第4話 参加者を脅してみよう
「今日は、今日こそは殺し合いをしてもらうぞ、おまえら…!!」
4日目。死ぬほど怒られて胃に穴が開きそうになりながら、私は声を絞り出す。
少なからず収穫はあった。
人質確保の手続きも済ませたし、あとは誰でもいいから1人唆すだけ。
「まずは照空 キズナ…!貴様からだ…!」
その中でも取り分け付け入りやすそうなのは、あの8歳児…照空 キズナ。
彼女は他に比べて弱みも多く、ウチが攫いやすい者ばかりが周囲に存在している。
見た感じ、精神年齢も肉体に引っ張られてるみたいだし、凶行に走ってくれることだろう。
そんなことを思いながら、私は彼女に支給した端末に連絡をかけた。
「ハロー、照空 キズナくん。
この島の生活にも慣れてきたようだね」
『ゲボとドブをブレンドした汚水以下のゴミクズの分際で、キズナちゃんに話しかけないでもらえますか?』
「おっと、手厳しいね。
君と話がしたいだけだというのに」
心折れそう。
「貴様っ!」とか、「何の用だ!」とかはよくあるけど、ここまで酷い罵詈雑言を噛まずに吐き捨てられたのは初めてだ。
声が震えそうになるのを必死に堪え、黒幕モードで語りかける。
「君にはかわいい妹さんが2人いるようだね」
『妹…?いもうと…?』
「しらばっくれなくてもいい。
私は全てを知っているからね」
そんな演技が私に通用するか、バカめ。
私がほくそ笑んでいると、キズナは心底不思議そうに首を傾げた。
『キズナちゃんが一番下ですけど?』
「……それは流石に嘘だろう?
君には妹がいるという情報が確かに手元に…」
プロフィール欄に書いてたぞ。
キズナに姉はいなかったはず。
今度は私の方が首を捻っていると、彼女が納得したように声を上げた。
『ああ!そういうことですか!
じゃあ、簡単に説明しますね!
キズナちゃんは長子なんですけど、末妹なんです!』
「???」
待って、どういうこと?
一番上の姉であり、一番下の妹ってこと?
頭がこんがらがってきた。
私が困惑していると、彼女は8歳児並みにぺったんこの胸を張った。
『キズナちゃん、ちっこいでしょ?』
「…確かに、発育が遅れて見えるな」
『のんのんのん。発育が遅れてるんじゃなくて、発育「してない」のです!』
「……えっと、ん?…んん??」
だめだ、わからん。
この女、何を言ってるんだ。
初めてデスゲームの黒幕を任された時以来だぞ、こんなに困惑するの。
私が疑問に思っていると、キズナはずいっ、と画面に顔を近づけた。
『小さい頃に食べたカントリーマ○ムとかチョ○パイとかのお菓子…。
あれ、すっごく大きくなかったですか?』
「……まあ、覚えはある」
『あの両手で掴まないとおさまらなかったサイズのお菓子。
大人たちはそれを片手で、しかも一口二口で食べてしまうのです』
ごめん、なんの話?
読解力には自信あった方なんだけど、今のでその自信吹っ飛んだぞ。
これ、私がバカなだけなのか?
私が首を捻るのを気に留めず、キズナは話を続けた。
『なんだか、すごく勿体無いと思いません?
