第262話

 パルタの都のブラウエル伯爵領の領事館へ、貴公子リーフェンシュタールが持参したランベール王廃位の連判状を、ブラウエル伯爵と子爵ヨハンネスが確認して、学者のモンテサンドに見せるべきだと三人の意見が一致した。


 ランベール王が決定したゼルキス王国の遠征軍から逃亡した志願兵たちは、王命に逆らった立場となっている。

 ランベール王が統治している間は、罪人として追われる身としてパルタの都に潜伏している状況となっている。


 現在、ランベール王が失踪中である噂が広まり、宮廷議会から王命として捺印なついんのある書状が発行されたとすると、それが王自身の決定であると証明するには、ランベール王が健在であることを宮廷議会が示すことができない限り、信憑性が低い。


「今、パルタの都には騎士ガルド殿も、宮廷議会の重鎮であったモルガン男爵を成敗した女騎士ソフィアも不在で戻っていない。ブラウエル伯爵が志願兵の若者たちの蜂起ほうきを止まらせてくれなければ、無駄に命を落とすことになっていただろう」


 学者のモンテサンドは、若者たちが蜂起して、騎士ガルドと女騎士ソフィアがいたとしても、短期決戦で王都トルネリカを制圧するしか生き残れる可能性がないことを危惧きぐしていた。


「リーフェンシュタール、現在は七人の伯爵と二人の執政官、そして宮廷議会が、ターレン王国を統治しているが、リヒター伯爵、ベルツ伯爵、ブラウエル伯爵、ロンダール伯爵、パルタの執政官マジャール殿がこの連判に加われば十人の統治者のうち、ちょうど半数がランベール王の廃位と、今後のターレン王国の方針を協議することを望んでいることを示すことができる。さらに連盟する伯爵がいれば、さすがに宮廷議会も無視できまい」


 追い詰められて蜂起しようとしていた若者たちを、パルタの都だけではなく、連判状に名を連ねている伯爵領へ移住ができる条件が受け入れられるのが望ましいと、学者モンテサンドは久々に再会した弟子のリーフェンシュタールに話した。


「ブラウエル伯爵領は全員でも受け入れたいのですが、水不足の問題が解決のめどが立っていない現状がある以上、人数に限りがあるといえるでしょう」

「リーフェンシュタール、リヒター伯爵領は、受け入れ可能ではないか?」

「村人の間で生活や考え方に格差ができている状況があり、それにどうやってなじめるのか次第と思われます」


 子爵ヨハンネスにも、学者のモンテサンドに意見を求められた。


「エルフェン帝国のエリザ様や、テスティーノ伯爵婦人アルテリス様、あと大陸南方のクフサールの都の大神官シン・リー様にもご意見をうかがってみるのはいかがでしょうか?」


 バイコーンのクロがのんびり昼寝できる草原か森がパルタの都にはない。しかたなく、領事館の裏手の庭に停車している幌馬車のそばで、赤毛の牝馬といる。


 リーフェンシュタールが、執政官のマジャールに赤毛の馬の食べる野菜を用意してもらえるように交渉して分けてもらえることになった。

 リヒター伯爵領の領事館の裏手に、二頭の馬はいられることになった。


「なんとなく、パルタの都の雰囲気は変わった感じもするね。ここの井戸の水はやっぱりうまい。エリザも飲んでみなよ!」


 エリザとシン・リーとアルテリスはパルタの都を散策していた。

 以前はベルマー男爵の方針で、旅人には情けで水は分けるが、他に何もしない感じの都だった。

 しかし、パルタ事変のあとで、住人たちの旅人への対応はかなり親切に少しずつ変わった。

 

 ヨハンネスの護衛役のザルレーとヴァリアン、踊り子アルバータは、エリザたちが到着した翌日には、街道沿いの青蛙亭を目指して出発している。ブラウエル伯爵とヨハンネスは、今後は一緒に行動することに決まったからである。

 

 エリザたちは、ブラウエル伯爵領の領事館に宿泊することになった。パルタの都には、旅人向けの宿泊施設が運営されていない。


 パルタの都には、各伯爵領の領事館が建てられている区画、住民たち居住区、都の衛兵たちの駐屯地、倉庫の区画などが井戸のある中央広場を中心にしてきれいに分割されている。


「この井戸を中心に、護りの力が働いておる。なかなか見事なつくりをしておる」


 シン・リーは、ターレン王国の歴史に詳しいわけではない。

 先住民の呪術に対抗するための拠点として、パルタの都は建造された。王都トルネリカの次に古い都である。


「占いっておもしろいわね。うちの店でやってみる?」


 アルテリスが夕方から営業している女店主イザベラの酒場を見つけて、エリザたちが前に立っていると、たまたまイザベラが店から出て来た。


「あら、お店は夕方からよ。でもまあいいわ。暇なら、ちょっと寄って行きなさいよ~」


 イザベラがエリザに恋愛運を占ってもらった。


「ん~、過去はあまり良くなかったみたいですが、今はいい人と出会って幸せな感じですね」


 占い木札を初めて見たイザベラは、エリザにそう言われて妙に納得してしまった。

 イザベラは今、学者モンテサンドと交際していて、たしかに今までで一番充実して、素敵な恋をしている気がしている。

 


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