異次元の少子化対策を

『むらさき』

異次元の少子化対策を

「ねえ、フーミン」


 愛人にフーミンと呼ばれているこの男は、大統領だった。


 ここは都内の有名ホテルだった。ホテルの隣は、大統領が所属する党の本部事務所があった。じつは、歴代の大統領たちも密会に使っていることで有名なホテルだった。


「今日は野党のバ〇どもを適当にあしらって、少し疲れているんだ」


 フーミンは昼の一戦を交えてから、夜の一戦も交えて、ほどほどに疲れていた。行為後、特有の倦怠感に襲われながら、密会している愛人をまじまじと眺めていた。


「ねえ、恥ずかしい」


 愛人は思わず、フーミンの眼鏡を外した。


「そんなに見ないで、これでも見て大統領様」


 愛人はテレビを付けた。テレビでは、大統領の子供である元秘書が、インタビューに答えていた。


「大統領の大臣時代の姿が本当にカッコよくて、忘れられない」


 フーミンは声で息子だと分かったが、瞬時に苦々しい顔になった。


 分かり易くこびやがって、お前のせいで支持率は下がったのだ。お前があんなバ〇どもを官邸に呼ばなければ、俺の支持率は下がらなかった。


「ねえ、フーミン怒んないで」


 愛人がフーミンのそんな顔を見て、猫撫で声で言った。


 顔も可愛くてなかなかに気が利く、この愛人と子供を育てられたら、もう少し俺の支持率も上がっていたのだろうか。無性にむかむかしてきた。


 あの参謀もだ。よくわからんもんと恋仲になって、権力で下手にもみ消して、マスゴ〇にすっぱ抜かれたせいだ。アイツのせいで、俺の支持率が下がった。俺の身内には無〇しかいないのか。俺を見習って、バレずに逢瀬をしろ、これだから最近の奴らはいかん。


 フーミンは根底からやばかった。


「少しシャワー浴びてくるね、フーミンは?」


「検討しておく」


「ふふ、意地悪」


 愛人は一人シャワーを浴びに行った。眼鏡をしないでもわかる。努力がうかがえる体と、魅力的な態度。こんなパートナーだったら、国際社会にばら撒かずとも、社会は俺を尊敬するのではないか。


 フーミンは現実逃避していたが、ふと考えた。


「なにも、パートナーは一人だけでなくてもいいのではないか...俺ほど知的で国内で一番権力のある人間だったら、男女問わず、婚姻を結びたい人間は多いはずだ。優秀な遺伝子に群がるのは動物の性だ」


 フーミンは自己肯定感が異常に高いバイセクシャルだった。


 次の日、フーミンは部下たちを集めて、異次元の少子化対策を言った。


「さすがは、大統領」


「素晴らしいです」


 フーミンの部下はほぼ同性だったため、みなフーミンの気持ちは分かった。一部の一般的な価値観を持っている部下は、高ぶる動物的な本能を感じ取って、口をつぐんでしまった。


 それからの法案可決までの流れは、非常にスピーディーだった。今までの検討はなんだったのかと思うほど、迅速な動きと狡猾な世論操作を行った。


 AIと様々なデジタルデータを駆使して、僅か一日でたたき台を作り、国際的な有識者や国内の権力者と密かにリモート会議を実施し、一週間たらずで法案と計画を作ってしまった。


 そして、その法案提出の数か月前から、密かに握っていた芸能スキャンダルをばら撒いて、民衆のヘイトを芸能界に向けさせて、その5日前から有名俳優の結婚や勝ち試合確定のスポーツニュースを流すように細工していった。もちろん、マス〇ミどもには、バラマキを約束して、協力させた。


 そして、ついに


「えー、みなさまの声を聞く力を持って、私が本日一夫多妻ならびに多妻一夫制度を可決させました。また、同性婚制度も可決し、全世界に誇れるトランスジェンダー先進国になったことを、ここに宣言します」


 フーミンは勝ち誇った顔で、原稿を読み上げていた。


 それをテレビで見る愛人は同性として、パートナーをなんて呼ぼうか考えていた。


 ※この話はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。検討しても関係ありません。


この話は検討に検討を重ねて、検討を加速させた結果「アルファポリス」にも投稿しています。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異次元の少子化対策を 『むらさき』 @0369774

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