同じお菓子なのに、満足感が全然違うんですよ?』
「それは、まぁ…。確かに?」
『私はお菓子が大好きです。
スーパーの三色団子が好きです。
ご近所にあるケーキ屋さんのフィナンシェが好きです。
パパとママが遠出した時に買ってきてくれるお土産のお菓子が好きです。
マユリお姉ちゃんとコウお兄ちゃんが作ってくれたスフレパンケーキが好きです。
とにかくキズナちゃんは、いろぉんなお菓子が大大大大だぁーーーい好きなんです』
「う、うん。そうなの…」
なんか、怖くなってきた。
今、自分は何に触れているのだろうか。
もしかして、関わっちゃいけないタイプの奴に声をかけてしまったのではないか。
私の中で渦巻く不安が加速するのも知らず、彼女は満面の笑みを浮かべた。
『だから私は、ずーっとお菓子が美味しく食べられるように、体をいじくったんです』
「それは、どういう…?」
『私のお師匠は、自分の猫ちゃんに「3歳のまま成長しない手術」を施したんです。
キズナちゃんも同じように、「7歳のまま成長しない手術」をしたんですよ』
「……………」
絶句。
狂ってる。たかがお菓子のためにそこまでするなんて、正気じゃない。
こっちが言えた話じゃないが、根底から倫理観がぶっ壊れてる気がする。
『だから私は、あの家で末妹なんです。
お姉ちゃんたちは何度説明しても、私のことを「おねえちゃん」と呼ぶんですけどね』
「あっ、えと、うん…。
そ、そうなの…、ね?」
助けてくれ。こんな気狂いじゃなくてノーマルの人間を連れてきてくれ。
ってか、そんだけ倫理観壊れてるんなら、殺し合いもやってくれよ。
…そうだった!殺し合いだよ!!
そのために電話かけたんだった!!
あまりの情報の濁流に忘れかけていたが、私は気を取り直し、彼女に語りかけた。
「本題はそこじゃない。
…まずはこれを見てほしい」
『ん…、ああ、私の実家ですね。
もしかしてこれ、うちの家族の命が惜しかったら誰か殺せってことだったりします?』
「何この子タイムアタックみたいな詰め方してくる」
察しが良すぎて逆に怖いんだけど。
思わず素が出てしまったが、私は咳払いして話を続けた。
「…んんっ。話が早くて助かる。
君とて、ご家族をむやみやたらと危険に晒したくはな…」
『いっやでーす。もう切ってくれません?
自分語りして満足したんで』
「……ご家族の命がかかってるんだが?」
そんなナメた態度もここまでだ。
私が喉を鳴らしてほくそ笑むと、彼女は表情をなくした。
『おめでたい頭してますね。
五徹が祟って道端で寝てた私を、たまたま拉致れただけで調子に乗って』
そんな経緯でこの爆弾拉致ったの?
低い声音で迫る彼女に、私は言葉に詰まってしまう。
だが、ここで押し負ければ黒幕の名折れ。
伊達に5年も黒幕やってない。
私は迫る彼女に抵抗し、さらに歪な笑みを浮かべた。
…これ、表情筋攣るんだよな。
「言っておくが、君がどう脅そうと家族が危険に晒されているのには変わりない。
私の言う通りにすれば…」
『好きにしてください。
キズナちゃんは知りませんから』
「残念だよ。君がそこまで愚かだったとは」
『ブーメランですよー』
キズナの捨て台詞を聞き流し、通話を切る。
どっと疲れた。
しかも、殺し合いが起きるキッカケにもなってない。
さっさと家族も拉致してもらおうか、と私が携帯を手に取ったその時。
タイミングを見計らったかのように、下請けから連絡が入った。
「お、報告かな」
下請けが連絡してくることなんて、「拉致して所定の場所まで持ってきました」程度のことしかない。
私は弾みそうになる声を抑え、通話を繋げた。
「もしもし」
『あ、あんたっ!なんてやつをターゲットに選びやがったんだ、クソッタレ!!』
「………」
ものすごく嫌な予感がする。
いや、予感というより確信か。
電話越しに轟音が響いてるのに眉を顰め、私は下請けの男に問うた。
「何が起きてんの?」
『アンタのおかげでうちは廃業!
永遠に檻の中だ馬鹿や…』
『みーつけた』
『おお、イキが良いね。おねえちゃんの実験サンプルにはちょうど良さそう』
『ろ、ぉ、おぁあ…。ああああああ…』
がしゃっ、と何かが叩き割れる音と共に通話が切れる。
悪い予感が当たった。
電話番号から見て、キズナの家族を拉致しに行った連中なのは間違いない。
…なんか実験サンプルとか言ってなかった?
デスゲームの参加者が黒幕ですら引くような言動すんな。
「ゔっ…。ぽんぽんいちゃい…」
私は鳴り響く上司からの電話に、痛む胃を抑えた。
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