新美南吉 ごん狐 考察

 小学校の国語の教科書にも載っている有名な日本童話です。読んで覚えていらっしゃる方も多いのではないかと思います。


 いたずらをして村の人達を困らせていたごん狐の心境の移り変わりが、易しく分かりやすい言葉で書かれている部分が主になるのではないかと読み取りました。ごんは、兵十のはりきり網を使った漁の邪魔をしますが、兵十の家から彼の母親の葬式が出るのを見て、なぜ兵十が漁をしていたのかを考え、自分のしたいたずらを後悔することになります。床に臥せった母親が最後にうなぎが食べたいという望みをごんは妨げたのです。


 ここでごんの心の変化があります。兵十と兵十の母親に悪いことをした、という人間らしい良心の呵責がそれです。恐らくですが、作者の新美南吉もごんがしたほどではないでしょうが、他者に対してすまないことをしたという過去の経験があって、それを重ね合わせることによって、この部分を書くことができたのではないかと考えます。新美の人間的な良心を感じ、また私がもつ良心の呵責も思い起こされ、非常に共感できる描写部分でした。


 また、ごんは自分と同じく一人きりとなった兵十に上述の出来事がきっかけで同情の念をいだき、自分ができる限りのこととして、栗や松茸などの食べ物を兵十の所へ持っていくようになります。ですが、兵十はいたずら狐のごんがそんなことをしてくれているとは思いません。そのすれ違いの結果、ごんが兵十の家に栗を持っていったある日、兵十は火縄銃でごんを撃ってしまいます。そこでようやく、ごんが栗を持ってきてくれていたのに気づくことができます。人と人でも気持ちや感覚のすれ違いで、相手に対して取り返しのつかないことをしてしまったということはよくあります。人間同士では言葉や表情である程度の心情が伝わるため、ごん狐の最後までのようなことになるのはまれですが、人と狐の対比中でそれぞれの心情のすれ違いを書くことで、この童話を読んだ多くの人々に強烈な印象を与え、なぜこんなことになったのだろうと考えさせていると感じられます。


 童話として、読んだ子供達に相手のことを思い考える気持ちを育て、人間性のある心を芽生え成長させる作品だと思います。

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