きりたんぽ鍋の前でだべるな

狐木花ナイリ

一.さあ、依頼内容を聞こうじゃあないか!

放課後。

恋愛部——部長の愛家まないえツクロ先輩は自信満々に言う。


「ほらどう?ちょっとエッチに見えるだろ!」

「何が''ほらどう?''なの!?全然、分からねえよ!無音でドラマ見せられて、何を感じろって!?」


深夜放送の恋愛ドラマ「ラブロマンス25」の録画を、消音モードで鑑賞させられたところで、俺が感じたのは脳内に語り掛けてくる睡魔の囁き。

あるいは、間違った鑑賞方法をしてしまっている事に対しての、ドラマ制作関係者各所への申し訳なさのみである。

音の無い世界の遊園地で語らう、顔面の整った俳優達の会話を脳内で補完しつつも。

結局のところ、生まれてきてしまう形容し難い虚無感をコーラで誤魔化しながら。

膝の上にちんまりと乗っている、俳優達に負けないぐらい顔の整ったツクロ先輩の、そのてっぺんから、にょいんと生えた桃色のアホ毛をにょんにょんしていると。

トントン、がらがら。

部室の扉が勢いよく開いた。

「私、一年C組赤花あかはなマイラですわ!恋愛相談に来ましたわ!」

絢爛豪華。丈の長いワインレッドのドレスを身に纏う長い金髪の女。

縦ロールだ。縦ロールだ。縦ロールだ。初めて見た。

しかし。

依頼者の服装。依頼内容を鑑みれば。

無音映画鑑賞よりも。願い下げたいモノだった。



先ず大前提として、恋愛部に恋愛相談に来る人間には、何か問題がある場合が多い。

何故ならば恋愛相談というのは相場、先ず親しき友人や家族にするものであり。都合の良い相談相手が居なかったとしても。

頭がおかしいことで定評の恋愛部の門を叩きに来るやつなんてのは、総じて頭がおかしい。


それと。単純に学校内で。

社交界パーティかっていうくらいの堂々たる夜会服に身を包んでいる彼女は、ちょっとおかしい。



紅花さんの挨拶を聞いて。

ツクロ先輩はニヤリと笑い。

テレビを消して。

探偵でも無いクセにデアストーカーハット探偵帽を深々と被り、サイズの合っていない栗色の大きなコートをパジャマの上から着用して。

赤花さんへと振り向き、大きく口を開く。


「私は愛家ツクロ!」


身体に比べて大きいコートが形作る──萌え袖で俺の方を指差して。


「こっちのは、助手の離鳴真友りなきまとも


目を閉じて。一拍置いて。全てを吸い込むかのような青の眼を光らせる。

平たい胸に左手を添えて、右手を外に開いたかと思えば赤花さんに向ける。


「さあ、依頼内容を聞こうじゃあないか!」














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