夕食

 ダイニングには、実母と双子の弟妹が座っていた。よく動く二人の世話で忙しいのか、母はわたしの方を一度として見ない。

 父と兄二人は、まだ来ていない。


 自分の席につこうとしたが、カテラリーが用意されていなかった。

(食べに来るとは思わなかったのね)

 座り、机をコンコンと指で叩く。

 侍女や執事は、あからさまに気づかないふりをした。


(まぁいいわ)

 最悪手掴みで食べればいい。石牢での生活で慣れてる。

 と、そのまま放っといたら、妹が、

「おねえさま、おなかいたいのだいじょぶなりましたか?」

 と舌足らずに訊いてきたので、ニッコリ笑い返しておいた。


 さすがにこの家の(正真正銘の)令嬢が反応した相手を見えないふりは出来ない様子で、執事は仕方なくという感じで、わたしの前に食器を並べる。

 母はまだ、こちらを一瞥もしない。



 父と兄たちが仕事を終えたのか、一緒に入ってきて、椅子に座った。

 わたしの隣りに座った次兄が「もう体調は良くなったかい?」と小声で耳打ちしてくれたので、お陰様でと応えておいた。


 食事が始まると、おしゃべりに花が咲いた。といっても、父から明日の家族の予定、仕事や取り引きの情報共有、が主だったが。いくつか耳にして、(なるほどね、)と思うところもある。あっちとこっちがこの後こういう風にして繋がるのか。

 二人の兄は父の話にうなづき意見を言ったりするが、双子は相変わらずつまらないのか、母を挟んで言い争いしたり目の前の料理をむさぼったりと、行儀が悪い。


 わたしもマナーうんぬんは苦手だけれど、夢の中でなんとなくある程度経験したためか、双子の振る舞いが鼻につく。

(あぁ、こういう事なんだな、礼儀作法のなってない無作法な庶民を嫌悪してしまう感覚は)

 カチャカチャ食器を鳴らしたり音を立ててスープをすする弟妹の雑さに、眉をひそめる。

 まぁここは公式の場でもなんでもなく家族の中の食事の席なのだから、賑やかに美味しく食べれたらそれでいいのだけれど。


 なるべく二人を無視して、ツッと料理にナイフを入れ、口に運ぶ。

 わたしを軽視してるわりに料理はマトモなのを用意してるあたり、我が家の使用人たちはまぁ、その程度で可愛いもんだな。

 雑巾の搾り汁くらいは入れられてるかもしんないけど、夢の最後の幽閉されてた塔での半分以上腐った食事と比べて、なんと贅沢なことか。


 この家族と顔を突き合わせるのは億劫だけど、さっさと自分の分だけ食ってしまえばいいや、と慎ましやかに口元を拭いていたら、母と目が合った。



 まるで今いきなり、無からわたしが現れたのを見て驚いたかのように目を見開き、ナイフを持つ手を止めている。

(なんだ、双子の世話に夢中でホントにわたしが来たの気づいてなかったのか、この畜生腹)

 どうでもいいが。


 とにかくちゃっちゃと自分の分を食べ終わり、まだ議論を戦わせている父兄たちへ挨拶して席を立った。

「ではわたくしはお先に失礼いたします、ご機嫌よう」

 美味しかった夕食に満足し、鼻歌混じりで気分良く自室に戻った。





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