第4話 ロス・ルーラ、ハーゲルに着く

【前話までのあらすじ】

護衛の報酬に魔法使いライスに食事をご馳走するロス。しかし、突然、食堂に踏み込んだ衛兵にライスは逮捕されてしまう。この国の領主の孫娘リジ・コーグレンの髪の毛を焦がしたことでの殺人未遂だ。連行されるライスに『俺が何とかする』と約束するロスだった。

◇◇◇


【本編】


 ロス・ルーラは馬車に乗りそのまま中央都市ハーゲルに向かった。


 翌日、果樹園に帰れるかは不明だったが、そんな時の為にロスは農作業用の納屋に緊急用メイド式紙しきがみを張っていた。


 1日、2日くらいの留守なら式紙で召喚されるメイドたちが農作業を行ってくれるのだ。 


 郊外とはいえブレンは経済的に発展した街である。そのため、中央都市とは直線の道でつながれていた。


 おかげでロスの馬車でも1時間ほどでハーゲルに到着することができた。


 中央都市ハーゲルは高さ5mの防壁に囲まれており、東西南北に門がある。


 ロスが着いた南門には門番が2人、壁の上に2人の弓兵がいた。


 「止まれ。どこから、何の用で来たかを言え」


 「私はここより南東、オレブの森の先で果樹園をしているものです」


 「おおっ! 知ってるぞ。『ロスのすごい果樹園』だな。ならばお前がロスか?」


 「はい。そうでございます」


 「うちの家族はお前の所の果実が一番うまいと言って、それ以外は食べないんだ」


 「ありがとうございます」


 「で、その果樹園を経営しているお前が、とばりが降りる頃に何の用だ?」


 「はい。実は来期に新たな果実を作ろうと思っております。その育成とハーゲルでの販売許可を中央裁定所に届け出ようと思いまして」


 「おおっ、それは凄いな。だが、なぜこんな時間に? 夜になれば門が閉まり街より外へは出られないぞ」


 「はい、だからこそでございます。昼は多くの許可申請や申立てに、流れ作業のように目を通すのが裁定所の仕事。しかし、最終の書類ならば、良い吟味もしていただけると思いまして」


 「ほぅ、考えたな。がんばれよ。お前の果樹園の新作が入れば子供たちも喜ぶしな」


 「はい」


 門番が果樹園のファンで助かった。おかげでロスは警戒が強くなる夜に街に入ることが出来た。実はこの夕方の時間、よそ者が街の中へ入れることはほとんどないのだ。


 人通りの少ない裏通りに入ると、懐からメイド式紙を1枚取り出し、ロスは自分の息を吹きかけた。


 式紙はヘッドドレスに変化し、そこからメイドが現れた。


 「何なりとお申し付けください。ご主人様」


 「お前は朝までにライスの居所を探してくれ」


 「はっ、かしこまりました」


 メイドは街に残るライスの魔素をたどって、大通りへ向かった。


 そしてロスはコーグレン中央裁定所へ向かう。


 裁定所の中央広場の時計には、その日の異議・認可の申請受付の残り時間が表示されていた。


 残り時間、約18分。


 受付の横にある書類を持って記入しようとしたが、これが法律の専門語で埋め尽くされている。


 ロスは多くの経験から博識であったが、法律的なことに関しては全くの素人だった。


 出来れば今日の内に「異議申し立て書」は提出しておきたかった。


 なぜならばライスの容疑は斬首刑もあり得る殺人未遂罪だ。


 一日遅れることで、異議申し立てがないものとして即刻、刑が執行されてしまう場合もあるのだ。


 ロスはトイレへ行くと個室で式紙を一枚取り出した。


 そして頭で法律家をイメージして息を吹きかける。


 式紙はボウラーハットにメガネ、白シャツにベストを着た男へ変化した。


 『わたくしにお任せください。さ、急ぎましょう』と、法律家がペンを持つとまるで速記者も顔負けの速さで書類の項目を埋めていく。


 締め切り5分前に何とか受付を通すことが出来た。


 中央裁定所を後にすると、ロスは裏通りの少しさびれた場所に宿をとった。


 —コンコン とドアをたたく音がした。


 メイドが帰って来たと思ったロスはドアを開けたが、そこには全く見たことがない若い女性と中年の女性が立っていた。


 『良い夜はいかがですか?』


 「悪いね。これで夜食でも食べてよ」


 ロスは角が立たないように少し多めの金を包んで2人を追い返した。


 『やれ、やれ..』ため息をつきながら玄関から部屋に戻ると..

 

 「うっわ!」


 「いかがなさいましたか? ご主人様」


 そりゃそうだ。式紙であるメイドが玄関から入るとは限らないのだ。


 「一応言っておく、次回からはなるべく玄関から入ってくれないか?」


 「はい。申し訳ございません」


 メイドの話によるとライスは現在、魔素封じの首輪をはめられて投獄されているという。


 「場所はどこだ」


 「はい、闘技場地下の牢屋でございます」


 「なるほど..斬首刑ではなく、もっと残酷な殺し合いをさせようというわけか..」


 だが、闘技場にいるということはロスの異議申し立ての内容が有利に働く可能性があった。


 ロスは、ほくそ笑んでいた。

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