第11話 ものは試し

ジョナサンは苦笑いをしながら、レティに聞いた。



「お前は、現世様からの力の増減が分かると言っていたよね」



そう聞かれたレティは、答えた。



「はい、分かります。

現世様の近くにいるほど強く感じるし、離れたら弱くなるし」



レティは、今日のパン屋での作業の時のことを話した。

俺がすぐ前に立っていると、作業がすごく楽で、俺が入口の方に離れると、

からだが重くなったそうだ。

ということは、俺の力の範囲は3メートル、ってことか。

黒髪少女の30分の1。狭っ。


でも、俺の力の存在自体は、この建物の敷地内ぐらいなら、感じているらしい。

ジョナサン達は、その微妙な増減や、位置の存在は、感じられないという。

だから力に一番敏感なレティが側にいて、俺が適当にいろいろ試せば、

その力の増減はレティが感じとれるハズで、方法も見つかるのでは、というのが、

ジョナサンの意見だ。


なんだか、BSアンテナの調整みたいなこと言い始めたな。

俺がアンテナ動かして、レティが受信レベル計って、みたいな。


まあ、それでもいいけど、なにをどう試せってのかなあ。

んじゃレティの前で、とりあえずスクワットでもやってみる?


結局、俺とレティが部屋に残り、ジョナサンは仕事に戻って行った。

俺たちは、テーブルでお茶を飲み、適当におしゃべりを続けてみた。



思い付くかッッッ、んなもんッッッ!!



俺たちは話し合って、なるべく一緒にいる時間を作ろうと、いうことになった。

朝、レティがパン屋に行く。

行ってからしばらくは、てんてこ舞いの時間だから俺の居場所がないだろうと。


だから今日みたいに、生地を捏ねる作業になってから来て欲しいと。

そしたら仕事も早く終わるから、フレッドの小分けを手伝わないで帰っても、

平気だろうと。

そのあとは、適当にアンナの手伝いがあるけど、それ以外は一緒に居られると。


この夢を見続ける価値って、レティの存在だけなんだから、それは願っても

ないことではある。


だから本当は、能力に影響を及ぼす力のコントロールより、また、ここに戻って

くる方法のほうを、身に付けたいんだけどなあ。

それについては、ジョナサンも見当はつかず、レティも手伝い方が分からない、

ということだ。


俺はこの世界の集会所とか橋とか、どうでもいいんだよ。

でもレティには、また会いたいんだよね。

そっちが全く見当つかないってのは、悲しいよなあ。


今夜も、レティが眠る時間までは一緒に居られるんだけど、

とりあえず、風呂を勧められた。

着替えも用意するから、汗を流して来い、ということだ。

今朝アンナを見つけた時に、樽が置いてあった部屋が浴室だった。

風呂といっても、浴槽につかるわけじゃなく、樽から手桶で汲んだ水を、

かぶるだけだ。


レティはいったん部屋から出て、タオルと着替えと石鹸を、持ってきてくれた。

着替えた服は、洗濯するから部屋で渡すように言われた。

え~、レティがおパンツを洗ってくれるの、嬉しいような、恥ずかしいような。


風呂から戻ると、レティがベッドのシーツを取り換えてくれていた。

まだ一晩だから、換えなくてもいいのに。

彼女はシーツをグルグルっとまとめ、蔓か何かで編んだかごに入れた。


そして俺に両手を差し出した。洗濯物をよこせということだろう。

俺は着替えたものを渡した。

彼女はそれも、かごの中に入れた。

洗濯物置き場に置いてくるから、待っててくれと言い残し、彼女は出て行った。




さて、汗を流してスッキリしたのはいいけれど、彼女が戻った後、なにを試せば

いいのやら。

70年前の現世さんは、5日目に消えたといっていたから、そのとき、現実の

世界で目覚めたんだろう。


それを基準としたら、俺に残された時間は、4日程度ということになる。

現世さんの睡眠時間は分からないけど、俺とそう違いはないだろう。

すると4日を目途に、頑張るってことか。


レティが戻ってきた。

よし、試すなら、まずはこれからだろう。


俺は彼女にそれを伝え、部屋に入ったところで立ち止まってもらう。

彼女から少し離れて前に立ち、片足を引き半身になる。

腰を落とし、引いた方の腰の前に両手を丸く構える。


そして、その両手に力を、ため込んで、

ため込んで、ため込んで、ため込んで、

そぉして、それを一気に、両手を彼女へ伸ばし放出するッッッ!!



「ぜ~~ん~~せ~~の~~~~ッ、波ああああぁぁぁぁぁ!!!」



ふうぅぅ、どうよレティ、とてつもないエネルギーを感じただろう。


んん?なに、そのポカンとした顔?

おかしいなあ、感じない?

そんなはずないんだけどなあ、これかなり世界共通的なやり方なんだけど。


そっかあ、違うのかあ。


では次、やはり少し離れて彼女の前に立つ。

肩幅に足を開き、やや腰を落とす。

肝心なのは呼吸法、大きくゆっくり腹に息を吸い込み同様に腹から息を出す。


それを繰り返し、己の内なる力を溜めて、

溜めて、溜めて、溜めて、溜めて、そぉして、それを拳に込めて

一気に放出するッッッ!!



「あたたたたたたたたたたっ、

あたたたたたたたたたたっ、ほぉわたぁっ」



はぁはぁはぁはぁ、どうよ、今度は、感じたろうよ。

なに、その心配そうな顔。

頭オカシクナッテないからね、一般的だよ、一般的、力の伝え方としてね。


そうかあ、これでもないかあ。


ん?

そっかあ。

オジサン、チョッと勘違いしていたかな。

そういえばこれ、両方とも攻撃だもんね。

うん、攻撃しちゃあ、ダメだよね。

よかったよかった、伝わらなくて。

ふうぅう、不幸中の幸いだよ。


って、もう、思い付くことないよ、

次は、何したらいいんだよお。

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