招待どうしよう?

 今度は豪華な宝石の首飾りと指輪、そしてお茶会へのお誘いの手紙。

 明らかに、七歳になったばかりの少女へ贈る品じゃない。


 困った。


 これは流石に独断ですべきではない。すぐにでも侯爵に意見を求めようと、宮殿に出仕してる侯爵へ面会申し入れる。出来る限り早くお耳に入れておくべきだろう。

 が、またも仕事で忙しいからと、執事に門前払いされた。伝言すら預かってくれない。


 困った。


 ディナーの時間まで待つか?いや、少しでも、一刻でも早く、報告しておきたい。責任は上に放り投げておくもんだ。

 いつになるか分からないが帰宅されるのを待とう、と門前に腰を下ろして待機する。幸いいい天気だし、わたしには時間はたっぷりある。



 二時間ほどして、次兄が学園から帰宅してきた。侯爵邸は王都に構えているため、兄は寮ではなく通いで通学している。


 何をしているの?とにこやかな顔して、でも笑っていない目で問い詰めてくる。フェアネスの異物が奇怪な事をしているのだ。とがめねばなるまい。

 ……のに対し、事情を説明する。

 侯爵家令嬢としてどう動けば家門にとって利益があるか、指示して欲しい。

「馬鹿なわたくしでは判断がつきかねますので」

 わたしはフェアネス家の操り人形。言われた通りのことだけはちゃんとやりますよ。あなた達の不利益になる事はいたしません。

(━━わたし自身が、生き残っていくためにね)



 確かに、これだけ高価な宝飾品を王太子側から贈られておいて、突き返すのも礼を失っする。かといって、貰って取り込まれるのもまずい。


「キミはまだ候補とはいえ、王太子の婚約者だ、招待されておいた方がいいだろう。それに王太子側はウチと仲良くしたいと思っているから、急にそんな無茶はしないと思うよ」

 侯爵家を後ろ盾にしたいと考えている事は、当然フェアネス家も把握している。それをなるべく敬遠するための、アンネセサリーなのだ。

 だから断る理由を考えてくれ、と話を振ったつもりだったのに、次兄は夢の中で見たほどには優秀ではないみたいだ。



 というかそもそも、

「わたくしにお茶会参加は無理ですわ。着ていくドレスがございませんので」

 だから侯爵家の方から上手く断れるよう手を回して欲しい、と次兄にも分かるよう暗にほのめかす。

 そしたら次兄は変なことに食いついた。


「そんなはずは無いだろう、侯爵家令嬢だぞ?」

 心底驚いたように言う。

 本気で言ってるのか?だったら呆れる。嫌味なら、手が込んでる。

「着まわしの一着だけならありますが、それは前回の王太子殿下との顔合わせで着てしまっております。なので、使えません」


 あぁそうか、だから夢の時のわたしは、王太子から贈られた布で喜んでドレスを仕立てたのね。

 納得。



「父から贈られていないのか?」

「ないですよ、必要ないでしょ?」

 あっさり言うと、次兄は絶句していた。何で知らないんだ?と不思議だったが、思い返してみれば確かに、何かのイベント事で次兄と同席する事はほとんど無かった。加えてわたしに興味も無かったろう。わたしの一張羅のドレスを知っているわけがない。



「……分かった、ボクが用立てよう。学生の身だが、妹にドレスを着せるくらいの稼ぎはある」

 こめかみをグリグリとしながら、絞るような声で言った。

「あら、それなら、わたしより侍女のドレスを御願い出来ませんでしょうか?従者をひとり連れてきてもよい、と招待状にあります。他の参加者の方々も、同じく保護者を連れてこられるでしょう。もしかしたら、彼女に良縁を世話できるかもしれませんわ」

 アビゲイルという侍女はあまり質のいい侍女ではないが、年頃の令嬢として伴侶を得る機会は適切に与えられるべきだ。このお茶会に招かれる上級貴族の公達たちの従者なら、それなりの身分の若者がくるかもしれない。


「う~ん…、それはどうだろうか?曲がりなりにも王家の招待に、あのメイドは相応しくないだろう?」

 フェアネスの体裁もある。アレを表に出してもいいものだろうか、と瞬間悩んだ次兄が、チラリとこちらに目をやってきた。


(わたし自身がフェアネスの恥扱いだもんね)


 いまさら侍女が相応しくないうんぬん言い出すなど、片腹痛い。



「そう言われましても、わたくしには彼女しか居ませんから。彼女を連れて行くなというのであれば、招待自体をお断りします」

「……わかった、用意させよう。父上にも話を通しておこう」

 はぁっ、とため息をひとつ、髪をくしゃっとかき上げて約束してくれた。

「ありがとうございます」

(次兄はもともと無関心なひとだったのに、妙に親切ね。まぁ利用出来るなら利用させてもらうだけだけど)


 ルン♪と思わず鼻歌が漏れた。





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