第119話 一撃⑤

 おそらく解放の影響で河本さんは無限に弾を撃てる、半無双状態だ。もし、何十発も一気に撃たれたら、私は捌ききれないだろう。


「おいおい、そんなに逃げてばっかりだったらいつまでも解放できねぇぞ。」

「分かってます。」


一向に反撃できない。物陰に隠れても銃弾は貫通してくるから意味ないし、いつまでも走りながらになるから集中できない。


 試しに一発撃ってみることにした。もちろん無音だ。でも、その銃弾はさっきまでのと何ら変わらない。残り9発になってしまった。


「会長の娘の力ってこんなもんなんだな。ちょっと冷めるわ。結局、階級を上げれたのはコネなんでしょう?会長もこんな子供に一つの班を任せるなんて、もう世代交代ですかね。」


河本さんは呟くようにそう言う。その声は確かに私の耳に届いていた。


「河本さん、今の言葉は聞き捨てならないですね。」


身体が怒りで熱くなるのが分かる。私のことはいくらでも馬鹿にしてくれていい。けど、お父さんだけは許せない。お父さんのことを馬鹿にする人だけは許せない。


 それも全部私が弱いせいなんだって分かってる。でも、私が弱いからってお父さんのせいにするのは、お門違いも甚だしいじゃないか。


「分かってますよ。私が弱いことくらい。でも、どうしても許せないものがそこにあるなら、私は悪にだってなれる。」


 手に持つ銃の感覚が変わった。銃口が白く輝いている。


「『遠雷』!」


銃口からは銃弾が放たれない。ただ白い光のみが放出され、それが地面を抉り、渦となって飛んでいく。


 私は解放したのだ。その力が何かはすぐに分かる。これは内部の電磁石の電気なんだろう。電磁銃には特に変化はない。機能もそこまで変わっていないはずだ。それを200%、いや、それ以上引き出すとこうなるんだ。


「いきなり危ないじゃないですか。とりあえず解放しましたね。あなたも戦力入りです。」


河本さんは笑って、手に持った銃を捨てた。


「じゃあこのまま慣らしをしましょう。解放は体力を使います。いきなり実戦で使うのは危険すぎます。なので、私との勝負は続きますよ。」


河本さんはトランクの中から銃を取り出す。ライフルだ。


「実を言うと、私の専門はこっちなんですよね。このライフルの名前は『ヨウ』。もちろん百野工作特製の武器ですよ。その言葉の意味が分かりますよね。」

「ええ、もちろん。」


つまり、どんな弾が飛び出してきても驚くなということだろう。


「じゃあ、百花さんの解放を完成させましょうか。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る