第48話 湯乃原山の決戦、再び

「フフフッ……時は来た……」

 剣士が《村正》を鞘から抜いて、大上段に構えた。刀身が血の色のように赤い。


《この村正は魔力のこもった妖刀だぞ。持つ者の生命力を吸って攻撃力に変えるからな、扱いには気をつけろよっ》

 凛子が剣士に与えた副賞は、呪われた日本刀だった。


『いよいよエキシビションマッチの開始ですっ。えー不肖わたくし谷口は、この安全な大会本部テントにて審判を務めさせていただきます。なお、特別名誉顧問の凛子さんには隣で解説をしていただきますので、よろしくお願いしますっ』

『よろしくなっ』


「なっちゃーんっ、油断はダメだよーっ」

「カレーに気い付けてなーーっ」

 魔法使いと召喚術師は後ろに下がっている。どうやら俺と一人ずつ対戦するつもりらしい。

「押本くーんっ、魔王の仇討ちがんばってよーっ!」


『始め!』

 村正が太陽を反射した。

「ダアアアーーーーーッッッ!」

 剣士の足が速い。俺は振り下ろされた赤い一閃を黒い棒で受け止めた、つもりだった。

〝シュカンッ〟

 矢印が青空に飛んだ。俺の武器である鉄の棒があっけなく切断されたのだ。


「満月切りっ!」

〝シュカンッ〟

〝シュカンッ〟

〝シュカンッ〟

 妖刀が円を描くたびに黒い棒が短くなっていく。これはヤバい。


「エッヘッヘッ……これはいい刀だ」

 剣士の目が赤く光る。

 俺はすかさず自分の尻尾を引き抜くと、鉄の棒に変えた。

『おおっと、緑の魔王の尻尾にはこんな機能があるんですねっ』

『予備だなっ』


〝シュカンッ〟

 しかし、やっぱり簡単に切断されてしまうので意味がない。


「往生際が悪いな……」

 剣士が笑いながら、刀を真正面に構えた。

「これでとどめだ!」

〝ガチンッ〟

 俺は左腕を棒に変形させて村正を受けた。思った通り、魔力を込めると妖刀の刃を防ぐことができる。

『これは魔王恐るべしっ』

『魔力で魔力を防いだなっ』


「桜吹雪っ!」

〝バチバチバチッッッ!〟

 赤い刃の乱れ打ちだ。

〝バチバチバチンッッッ!〟

 俺の体は赤く輝くエフェクトで切り刻まれた。

「まだまだっ!」

〝バチンッバチバチバチッッッ!〟

 無数に現れては消える村正の残像。

〝バチバチバチンッッッ!〟

 これは防げなかった。


〝ドサッ〟

『なんと魔王が倒れたっ!』

「やったーーーーーっっっっ!!!」

「なっちゃんっ!」

「夏菜っ!」

「押本君っ!」

 やはり、分散しすぎると耐久力も弱くなるようだ。

「サンダーアロー!」

「なっ、何っ!」

〝ガラガラッッッ! ドドーーーーーーンッッッッッ!!!!〟

 村正に雷が落ちた。近すぎて目が痛い。


〝パキンッ!〟

 剣士の指に一つ残った《身代わりの指輪》が砕けた。


「どっ、どこだっ?!」

 俺は剣士の目の前に姿を現し、呪文を唱えた。

「火山雷!」

〝ドゴゴゴゴッッッ! ガラララララララララッッッッッ!!!!〟

「!!!!!!!」

 降り注ぐマグマと無数の雷撃に撃たれ、剣士は倒れた。

「なっちゃん!」

「夏菜!」

『なんと魔王がもう一人現れました! 分身魔法のようですっ』

『だから村正には気をつけろと言ったんだ』

 剣士の攻撃は力強かったが、さんざん妖刀に生命力を吸われていたのだろう、たった一発の魔法でオーバーキルになってしまった。まあ、ちょっと高レベルな二属性魔法だが、N.P.C.が相手ならやりすぎても問題はない。


 剣士は強制ログオフで退場となり、セーラー服を着た女の子の姿に戻った。

「ちぇっ! 負けちゃったぜ!」

「なっちゃん、お疲れーーっ」

「次はうちやっ!」

 続いて魔女が飛び出した。


「ほないくでーっ、反則雪合戦!」

〝ドコッ、ドコッ、ドコッ〟

 急に晴れた青空から雪玉が降ってきた。


〝ガンッ!〟

「痛てっ! なんだこれはっ!」


〝ガンッ! ガンッ!〟

「痛てっ!」

「痛てっ!」

『なんと雪玉に石が入っていますっ』

 反則だっ!


〝ガンッ! ガンッ! ドコッ、ガンッ! ガンッ! ガンッ! ガンッ! ガンッ!〟

「痛てっ!」

「痛てっ!」

「痛てっ!」

「痛てっ!」

「痛てっ!」

「痛てっ!」

「痛てっ!」

「痛てっ!」

「痛てっ!」

「痛てっ!」

「痛てっ!」

「痛てっ!」

   ・

   ・

   ・

「うわっ、思った通りやけど……どんだけおんねんっ!」

「ちょ、ちょっと恋紋ちゃん、これって……」

「こんなのありかよ~っ! 恋紋っ、気を付けろよっ!」

 雪玉、いや石玉のせいで隠密魔法が解除され、全員が姿を現してしまった。


『こっ、これは一体どうなっているのでしょうかっ! 魔王の数が、えーっと……』

『512体だなっ、一体は倒れたが』

 プレイコートいっぱいに俺がいる。9回分裂しただけだが、512体はちょっと多すぎたかもしれない。第一これでは逃げ場も無いし、一体ごとの能力が低下するのは失敗だった。


「合身っ!」

〝ズザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザッッッッッッ!!!!!!〟

 俺は分身魔法を解いて、一人に集合した。倒れた一体は消えてしまったが、ダメージなのでやむを得ない。それに、たったの0.2パーセントだ。


「恋紋たのむぞーーっ!」

「恋紋ちゃんのっ、全力が見てみたいっ!」

「本気でいくでーっ!」

 魔法使いはこれでもかと杖を振り回した。


「アイスニードル!」

ひょう結晶手裏剣!」

「雪あめ!」

「アイスロックニードル!」

「恋紋製菓の鬼アラレっ!」

雪崩なだれ特急!」

「フローズントルネードッ!」

「反則雪合戦!」

氷結ひょうけつ遭難そうなんばく!」

「1ケルビン庭園!」

 氷雪魔法が乱舞する。さすがに水晶のかんざしを装備しているだけのことはある。


《この簪を身につけると、魔力の消費が10分の1になるぞ。ただし無駄遣いには注意しろよっ》

 凛子が魔法使いに与えた副賞は、つまるところ魔力が10倍に増える髪飾りなのだった。


ごう!」

〝ズギュルルルルルルルルルルッッッ!!!〟

 白い魔法の輝きが一つになっていく。

「恋紋スゲーーッ!」

「恋紋ちゃんがんばれーーっ!」

 たった一度の攻撃に、おそらく魔法使いはありったけの魔力を込めたのだ。


「これで終わりやっ! らくっ!」

 世界が白一色になった。

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