たったそれだけなのに、とても重たく感じた。
家に帰ると、三葉と穿はまだ制服姿だった。
「おかえり、2人とも。楽しんできた感じ?」
「どこかに行ったって訳じゃないけどね。終点まで行って戻ってきただけだから。」
「なんか、どこかで聞いたことあるようなことしてる。」
三葉は笑いながらそう言う。リビングの方から穿の笑う声も聞こえてきて、分かっていない俺たちは、何があったのかと三葉に訴えかける。
「私たちもなんよ。終点まで行ったの。特に何もせずにさ。」
三葉は少し恥ずかしそうに、出会った頃からは少し長くなった前髪をいじりながらそう言う。
「それでもまだ足りんかったから制服姿ってわけ。」
「なるほど。穿も制服か?」
「もちろん。あっ、2人も制服のままでいてね。あとで写真撮ろ。」
三葉はそう言ってリビングの方に歩いていく。俺たちはそこまで使い込んでいないローファーを脱いで、三葉のあとを追った。
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