転生剣王、身分を隠して城下町でこっそり人助けをする~転生先の王族生活が不自由なので、聖女と一緒に「この紋章が目に入らぬか!」をして悪党から人々を救います~

永菜葉一

第1話 俺、転生したら『剣の王』でした

 あー、死んだなぁ……。


 どこか他人事のように、俺は意識の片隅でそう思った。

 まあ程々に生きたし、程々に苦しまずに人生を終えられたと思う。


 はてさて、死んだら一体どうなるんだろうか。

 死後の世界なんてものがあるのか、それともこのまま意識が霧のように消えていくのか、あとは神のみぞ知るってとこか。


 そんな思考をしてから、どれほどの時間が経っただろうか。

 あるいは時間なんてまったく過ぎてなかったのかもしれない。


 唐突に赤ん坊の泣き声が聞こえてきた。


 どこだ?

 どこで泣いてるんだ?


「おー、よしよし、元気がいいな。さすが我が息子だ」

「ふふふ、あなたったら。頬が緩み過ぎですわよ」


 ふいに視界に2人の人物が映った。


 王冠のようなものを被った男性。

 ティアラのようなものをつけた女性。


 2人は嬉しそうな顔で俺の顔を覗き込んでいる。なんとなく雰囲気でわかった。これは我が子を見つめる、親の顔だ。


 ……ん? 親?

 その親が……俺の顔を覗き込んでる?


 はっと気づいた。

 さっきから聞こえている、赤ん坊の声。

 これは……俺の声だ。


 マジか。

 死んだと思った矢先、どうやら俺は赤ん坊に転生したらしい。


「よしよし、息子よ。もうすぐ大臣が来るからな?」

「もう少しだけ良い子で待っているのですよ、レオ」


 レオ、というのが俺の名前らしい。

 両親の服装もまったく日本っぽくない。

 おそらくはファンタジー的な世界なのだろう。


 そうか、そういう世界に転生したのか。

 じゃあこれからどう生きようかな。


 せっかくだからやっぱり冒険者とかやるのが楽しいだろうか?


 世界中のダンジョンを巡って、気ままな冒険ライフ。いいね、すごくいい。想像したらワクワクしてきた。


 そんなことを考えていたら、ふいに部屋の扉が開く音がした。


「陛下! お待たせ致しました……っ」

「おお、大臣。待っていたぞ」


 呼ばれて振り向いたのは、俺の父親。

 ん?

 陛下ってなんだ?

 あ、そういえば俺のお父さん……王冠みたいなもの被ってる。


 え、嘘だろ?

 おいおい、まさか……。


 混乱していると、大臣と呼ばれた中年男性が俺を覗き込んできた。


「これはこれは元気があってよいですな。きっと強い子に育ちますぞ。期待しておりますからな、レオ王子」


 王子……!

 冗談だろ!?

 俺、王子なんてガラじゃないんだけど!?


「それで大臣、預言の結果はどうだった?」

「はっ、そうでございました。預言者によりますと、レオ王子はいずれ――この世の邪悪を斬り伏せる、『つるぎの王』になるとのことです!」

「おお……っ」

「まあ……っ」


 ええーっ!


 両親が歓喜の声を上げるなか、俺は唖然としてしまった。いやいや勘弁してくれよ……。


「素晴らしい! さすがは我が息子、王国の第一王位継承者だ。同じ時期に生まれた大神官の娘は『聖女』になると預言されたという。『剣の王』と『聖女』がいれば、我がフェリックス王国は安泰だ」

「良かったわねぇ、レオ。わたくしたちも鼻が高いわ」


 いやお父さん、お母さん。

 俺は自由な冒険者になりたいんだけども……。


 この世の邪悪とか知らんし、『剣の王』とかなりたくない。しかし赤ん坊の身では抗議の一つも言えなかった。


 とは言いつつ、将来、なんだかんだで『フェリックスの剣王』と呼ばれ、幾多の悪を斬り伏せる――そんな俺はこうして産声を上げたのでした。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

こんにちは!

初日なので今日中に16話まで更新します。

良かったらお付き合い下さいませ。

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