第15話 水音

ああ、俺は寝ちゃってたんだなあ、気持ちよかった。

今日はいろいろ頭使ったりして、疲れちゃったからね。


ふと、外からの物音に気付いた、パシャ、ピシャって。

レティが洗濯でも、しているのかな、

窓の方に目を向けると、外はすっかり暗くなっている。

俺はレティに声でもかけようと、窓へ近づいた。


窓の前に立つと、いつものようにあたりを月明りが照らしていた。

俺は、水の音がする井戸のほうに目をやった。




・・・・・イカン、これはいけません。




洗濯かと思っていた水の音は、

レティが井戸から汲んだ水を、肩から流している音でして、

つまりは、レティが、お風呂というか、水浴びをしているところでして、

それは、もちろん、なにも肌に着けてないということでございます。


そして、レティは、今こちらを向いていて、

オッパイが、正面から見えている状況でして、

つまり下半身も、こちら向きということと、あいなります。


ダメだあ、これはダメだあ、

久々の、固め技だあ。


俺は、この場所に居ちゃいけないと思いつつも、

強烈な水浴び固めにかかってしまい、

彼女から、目を離すことができないでいた。




彼女は、月明りで青白く光り、

まるで人とはおもえないような、たたずまいだった。


石鹸を手に、首から腕、脇から胸、おへそから下へと這わせ太ももへ、

かとおもうと、そこでクルッと回りこちらへ背を向け、

わき腹から、その手をお尻の割れ目の、深い部分へと。

今、どこを洗っているの?


彼女はいつも、前髪も横髪も一緒に編み込んだ、ゆるふわのおさげ髪だ。

その髪も今はほどかれ、濡れた背中に。

全身に石鹸を塗り終えると、またこちらに向き直り、今度は両手で胸を、

下から上にたんねんに洗い上げ、その豊満さを十二分にアピール。


そして彼女はスッと腰を落とし、

片膝をついて足を開き、青白く輝く、両もものその奥へ、

右手を深く差し込み、そっとこするように。




ムリムリムリムリムリ、もうムリ。

これ以上は、良心的にも下半身的にも、もうムリ。

一歩も動けない俺は、その場で座り込んでしまった。


そりゃね、もうね、ビンビンですよ、座り込んでいてもね。

あんなにね、艶めかしい動きを見せられたんじゃね、

すぐにでもパンツ脱いで、いたすことは一つ、ってとこなんだけど、

でも彼女、この建物の中だったら俺の存在、感じているって言ってたはず。


それって、まさか俺が何をしているかってことまで、分かるってことじゃあ、

ないよね。

俺が今なにしたって、大丈夫だよね、アレ握りしめて、どうしたって。


でも、ほんのさっき、この部屋で、レティの力は、高まったんだよねえ。

それは、探知能力にも及んでいるのでしょうか。

どうしよう?


まだ外からは、レティの水浴びの音聞こえているし、残像バッチリだし。

チョコッとだけ、始めてみる?


でも、もし水浴びの最中、

俺がそんなことしているのに気付いたりしたら、悲鳴もんだよね。

いくら現世様とはいえ、ここ追い出されるよねえ。


かといってこのままでは、絶対収まりつかないしい、

バチ?、これって何かのバチ?、今までのチラ見のバチ?、

勘弁してくれえぇぇぇ。




結局俺は、どうすることもできず、這い出すように部屋を出て、ホールと向かった。

酒でどうにかしようってことだ。


2階からホールへ降りる階段を下ると、店にはかなりのお客が。

俺がホールへ現れると、


ざわ・・ざわ・・、ざわ・・ざわ・・、


カイジ君、君かい、キミもいるのかい。


俺は、階段からすぐ端のカウンターに寄りかかった。

すぐに、エディが来てくれた。



「いかがなされました?」



それは、言えない。



「いや、寝酒にちょっと一杯もらおうかと思ってね」


「かしこまりました、何を差し上げましょう」


「それは、エディにまかせるよ」


「はい、それではすぐにお持ちいたします」



カウンターの向こう端にも、2人の客が張り付いていた。

俺とエディのやり取りを、顔をこちらに向けず、出来る限りの横目で見ていた。


別に、取って食ったりはしないって。

バチをくらった情けないオッサンが、酒で何とかしにきただけだから。

そしてすぐ、エディは一本のボトルとグラスを持って戻ってきた。

彼はボトルから、琥珀色の液体をグラスに注ぎ、

それを、スッと俺の前に差し出した。


俺は、酒の味なんて、たいして分かりはしないし、

さらに今なんて、出されたものを飲んで酔うだけだった。

俺は、グラスを口に運んだ。


おおっ、これは甘い、というか、芳醇、

というか、アルコールのきつさを全く感じさせない、うまい。

ツーフィンガーほどを飲み干し、お代わりを頼む。


「これは、なんという酒なんだい、美味しいねえ」



俺がエディに尋ねると



「これは、私がブレンドしたものでございます」



彼は、はにかんだように、チョッと嬉しそうに答えた。



「ほおお、エディのオリジナル・ブレンドかい、それはすごいねえ」



俺は差し出されたグラスを、持ち上げ透かし見るようにして言った。



「滅多に、お出ししておりません」



にしても、これはなかなかのもんだと思うけどなあ。



「なんで出さないの、これは売れるとおもうよ」



俺は、2杯目も飲み干し、そう言った。


エディの表情はよくわからないけど、多分喜んでいるとおもう。

グラスに、3杯目を注いでくれた。

そのグラスを片手に、ジョナサンのことを尋ねた。

彼は、注文で手一杯の厨房で、アンナと奮戦しているという。

確かにお客の入りが多いようだけど、何かあったのか聞くと



「それは、主人にお尋ねください」



何だよ、もったいぶるなあ、まあ別にいいけどさあ。


エディは小皿に、小さな木の実を乾燥させたようなモノを、持ってきてくれた。

おつまみかい、いいねえ、一粒つまんで口に放り込む。

おおっ、こりゃスパイシーだ、黒コショウっぽい香りと塩辛さがいけるよ。


エディは、町外れの森から摘んでくる木の実を炒ったものだと、教えてくれた。

酒が、なおさらすすむ。

4杯目のグラスが差し出された頃に、やっと下腹部の感覚も、鈍くなっていた。

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