解熱

『むらさき』

解熱

「こんにちは、いまから治験に参加される皆さんに投与する薬の説明をします」


 眼鏡をかけた男が治験者に冊子と薬を渡す。


「これは、みなさんが持っている精神的な熱を一時的に落ち着かせる薬になります」


 治験者数名が顔を見合わせる。


「インフルエンサーやクリエイターの方などが感情的に行動して失敗する場合がありますが、そういった情緒豊かな方を対象した薬です」


 会場に集まったオタクたちはざわついた。


「事前に行ったアンケートからみなさんは一般的な人より何かに熱を上げやすい方だと分かっています。なので、この薬を処方して、10日間自分の好きなものを好きなだけ楽しんでください。その感想をただ書いてもらうだけです」



 以下、アンケートからの抜粋~


 健康オタク

「今まで、食べるものが健康に良いか、何時間運動すればよいかなど気にしていたが、逆にそれがストレスになっていると気が付いた。これからは好きなものを食べて、運動も好きな時間にするようにしようと思った。」


 アニメオタク

「アニメだけが好きだったが、アニメを見た後に治験で知り合った人と話していて、相手の話を聞かないと、自分の話は聞いてもらえないと気が付いた。」


 映画オタク

「映画を見た後の粗探しのような感想を抱く自分に冷めてしまった。いやなものを見た後はとりあえず、気分転換に別なことをしようと思った。治験で知り合った人からボルダリングに行くといいと言われたのでとりあえず、来週一緒にいきます。」


 美容オタク

「美容にお金を使っていましたけど、自分が鏡で見ている時間と相手が自分を見る時間は同じでないと気づきました。」


 辛いもの大好き

「いままで辛いものが好きでめちゃくちゃかけて食べてました。でも何もかけないで食べるほうが色んな味がして美味しいと思いました。」


恋人大好き

「彼氏と連絡を取っていて、そっけないのでSNSあさっていたらけっこう前から浮気しているのに気づきました。クズ男〇ね。」


 ~

 若い研究者と助手が今回の治験データをまとめていた。テレビでは、国会答弁を中継していた。


 研究者:「この結果は素晴らしい」


 若い研究者はアンケートと脳波分析のデータに興奮していた。すかさず、近くにいた助手が研究者に薬を渡して、飲ませる。薬を飲んでしばらく、研究者はパラパラとデータを読み返していた。


 研究者「我々社会人の何かにハマるのは、ストレスが一因でもある。治験という特殊なストレスがない空間で生活すると何かにハマるというのは落ち着く傾向にある。実際の生活で試すことも必要だな」


 若い研究者はゆっくりと落ち着いた様子で話し始めた。


 研究者「逆の効果の薬もあるが、これは今どんな具合だ。使えるのだろうか」

 助手:「とりあえず、試薬でも治験したいと言う野党の一部の議員に渡しています」


 助手が報告書を取り出して、研究者に渡した。テレビでは、野党の議員が熱心に持論を語っていた。

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