デスゲームの黒幕だけど、参加者が強い上に仲良くてゲーム進まん
鳩胸な鴨
第1話 ボーナスと昇進のために犠牲となれ!
デスゲームというものをご存知だろうか。
読んで字の如く、人が生死をかけて挑むゲームの総称である。
サブカルチャーにおける一大ジャンルであり、これを題材にした作品は星の数ほどある。
救いようのない胸糞の悪い展開と、巻き込まれたキャラクターたちの葛藤。
その全てがエンターテイメントとして、人の脳髄を刺激する。
かくいう私…福原 うさぎも、エンターテイメントとしてのデスゲームは大好物だ。
大好物…なのだが。
「今回のゲームも楽しみにしているぞ、フィクサー」
「そのご期待に応えられるよう、全力を尽くしましょう」
仕事としてのデスゲームは大っ嫌いである。
私の仕事は、倫理や道徳がゆっるゆるのサイコ野郎どもに娯楽を提供すること。
普通の映像会社に就職したと思ったらコレなのだから始末が悪い。
特撮みたいなカッコいいジャンルが撮りたかったのに、なんでこんな精神衛生に悪そうなことしか出来ないんだろうか。
「信用ならない怪しい奴」みたいな立ち振る舞いもめちゃくちゃ疲れる。
なんだ、「業務中は被れ」って渡されたこの趣味の悪い仮面。
汗っかきな上に肌が弱いから汗疹になって皮膚科のお世話になってんだぞクソが。
何度思ったかわからない愚痴を浮かべながら、私は目の前のブタに説明を始めた。
「今回のゲームはずばり、『バトロワ方式』!
殺人を犯す動機も、『自分の命』というシンプルなものになってます」
「ふむ…。確かに、最近は外連味が強い方式が多かったからな…」
ホントだよ。
なんで「お菓子作りで失敗したら死ぬ」なんてヘンテコゲーム考えたんだ、ウチの会社。
迷走具合も甚だしいな、と思い返しながら、私は参加者のプロフィールが纏められたファイルを彼に差し出した。
「今回の参加者もまた、他薦応募者の中から無作為に15名選びました。
ただ、平均年齢が少し若くなってしまいましたが…。
そちらの方が盛り上がるでしょう」
「うむ。成熟している人間がいては場を纏められてしまい、緊張感に欠ける。
今回のゲームも期待できそうだな」
未来ある若人たちよ。すまない。
私のノルマのために死んでくれ。
ボーナスと昇進がかかってるから。
そんなことを思いつつ、私は参加者のプロフィールをブタに噛み砕いて説明していった。
♦︎♦︎♦︎♦︎
時は少し進み、舞台となる孤島にあるモニタールームにて。
私はカメラに向けて胡散臭い笑みを浮かべ、締めくくりの言葉を吐いた。
「というわけで…、ここから出たければ、頑張って殺しまくってくださいね」
『ふざけんな!!』
あー、疲れる。
この導入、何回やったっけか。
少なくとも100は超えてる気がする。
いかにも「早々に死にますよ」的なガラの悪い不良くんの言葉を聞き流し、私はカメラを切る。
それにしても、デスゲームものって最初の最初は割と見たような展開ばっかだよな。
リアクションする方もする方だよ。
同じようなリアクションばっかしやがって。こっちとしてもつまんないんだが。
だからこの仕事嫌なんだよなぁ、と思いつつ、私は背もたれにもたれかかる。
「見せしめに殺してもよかったな、あの頭弱そうな不良」
倫理観もクソもない一言が漏れた。
軽い職業病である。
お父さん、お母さん。娘はあなたたちに顔向けできない殺人鬼になりました。
だって、仕方ないじゃん。「辞めたら殺す」とか言われてるんだし。
だったら、やることやってのんべんだらりとする方がずっといい。
今日の仕事はもう終わったようなもんだし、酒でも飲もうか。
バトルロワイヤル系は説明が少なく済むのがいい。
頭使うゲーム系は疲れるんだよな。
私はリュックサックの中から、昨日のうちに買っておいた酒瓶を取り出し、冷蔵庫の中に入っていたおつまみを机に置く。
「今日も一日お疲れー!かんぱーい!」
バトルロワイヤル系はゲームマスターが出張らなくても勝手に進んでいくから、こうやって昼間から酒が飲める。
同僚も上司も全員、説明事項が終わったら飲んでるし、責められる言われもない。
なんなら社長が直々に「飲んでていいよ。暇だろうし」とゴーサインを出してくれてる。
職場に不満はたくさんあるけど、こういうほど良い緩さは大好きだ。
私はこれから起きる惨事を想像しながら、注いだ酒を呷った。
♦︎♦︎♦︎♦︎
「ゔぅ…。飲みすぎた…」
翌日。二日酔いで割れそうな頭を抱え、いつもの装備と化した仮面を手に取る。
二日酔いになってまでこれ付けるの、もう末期症状な気がする。
私は慣れてしまった自分に呆れながら、「そろそろ1人くらい死んでるかなー」と生存者数を確認するアプリを開く。
そこから数秒のロードが入ると、画面に15人の画像が映し出された。
「………あっれぇ?」
おかしい。誰も死んでない。
いや、待て。1日目だから、みんなが武器探しでバラけて終わったのかもしれない。
酔いすぎて全然覚えてないけど、多分そう。
そうであってほしい。
私は願望を抱きながら、モニターの電源を点けた。
『「こういう展開が好き選手権」!
