夢幻隠世編1
第330話
ターレン王国の
国王を最高権力者とする絶対王政には、二つの基盤があった。
官僚制とトルネリカ軍の常設である。
ターレン王国の官僚制とは、側近、議員や補佐官は貴族階級の者から選出され、国王の政務を補佐する役人集団体制である。
側近は、宮廷議会の議員や補佐官から国王が選任することがあるが、この役職の者が国王の考えで置かれないこともある。
これは一人の国王を頂点とした身分階級による統治であることを示すものであった。
王都軍あるいはトルネリカ軍と呼ばれている軍隊が常置されていた。これは、国王直属の軍隊であった。
最高権力者である国王が命じれば、直属の騎士に指揮された軍隊が派兵されて、とりわけ反逆者は
ターレン王国の絶対王政の政治理論は、血統主義である。
王の血統を絶やすことは許されない。また、伯爵家の血統も同じである。
王家に後継者である子が絶えている状況に陥った時に、伯爵家は王族の血統の末裔であり、王の血統を絶やすことを避けるために置かれたものであった。
王国の法は王の権威を守るためのものである。身分階級で国王以外は平等であり、貴族と平民という階級は、統治するための都合で使われているにすぎない。
王以外は平等という考えは、国王に最大の権限を与えるという意味である。
国王が村人に貴族としての爵位を与えれば、その村人は血統は関係なく貴族となる。
同時に全ての国民の生殺与奪の権を、国王が握っている。
絶対的な権力を握る国王であるために、側近や宮廷議会が協議して進言してきた案件の決定の最高責任者として君臨し続けるには、独断で自由気ままにできるけれど立場上、もっとも制限を自ら厳しく意識して言動を慎む必要が誰よりもある。
エルフェン帝国も絶対王政ではあるが、エルフ族のエルネスティーヌ女王陛下が絶対的に政治に干渉しないで、評議会メンバーの最高責任者である宰相エリザと補佐官のトービス男爵に、実際のところ全権委任しており、最終承認を形式的に出すだけとなっている。
それは貴族や村人たちにも広く知られていて、帝国の最高権力者というよりも、女神信仰の巫女様という認識となっている。
ランベール王、正確には憑依していた先代国王ローマン王の亡霊は、バーデルの都を伯爵領から王の直轄地とした時に、歴代の王では開拓時代に王族の騎士たちを派兵して以来の事だが、トルネリカ軍を動かした。
さらに、ゼルキス王国への遠征軍として、平民のガルドを騎士に叙任して
ランベール王の時代では、トルネリカ軍は
モルガン男爵の養女の令嬢ソフィアのように自ら志願して、近衛兵から騎士に叙任される逸材もいないわけではないが、基本的には落ちこぼれで体を張るしか官使になれなかった連中と、宮廷議会の議員の補佐官になった若者たちからは思われている。
議員には王が特別に任命しない限り、補佐官の立場から昇進していくのが一般的である。
女伯爵シャンリー、女伯爵ジャクリーヌ、女騎士ソフィア、法務官レギーネ、
王都の名となっている王妃トルネリカという人物は、初代国王ファウスト王の
伝統的に逸材であれば、女性であれ叙任や登用をする。
ローマン王やモルガン男爵は、その伝統を無視しがちであった。親のコネで登用された者たちは家督を継がされる立場である者が多く、保身のために上の立場の官僚の言いなりになりやすい傾向がある。
モルガン男爵が、養女の令嬢ソフィアをローマン王へ進言して騎士に叙任したのは、女性を差別して地位を与えないようにしているのを
トルネリカ軍の形骸化や宮廷議会への権力の独占、官僚制の官使登用の裏取引、汚職官使や私腹を肥やす不正がはびこる状況などによって、ランベール王が戴冠した時、すでに、ターレン王国は
先代国王ローマン王の亡霊が、鬼火ウイル・オー・ウィスプとなったランベールを慕い続けるメイドのアーニャと対決して祓われ、ランベールの心は、魔族ヴァンパイアロードの肉体から離れ、アーニャの心と一緒に転生へと旅立った。残されたランベール王の肉体は、衰弱したまま、心がなく、眠り続ける空虚な脱け殻と化してしまった。
この怪異が、ターレン王国滅亡と
国王のウァンパイアロードと眷族ヴァンピールの貴族による、人間を血を搾取するために統治する国家改造計画は、ランベール王が
王の直轄地は、パルタの都という地方の伯爵たちが直接、側近や宮廷議会の協議に参加させないための関所のような意味のある都となっており、同時に、食糧貯蔵の倉庫地区を有している。
このパルタの都には中央広場の井戸から都全体に不思議な見えざる法術の仕掛けがあり、食糧を貯蔵していても劣化や腐敗させずに保存できる。
この直轄地から血の生贄を集めると、ターレン王国の人間の民衆の食糧事情に深刻な影響がある。
さらに、完全にヴァンピールのみを貴族とする制度が確立できていない状況で、この都から血の生贄を集めると目立ちすぎる。
人間の生産効率のためには、ターレン王国の食糧庫とも呼ばれるパルタの都と最大の穀倉地帯であるリヒター伯爵領では下僕たちを働かせる必要がある。
しかし、震災により奴隷市場が倒壊してしまい、しばらく閉鎖されていたが、現在は規模を縮小して再開されている。
王都トルネリカの半壊した被害の復旧よりも先に、バーデルの都の奴隷市場を復旧したのは、男尊女卑の方針のフェルベーク伯爵領が
ランベール王の生死の境にあるような状態の治療を、遠き大陸北方の女神信仰の神聖教団という組織の幹部というアゼルローゼとアデラというヴァンピールが申し出て来たので、法務官レギーネは
法務官レギーネはランベール王の帰還を待っている間に、王に頼みごとをするために、手柄を立てておきたかった。
側近の立場と政務はもう一人の側近ゴーディエ男爵に任せ、自分は王の
血の生贄を捧げさせるのに適した伯爵領としては、商業の盛んなバーデルの都に近いフェルベーク伯爵領が女性の血の生贄の確保に適している。ランベール王は、女性の生き血を好んで所望するのでちょうどよい。
法務官レギーネや他のヴァンピールの三人の寵妃たちは、少年や青年の生き血――たとえばゴーディエ男爵のように見栄えがよく、美味な血の生贄がどの伯爵領であれば集められるかを、四人で話し合っていた。
ヴァンピールにしてもらって生かしてもらったくせに、ゴーディエ男爵以外からは吸血しないと意地を張っていた生意気な踊り子アルバータが、ゼルキスの大使や視察団の一人でも血祭りに上げてくれさえすれば、あとは偽の吸血して手なずけた者を、血の生贄を提供させる伯爵領からの刺客に仕立て上げる自信が、法務官レギーネにはあった。
学者モンテサンドは、血の生贄の提供先の確保と、王へのおねだりのために、法務官レギーネが神聖騎士団暗殺計画を立て実行しているとは想像できないが、その軍師としての才能から、レギーネの神聖騎士団暗殺計画を
エルフェン帝国の宰相エリザはちょっとだけ気になっている。
法務官レギーネや王の三人の寵妃たち、ゴーディエ男爵や踊り子アルバータというヴァンピールたちを、神聖騎士団の団長ミレイユや隊長の戦乙女たちが討伐したわけではないことを……。
(これはゲームのエピソード攻略の情報にはない、もう完全にちがう展開になっているようです。私は無事にエルフの王国に行けるのでしょうか?)
獣人娘アルテリスとエリザ、そして、エリザを守ることしか考えていない黒猫の姿の大神官シン・リーは、それぞれ別の興味を持っているので、ターレン王国の陰謀や
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