第24話 補修完了

その夜の宴は、盛大に続いた。

店だけではなく、通りにも人が溢れ、それぞれの家の前にテーブルを並べ、

食と酒を、大人も子供もおおいに楽しんだ。


俺は準備が整ったところでジョナサンに呼ばれ、カウンターの前へと通された。

俺から、数メートルの距離を置いてこちらを向いている人達を前に、

ジョナサンが横に立ち、チョッと長めの口上を述べ、他の世話役の音頭で、

乾杯が行われた。


世話役たちから、代わるがわる超が付く丁寧なあいさつを受け、

いいかげんうんざりしながらも、

横で満足そうに満面の笑顔のジョナサンをみてると、もう少しお付き合い

しなきゃかな、なんて思いながらも心ここにあらずというところ。


こうしている間にも、俺が目覚めるかもしれないわけで、

甲斐甲斐しく店の中を動いているレティを、焦りと無力感に苛まれながら

見つめていた。


さすがに、村人達と同じテーブルで食事というわけにもいかないらしく、

しばらくして俺はお役御免となり、部屋へと戻った。


すぐにレティが、食事と酒の用意をしてくれた。

一緒にいられるのか聞こうと思ったとき、部屋の入り口から、

ジョナサンが声をかけてきた。



「ほんの少しだけ、お邪魔させていただくことを願えませんでしょうか」



もちろん構わない、部屋へ招き入れた。

ジョナサンは椅子に座った俺と、テーブルを挟んだところまで歩を進ませ、

そこで深々と頭を垂れた。



「この度のご訪問、心より感謝申し上げます。

私共家族にとってもこの町にとっても、かけがえのない、僥倖でございました」



いえいえ、とんだボンクラだったんですから、この結果も、

あなたがた家族のおかげですよ。


俺がそう答えると、体を起こしたジョナサンの顔は、とても優しい笑顔だった。

ジョナサンに椅子をすすめ、彼は腰掛けるとこう言った。



「全く貴方様というお方は。

誠に僭越ながら、貴方様とこうしていると、本当に家族といるような、

そんな心持になります」



それで結構ですよ、なんせレティとわたくし、もう、すでに、気持ちは

通じ合っておりますから、キスもいたしておりますよ。

あなたのことを、おじいさまとお呼びしてもよいはずです、ねえレティ。

もちろん、心の中でのつぶやきでございます。


俺も、自分が現世をという存在だと、初めて知ったのがここでよかった、

と感謝を伝えた。



「貴方様がお越しになった、初めての夜、この町に、そして私共に

起きたことをお話したことを、覚えていらっしゃいますでしょうか」



俺は、頷いた。



「時もすでに20年ほど経っており、町の者も私共家族も、

もちろん忘れることはありませんが、前向きに生きようと、

懸命に努力して過ごして参りました。」



俺は黙ってジョナサンの話を聞いた。



「小さかったレティも、もうこうして大人になって、家や町のことに、

いろいろ尽くしてくれるようになりました」



うむ、立派に成長したことは、わたくしもよ~く存じておりますぞ。



「それでも、懸命に生きても、そうすればそうするほどあの日のことが、

胸に刺さった棘のように、ずっとその痛みを消せぬまま、

日々を過ごしているのです」



俺はレティに目を移した。


彼女はテーブルの準備を整え終わり、ベッドに腰かけていたが、

今はうつむいているので表情は分からない。

でも、座った脚の上に組んだ手は、ギュッと握りしめられている。



「ところが、貴方様がお見えになったあの日から、その胸の痛みが、

すうッと引いたような和らいだような、

そのような心持ちが、毎日続いておるのです。

私だけかと思い、家の者や町の者にも尋ねてみました」


「私同様、貴方様にずっと接していた家族はもちろん、

パン屋夫婦も、町であなた様を見かけていた者も、今日、作業に参加した者も、

皆、言われてみれば、そのような心持ちだと申しております」



それはないんじゃないかと、思うんですけど。

たぶん、気のせいじゃないんでしょうか。

そんな癒し能力まで発揮しだしたら、それはいよいよチートモード突入でしょう。

俺は、チートモードはのぞいたところを伝えた。



「まあ、そうおっしゃるとは思っておりましたが」



俺はレティに目をやった。さっきはうつむいていた彼女は今、

俺の方を向き、大きな目をキラキラさせている。

まあ、レティはわかるけど、俺のこと腫物扱いしていた人達まで

癒されていたってのは、なんだかなあ。



「20年前からの痛みが、思いもよらぬ70年ぶりの現世様のお越しで、

全て無くなったということでは、ございませんが、

明らかに心が浮足立って、心地良いのは間違いないのです」


「このような心持は、まさに20年ぶり、

いえ、その前も含めても、いつのことだか思いがつきません」


「今日、もう先にお帰りになっておりましたが、集会所の作業が完了した時、

その場にいた者たちが得た達成感たるや、口では表せないものでした。


皆、思いが溢れ、涙するものも大勢おりました。

貴方様には、ぜひ、あの場でご一緒したかった。

貴方様がおられたら、皆、ひれ伏していたやも知れません」



また、そういうことを言う。

いつまでも、腫物扱いが終わりませんなあ。

そんでまたこれが、お伽話のネタになっていくってことなのかい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る