第三話「監視映像」

 私は某所にある雑居ビルでいわゆる夜間警備の仕事をしていたんですが、まぁ……そこが過去に何回も事故や自殺などがあったかなり曰く付きの場所でして。「火災や自殺で亡くなった人の幽霊が出る」とか「エレベーターから異界に飛ばされる」とか「そもそも事故や自殺が多発するのはビル自体が呪われているからだ」とか、その界隈の人たちが喜んで喰いつきそうな噂で溢れているようなビルだったんです。で、実際に深夜そこで働いていた人間から見てどうなのかというと……噂の真偽はさておいて、そういう類のおかしな現象というのは正直言ってもう普通に起きちゃってたんですよね。

 特に監視カメラのモニターなんか怪奇現象の宝庫ですよ。ポルターガイストなんか当たり前。幽霊かなんだか知りませんが、そこにいない人や変な影みたいなのが映ったりするのもしょっちゅうです。最初の方こそ物凄く怖かったんですが、何ヶ月かそういう環境にいると何というか……嫌でも慣れてしまうんですよ。次第に何とも思わなくなって、勝手に鳴り出した警報器なんかを事務的に確認して止めに行ったり、最終的には「今日はずいぶん騒がしいな」と一緒に仕事をしている同僚と軽く鼻で笑って済ます程度には感覚が麻痺していました。






 ……ただ一度だけ、本当に笑えない事が起きました。


 その日も、いつもと同じように同僚と監視モニターを眺めていたんです。それで4階の廊下のモニターから変な雑音がしたので目をやると、今監視室で一緒にいる同僚が映ってるんです。「今日はすごいの来たな」って、これはいいネタになると思って「見てみろよ、お前映ってるぞ」って反対側のデスクの同僚に声をかけながら振り返ったんです。そうしたら











 今この瞬間までいたはずの同僚がいなくなっていました。


 私は驚いてモニターに視線を戻しました。画面の中の同僚は何をするでもなく、ただ立っていました。でも最初に聞こえた雑音が、だんだん悲鳴みたいな音に変わっていって。どうすべきか迷っているうちに、その同僚は立った姿勢で、ぴくりとも動かないまま。











 ふっと、消えました。




 私はとてつもなく嫌な予感がして、急いで4階の廊下にいきました。しかし、そこにも同僚はいませんでした。もちろん監視室に戻っても、いませんでした。











 同僚は、そのまま行方不明となりました。






 今でも遺体はおろか痕跡すらも、見つかっていません。

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