エントリーナンバー1番!
「敵に一杯食わせて、主人公たちに全てを託して死んでいく親友キャラ」!』
『2番。「クソ重責任感に押しつぶされそうだったお堅い女キャラがコイツだけは気に食わんって相手に弱味見せて泣きじゃくる」』
『3番。「もうこれ以上背負わなくてもいいのに、自分が嫌だからって理由だけで見ず知らずの人を助ける主人公」』
…見間違いかな。見間違いじゃなかったら、放課後の教室でするクソつまんない選手権みたいなのが開催されてたんだけど。
まだ酔いから覚めてないのだろうか。
私はふらふらと水道に向かい、蛇口を捻る。
それなりの勢いで流れ出る水をがぶ飲みし、私は頭が冴えるのを待った。
「んぐっ、んぐっ…。ぶはっ。
い、いや、待て、待てよぉ…。
見間違いだろ、見間違いだって…。そんなわけないって…」
『4番!「全人類の想いが集まって完成したなんかめっちゃゴチャゴチャしててスケールがデカすぎるロボ」!』
「それ私も好き…じゃなくて!!
何やってんのお前ら!?」
残念。現実だった。
殺し合えって言ったよね?
さんざっぱら煽り散らして、いがみ合うように仕向けたよね?
なのに、どうしてそんな選手権やるくらいに仲良くなってんの?しかも全員。
あの頭の悪そうな不良も「5番!」って笑顔で元気溌剌に叫んでるし。
「やばい。やばい。このままだとクレーム不可避、昇進の話もボーナスもパァ」
どうしよう。どうするべきなんだろう。
見せしめに1人殺すか?殺し合わないと殺すよとか言ってみようか?
よし、やってみよう。
軽くパニックになった私は、手元にあるボタンを押す。
『6ば…、な、なんだ、この揺れ…?』
「ふふふ、慄け…!そして、これを機に殺し合え…!私のボーナスのために!!」
いかにもインテリそうな目隠れ男子が、困惑を露わに立ち上がる。
彼らの視線の先にある茂み。
それを掻き分けて現れたのは、無骨なシルエット。
ぶしゅう、と音を立てて動いたソレは、搭載されたカメラを彼らに向けた。
「これぞ番組名物、『理不尽殺戮マシン』!
私の意にそぐわない展開をパワーでなんとかしてくれる優れ物だ!」
バトロワ系において皆勤賞を誇るロボだ。
視聴者たちには「またか」などと言われるかもしれないが、この緩い空気を吹き飛ばすには十分だろう。
適当でいい。そいつらの誰かを殺せ。できればいい感じにエゲツない方法で殺せ。
今回のコイツには、1人だけ殺してメンテナンスルームに帰還するアルゴリズムが組み込まれてる。
即ち、どう足掻いても1人は死ぬ。
『な、なんだあれ!?』
『ロボ、ロボです!明らかにヤバいロボ!』
『見りゃわかるっての!』
がこんっ、と音を立て、殺戮マシンが銃口を不良っぽい奴に向ける。
よし。一番見せしめになりそうなやつを選んでくれたな。
次の瞬間にはミンチになるだろうな、と私が期待したその時。
『邪魔』
『選手権してんの見えねーのか!』
『私まだなーんにも言ってないのに!』
『こういうロボは好みじゃない!』
そんな文句と共に、マシンが殴り壊された。
………え、っと…。
もう一度、リプレイしてみようか。
困惑した私は別画面を操作し、先ほどの映像をスローモーションで流す。
「…あー…。壊されてるわ」
見事に殴り壊されてる。
筋肉に殴り壊されるんならまだわかるけど、クラスの隅っこで可愛らしい寝息立ててそうなふわふわ系女子にすら負けてる。
殺戮マシンよ。お前、そんな名前してふわふわ女子の一撃に負けるなよ。
…ってか、不良お前殴らんのかい!
「なんだったんだろーな今の」って、私の介入だって見りゃわかるだろうが!
あと、プロフィール用意した下請けども!
テメェらきちんと「アホみたいに強い」とか書いとけや!
学校の成績表みたいな当たり障りのない内容なんて要らんのじゃタコ!
残骸になってその場に落ちる殺戮マシンを背に、参加者たちが再び選手権を始める。
あまりのことに放心した私を現実に引き戻すように、着信音が響いた。
「……私の責任じゃないって言い訳、通用するかなぁ…」
画面に映る「監督」の文字列を前に、私はがっくりと肩を落とした。
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