第21話 三人寄れば

 そもそも私が《湯乃高ゆのこうギルド》に入った理由は、友人の夏菜なつなだまされた、もとい誘われたからであり〝マジ何とか〟というゲームに興味があったからではない。


 最初に聞いた話では、クラブ活動を新しく立ち上げる、ということで、てっきり文化系の研究会的な何かだと思ったのだが、実際には私が苦手とするスポーツ系だと分かった時にはすでに私の足ほど遅く、私を入れて三人の部員が集まってしまっていたので逃げる隙がなかった。


「なっちゃんっ、私が運動ダメなの知ってて誘ったの!?」

「だーい丈夫だって、私がちゃんと教えるからっ」

「夏菜が言い出しっぺやから初代部長やな。けど、クラブにするには五人必要なんやろ? うちら三人しかおれへんやん」

「しかも一年生の女子だけじゃないっ」

「問題ないって! 最初は同好会から始めればいいんだよっ。部員なんてすぐに集まるんだからさっ」

「ほんなら〝マジユニ同好会〟結成やなっ」

「いや、そんな名前じゃつまんないから〝湯乃原ゆのはら高校ギルド〟にするっ!」

「ちょ、ちょっとなっちゃんっ〝ギルド〟って何っ?!」


 こんな適当な会話から始まった正体不明の怪しい集まりであったが、まさか半年が過ぎても継続し、あまつさえ年を越してしぶとく生き残るとは予想だにしなかった。惰性とは恐ろしいものである。

 とは言え、今だに湯乃高ギルドのメンバーが増える気配は微塵もなく、正式には同好会のままであり、当然ながら顧問の先生が就くらしいといった噂もなく、贅沢な寛ぎ空間である部室がもらえるわけもなく、疲れた心と体を癒してくれるような部費が支給されることなど夢のまた夢なのであった。一応、日々の活動報告を載せたWebサイトを作り、SNSを使ってまで宣伝もしているのだが、効果は推して知るべしである。

 要するに〝湯乃原高校ギルド〟とは、三人の女子高生が適当に集まって、放課後の校庭やら街の片隅でかしましく遊んでいるだけの単なる女子会なのだった。


小夜さよーっ、修行に行くぞーっ」

「だから〝修行〟ってやめようよっ、言葉の響きが汗臭いよっ」

 部長、もといギルド長の夏菜は放課後になると、隣のクラスにいる私を呼びに来る。

「〝練習〟じゃ雰囲気がでないだろっ」

 体育会系の夏菜は騎士をやっているが、おそらくアニメの見過ぎではないかと思う。しかし、剣を振り回すのが大好きな女子高生って世間的にどうなのだろう。


「うちら女子高生なんやから、可憐かれんに舞わんとあかんでっ」

 魔法使いの恋紋れもんは、ファイヤードロップで炎の妖精の舞を踊り、危うく自宅を燃やしかけたことがあるそうだ。以来、彼女の家庭では火の魔法は禁呪となっているのだが、そもそも〝マジ何とか〟を禁止にしない親の判断ミスは、いつの日か一家に不幸をもたらすと予想される。

「うちは氷の魔女になるんやっ」

 恋紋が方向転換をしたのは評価するが、この一月の真冬の真っ只中に、雪や氷を撒き散らされる周りの迷惑も考えて欲しいものだ。しかも、たまに詠唱を失敗すると局地的に雨が降るので尚更である。


「よーし、今日は一度にたくさん出してくれっ」

「小夜ちゃんっ、手加減はいらんで!」

 かく言う私は召喚術師をやっている。

 私は子供の頃から運動が苦手なので〝自分の代わりに修行をしてくれる可愛いペットでもいればいいなー〟ぐらいに思ったのが失敗だった。出せるのは今のところ、ツノが生えた蛙と頭が二つの蛇、そして体が細長い蜂だけであり、どうやっても猫とか犬とか、人類に人気のある動物は姿どころか影も形も現れない。


「えいっっっ!」

 意識を集中して適当に杖を振ると、これらの召喚生物は勝手にどこからか湧いて出てくる。

 お察しの通り、ある程度は操ることができてしまうので、夏菜と恋紋にとっては都合のいい修行のための動く的であり、私の魔力が尽きるまで二人の剣と魔法による攻撃を相手にする愛玩動物以前の生贄いけにえなのだった。

「小夜ーっ、そろそろドラゴンぐらい召喚してくれよー」

「無茶言わないでよっ」

「虎でもええでーっ」

 どうせなら、恐竜でも呼び出して二人をアッと言わせたいものである。


【マジユニ魔物図鑑】

 《角蛙つのがえる

 螺旋状の一本角を頭に生やした蛙。角はコイルになっており、放電による攻撃が得意。通常は数匹で横に並んで飛びかかってくるが、直線状に連なると電圧が上がるため危険である。1匹で1.5ボルトの電圧を持つので、実は乾電池の代用が可能。


 《双頭の白蛇》

 毒と血清をそれぞれ別の頭に持つアルビノの蛇。左右のどちらが毒を持つのかランダムであるため、噛まれるなら両方同時がお薦め。


 《筆蜂ふでばち

 体がとても細長く、脚とはねが無ければ鉛筆にしか見えない蜂。芯にあたる針はあまりに太すぎて深く刺さらないが、見た目には痛い。針を刺す度に体が短くなっていくのはお約束である。実際に文字を書くことはできない。

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