【イベント2】地下牢イベント
「普通そこは提示された各証拠を全部論破してザマァするシーンだヌミョ! リズは何を考えてるヌミョ!!」
そんな抗議の声が聞こえるが取り敢えず無視。
アタシは冷たくカビ臭い石壁にもたれかかりながら、新しい煙草に火をつけて、プカリと煙を吐き出した。
地下牢にブチ込まれた。
ポケットに入れてた煙草は取り上げられたけど、服の中に隠していた煙草は見つからなかった。想定通り。
「いや、アタシは早くエンド迎えて現実世界に帰りたいんだよ。だからこのままでいいの。
っていうか、リズってキャラの愛称で呼ぶな。
こちとら、両親が悩んでつけてくれた『よし子』って名前があんだよ」
煙草をくゆらすアタシの周りを、金色のバレーボール大の身体につぶらな目口が付いた意味不明な生き物が、不可思議な力でクルクル飛び回っていた。
……前に取り込まれた乙女ゲームのナビキャラ・
このシリーズの乙女ゲーム、ナビキャラのデザイン統一してんのかなぁ。
こいつは
しかも、コイツも動くとやっぱり『みょいん、みょいん』音がする。クッソうぜぇ演出……ッ!
「リズ──よし子は、ゲーム世界に取り込まれるのは初めてじゃないヌミョね?」
「そうだよ。二回目。前は『ディザイア学園』っていう学園モノね。今回は……? なんだっけ?」
「『荒波の
「なんか、演歌みたいな名前だって事は覚えてたよ?
そうそう。なんかゲーム友達に面白いからって押し付けられてさ。アレでしょ? 最近流行りの『悪役令嬢モノ』なんでしょ?」
「そんな
「大丈夫だって。概要は理解してるよ! アレでしょ? 無実の罪で告発されたところを、論破してザマァするストーリーでしょ?」
「そこまで分かってて、なんでさっき論破しなかったヌミョ?!」
「え。だってストーリー進める気ないもん」
「ないヌミョか?!」
やだ。なんか、低反発なのに生暖かいから気持ち悪い……
「だって早く帰りたいんだもん。さっきも言ったけどさ。顔だけ男が四人も家でアタシの帰り待ってるんだって! 稼がないとすぐに路頭に迷うほど
一人に至っては皿洗いした皿漏れなく全部割るぐらい不器用なんだよ?! もうどんだけ食器買い足したか忘れたわ!!
ムカついたからアイツの皿や器は全部子供用のプラ製にしてやったわ!!」
「そんな存在価値が
「仕方ないじゃん! 私がゲーム世界から連れ帰っちゃったんだから放り出せないでしょ! 終生飼育は基本中の基本だし、面倒見るって決めちまったからさァ!!
まぁ八回ぐらい外に叩き出した事はあるけど!!」
「情に厚いスパルタだヌミョね……」
ゲンナリした顔でアタシから離れた
「まぁお前の主張は分かったヌミョ。
でも、このゲームは前のゲームと違って『転生』してる設定ヌミョから、『現実に戻るエンド』が公式に存在しないヌミョ」
「はァァァ?!」
聞いてない! そんな設定聞いてない!!
「フッざけんなコラァ! 二回もゲーム世界に取り込まれたと思ったら今度は帰る方法がないだと?! そんな詰み設定アリかよ?!」
アタシは
「やめるヌミョっ……! 中身出るヌミョ!」
「この際中身も何もかも全部ブチまけとけ!!」
「種とか内臓とか結構グロいヌミョよっ!」
「……種とか内臓、あるんだ」
種と内臓が同居するコイツの体内ってどうなってんの? レントゲンかCTでその状態確認してみたいなぁ。いや、興味本位だけど。そういえば骨とかあるのかなぁ。触った感じなさそうだよなぁ。甲殻類的な構造してんのかなぁ……
ただ、アタシは手を離してあげた。流石にぶち撒けられた
「……でもアンタ、言ったよね?『現実に戻るエンド』は公式には存在しないって」
アタシはさっき
『公式には』と言ったという事は、非公式には存在する、という事だ。
「うッ……」
アタシのツッコミに、
その青と金の境目が、もしかして顔と身体の境界だったりするの???
以前から滅茶苦茶気にはなってたんだけどさ。
顔に手足がついてんの? 身体に目口がついてんの? どっちなの???
「『現実に戻るエンド』は……あるにはあるヌミョ……」
アタシが余計な事を考えている間に、鉄格子前の
「『世界観が壊れるし乙女たちはそんなの求めてない』と、実装されたけどルートに入る為のフラグを消されたエンドだヌミョ」
メッチャ溜めた言い方すんなぁ。何、その、微妙にゆっくりと喋る、間。
実装されたけど消されたルートとかさ、よく聞くじゃん。
アレっしょ? 開発
アタシも時々乙女ゲームで見るよ。「あれ? コンプリートしたのに開いてないヤツ、これなんだ?」ってモノ。
特に演出動画とかに。あれ? これ、何? ってのが残った状態だったり、するよね?
だから、別に普通の話なんじゃないの???
「……でも、
なんだよ、その深刻な顔。眉毛ないのに眉毛らしき場所を寄せてるから、メッチャ不細工になってんぞ。
まぁ、なんか世知辛いゲーム会社の裏事情はこの際だから無視しつつ、妙に甲高いダミ声なのに、真剣なトーンで喋られてなんかそのギャップに笑いそうになったがなんとか我慢して、アタシもゆっくり頷いた。
「やってやろうじゃん」
アタシは煙草を床に押し付けて揉み消して立ち上がる。
と、その時──
地下牢に、コツコツというゆっくりとした足音がこだました。
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