第23話
6. 死の南の城
冬は長かったけど、待つのはもう辛くなかった。
雪が溶けて夏の日差しが戻った日、私は白様と黒様と一緒に、南の踊り子城に向かった。
硯に会えるのが嬉しくて、あの霙の日よりもっと早く走ってた。
でも、お城についてみると様子が変だった。煙突から煙が出てないの。火を焚いた様子が全くなくて、城中冷たく、凍りついてた。
踊り子たちのいる暖房部屋の扉は、外から閂がしてあって、冷え切っていた。
踊り子たちは本当に弱くて、寒い日にうっかりドアを開けた隙間風だけで割れてしまうから、春になるまで開けられないようにそうなっていたの。
私、恐る恐る開けてみた。
そうしたら……中には誰もいなくて、たくさんの塵がうず高く積もってたの。
全部前の夏中、一緒に踊った踊り子仲間の砕けて死んだ塵だった。
私、世界が壊れるかと思うほどの悲鳴をあげた。必死で城中硯を探した。
そうして、この切り株の薪割りの斧の横に、真っ黒な塵の塊が半分溶けた雪に混じって山になってたのを見つけたの。
一冬中思い続けて再会を待ちわびていた硯は、冬の初めにとっくに死んでいた。
火を焚べる人のない暖房部屋に閉じ込められて、踊り子たちは凍えてみんな死んでいった。斧の頭には強く打ち付けた跡と、硯の黒い塵がついてた。
『私のせいだ。硯は私に嫌われたと思って、絶望して死んだんだ。踊り子たちを道連れにして、全ての責任を投げ出して、私を置いていなくなってしまったんだ』
その時から、私の高台は固まって二度と動かなくなり、踊れなくなった。
あの硯の似姿は、黒様が私を慰めるために、硯の塵を集めて作ってくれたの。だれも硯の魂の色が、何色だったか見てない。でも、私は群青色だったと信じて、硯の生き直しを待って、墓場で何ヶ月も蹲っていた。
でも、白様は言ったの。
『一体いつまでそうしているの! 踊り子達はどんどん新しく産まれてるの。この子達を殺していいの。それで硯は喜ぶの?』
私が墓場で蹲っている間に、同じ数だけ新しい踊り子が産まれていた。白様は、その間ずっとその子たちを訓練して、お城に薪を積み上げてくれてたの。
『さあ、踊り子姉さんのオオジロ。後はあなたの仕事よ』
それ以来七十年、私はこの城で踊り子たちを守って暮らしてる。硯の生き直しを待ちながらね。薪を割り終わったら、そろそろ帰りなさい。日が暮れるわよ」
オオジロの昔話は終わった
◇
五つ窪みは、薪をわりおわると、大急ぎで北山に帰った。
「オオジロ様大好き。黒ってみんなを引き立てるいい色なんだ」
早く鋼に報告したかった。だから西日の作る黒い大きな影も、もうあまり怖くなかった。
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