第48話 沼を渡る方法
その後は鎖に襲われなかった。先に進んでなだらかな山の頂上へ登った。前方はすり鉢状の下り坂になっていて、遠くに沼が見える。
「沼の中央に島があるよね。塔が建っているから数えの塔かもしれない」
「数えの塔なら嬉しいです。足の疲れも限界に近いです」
「塔が見えるにゃ。数えの塔と思うにゃ。急ぐにゃ」
ロクヨちゃんが先頭で走り出したのは、キリリキくんが気になるからだと思う。綾音ちゃんを連れてあとを追って、わた雲さんも並んで着いてきた。
沼の近くで立ち止まると塔がよく見える。高さは言葉の塔と同じくらいで、全体は金色で塔の形は四角形だった。表面は縦書きの文字と横書きの数字が、格子状に交わっている。
「困ったにゃ。沼全体が立ち入り禁止地帯にゃ。私には塔へ行く手段がないにゃ」
周辺を注意深く見渡すと立ち入り禁止の立て看板があった。ロクヨちゃんを置いては行けないから、何か手段を考える必要がある。
「わた雲さんは立ち入り禁止地帯へ入れるのかな」
わた雲さんは大きく膨らんだので、沼の上を通過して渡れるみたい。島までの距離は100メートルくらいで、3分もあれば充分に渡れる。私と綾音ちゃんは、わた雲さんに乗れば渡れるけれど問題はロクヨちゃんよね。
「ロクヨちゃんは、わた雲さんに乗っても駄目かな」
「上空を含めて無理にゃ。塔がある島自体は立ち入り禁止地帯と違うにゃ。島に渡れれば塔の中に入れるにゃ」
「にゃんこちゃんと別れるのは辛いです。島まで瞬間移動してほしいです」
綾音ちゃんの言葉で閃いた。ナクユならではのルールがあって今まではルールで困った場面が多かったけれど、今回は逆にルールを利用できる。
「いつでもロクヨちゃんは私の近くに出現できるのよね」
「ナクユでも人間の世界でも可能にゃ。何処にでも現れられるにゃ」
「最初に私が島へ移動して、渡り終えたら私の横に出現はできるかな」
「見えている範囲は無理にゃ。目隠しでも近いと無理にゃ。山頂の向こう側に行けば見えないにゃ。でも時間がかかるにゃ。」
考えはよかったけれど、最後の理詰めで失敗した感じね。パズルと同様に発想を変える要領でルールをもう一度思い浮かべる。近くが駄目なら単純な方法があった。
「移動時間が勿体ないかな。ロクヨちゃんがナンバープレース国に戻れるのなら、場所は離れるよね。私が島に着いて合図したら戻ってくる。立ち入り禁止地帯に入らなくて済みそうね」
「その方法なら平気にゃ。美奈さんは凄いにゃ。沼を渡り終わったらナユクのジュエリーを思い浮かべるにゃ。私はこちらに戻れるにゃ」
島へ渡る方法が決まってロクヨちゃんは手を振って姿を消した。
「わた雲さん、お願いよ。私たちを乗せて島まで移動してね」
わた雲さんが大きく膨らんだ。地面すれすれまで下がってくれたので、私と綾音ちゃんは急いで飛び乗る。スポンジと同じで弾力性があって、動き出した後も震動を吸収してくれるので乗りやすかった。
沼の水は景色と同じ灰色で、深さは確認できない。
わた雲さんの上は広くて落ちる心配はなさそう。1分と経たずに島へ到着した。無事に渡れたので、ナクユのジュエリーを頭の中に思い浮かべる。手の中にナクユのジュエリーが現れて、ここまでは元の世界へ戻る方法と同じだった。
「にゃんこちゃんです。戻ってきました。よかったです」
ロクヨちゃんが姿を見せたので胸を撫でおろした。
「お待たせにゃ。美奈さんの考えで合っていたにゃ」
「無事に成功してよかった。気を引き締めて塔に行きましょう」
塔の中にキリリキくんがいるかもしれない。塔の入口には両開きの大きな扉が付いていて、扉の上には見慣れない文字が刻まれている。
「数えの塔にゃ。パズルを解かないと中に入れないにゃ」
ロクヨちゃんは扉の上を見て発言したので、ロクヨちゃんには読めるみたい。
「どのパズルでも解くよ。綾音ちゃんもいるからパズルなら誰にも負けない」
「扉にさわるとパズルが現れるにゃ」
右手で扉にふれると扉全体が光り出して、近くの空間がゆがんだ。徐々に空間が安定して塔の前にふたつの建物が現れる。人が入れる大きさで外から中は見えない。
「変則スケルトンにゃ。それぞれの建物に入るにゃ。協力してパズルを解くにゃ。正解すれば数えの塔に入れるにゃ」
扉の上にある文字をロクヨちゃんが読んでくれた。
ロクヨちゃんの言葉に従って、私と綾音ちゃんは別々の建物に入る。中に入ると目の前に画面があってルールが表示された。ふたりで解くために若干変わったルールだけれど、スケルトン自体は普通のルールと同じだった。
ヨコに入る言葉のみが画面に表示された。11×11のマスが書かれていて、ヒントとしてダイヤモンドとーが入っている。面白そうなパズルで普段ならパズルを楽しんでいる。でも今はキリリキくんが優先なので早く確実に解く。
マスにあるヒントを参考にして、確定できる言葉を記入する。この前に解いたお絵かきロジックと同じ感じで、タテの言葉も埋まりだす。文字数が多い言葉からマスに入って、言葉が入らないマスもわかった。確定ができそうな言葉もある。
スケルトンは理詰めで解けるパズルだから、無理にはマスに言葉を埋めない。
大きさの割に難しかったけれど私と綾音ちゃんには問題ない難易度だった。最後の言葉もマスに埋まって正解の文字が画面に表示された。自動的に建物が消えて、ロクヨちゃんと綾音ちゃんと目があった。
「書いてある文字が変わったにゃ。数えの塔の扉が開いたにゃ」
「キリリキくんがいるかも知れないから中へ入るね」
息を整えて両開きの扉を内側に押す。見た目に比べて扉は軽くて、中を見ると鮮やかな色合いだった。私が最初に中へ入って、次がロクヨちゃんと綾音ちゃんで、最後にわた雲さんが中へ進む。全員が数えの塔の中に入った。
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