第6話 ヒントの少ないパズル

 翌日の午前に東京都内の喫茶店へきた。お世話になっているパズル雑誌編集部の近くで、向かいの席には編集者の黒木くろき桐頼きりよりさんが座っている。長身でお洒落なメガネをかけていて、知的な雰囲気で実際に知的だった。年齢は年上と聞いている。


 キリリキくんとロクヨちゃんは家で留守番をしている。少人数だけれどキリリキくんとロクヨちゃんがみえる人間がいるために、念のために外出させなかった。

「先月号のオリジナルパズルは好評だった。再来月号で特集を組もうと思っているけれど、難易度別に何本かを作れるだろうか」


 どのパズルか思い出してみると、数字を使ったパズルだった。ヒント数は簡単に変更できるパズルだから難易度の調整はしやすい。

「気に入ったパズルなので好評でうれしいです。難易度の調整は平気だと思いますから、何問かできた段階で送りますね」


「今月末に進捗を教えてほしい。並戸さんは色々なオリジナルパズルを作っているけれど、いつも凄いと感心している。何か秘訣でもあるのかい」

「1番は発想の転換です。答えの雰囲気からルールを考えたりもします」

「作るのは大変そうで僕なら頭の中が混乱する。さすがは若手四天王のひとりだ」


 黒木さんが感心する理由もわかった。私は多くのオリジナルパズルを作っているけれど、パズルクリエーターの中でオリジナルパズルが得意な人はわずかしかいなかった。そのうちのひとりが私ね。


「昔からオリジナルパズルは好きでした。理詰めで解けるパズルは、パズルの作成支援ソフトを活用しています。作成支援ソフトは知り合いに作ってもらったので、とくに別解チェックには役立っています」

 ふたつ以上の答えがあると別解になってパズルとして成立しない。パズルを作ったら必ず別解がないかを確認する。作成支援ソフトがあると確認は楽になる。


「頼もしい知り合いがいるね。ただソフトで作るのに慣れすぎないでほしい。解き味が無視されやすいから、その点はわかってほしい」

「いつも黒木さんに言われています。つねに解き味を心掛けています。前に頂いた本も参考にしながらパズルを作っています」


 作成支援ソフトでは別解は発生しない。ただパズルを解く順番は調整しにくいのが大きな欠点で、極端に難しいパズルを作る場合もある。私はパズルの難易度を自由に作れるので、あくまでも作成支援ソフトは作業時間の短縮が目的だった。


「それを聞いて安心した。オリジナルパズルは他にもあるだろうか。企画のひとつとして、変わったパズルを計画している」

「考えているオリジナルパズルはありますがルールは試行錯誤中なので、もう少し先なら平気だと思います。オリジナルパズル以外でも変わっていれば平気ですか」


「通常ルールでも変わっていれば問題ない。色々な候補案を考えている」

 巨大パズルは、通常ルールでも作るのに時間がかかるから何問もできない。めったに作れないパズルは候補に入るのかな。


「ヒント数が少ないナンプレはどうですか。変わっていますよね」

「僕もその案は考えた。候補のひとつではある。ずっと前にヒントが18個のパズルを作った経験がある」

「黒木さんもパズルを作るのですか。初めて聞きました」

 驚いて聞き返した。


「簡単なパズルなら作れるけれど高難易度は無理だ。ヒントが18個のナンプレも普通くらいの難易度だった」

「それでも18個は珍しいです。見てみたいです。20個以下を何度か作ったことがあるので解き味を比べたいです」


「何処かにあったと思うから探してみる。見つかればメールで送るから、他にも変わったパズルがあれば気軽に教えてほしい。そろそろ編集部に戻る時間だから、何かあればいつものようにメールしてほしい」

 いつも黒木さんは慌ただしくしていた。

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