ニアキス丘陵ダンジョン編
第22話
「では、行って参ります、エルネスティーヌ女王陛下!」
宰相エリザは、賢者マキシミリアンの暮らす大陸西方のニアキス丘陵のダンジョンを視察へ行く勅命を出してもらった。
待ちきれなくなったこともあるけれど、瞬間移動の魔法陣をエリザが使えるチャンスは、こんな機会がなければめったにない。
執事のトービスやメイドたち、あと女王陛下が直々に瞬間移動の魔法陣がある儀式の間に来て、エリザの見おくりをしてくれた。
それをエリザは、すごく大げさな気がした。
メイドのなかには、涙をハンカチで拭いている人までいる。
「どうぞ、ご無事で旅からお戻り下さいませ。どうか、女神の御加護があらんことを」
執事のトービスはエリザにそう言って、うやうやしく直立した姿勢で一礼した。
執事のトービスやメイドたちからすれば、大陸の西方は、遥かに遠くにあるという印象しかない。
エルネスティーヌも、大樹海の中にあるエルフ族の王国と、平原のエルフェン帝国の王宮以外は知らない。
エリザから「賢者マキシミリアンのダンジョンに行ってみたいのです」と言われ許可したけれど、正直、心配なのだ。
大陸北方の山脈にある古都ハユウから、瞬間移動の魔法陣を使ってダンジョンの調査団が来て、エリザも魔法陣をちょっと使ってみたくなっていた。
魔法で瞬間移動する感覚は、エレベーターに乗った時のような感覚だった。
もっとジェットコースターに乗った時のような感じを想像していたので、ちょっとだけ緊張もしていた。
ただし、一瞬だけエリザの全身が真っ白な光に包まれてしまったので、まぶしくて目がチカチカした。
(わっ、すごいですっ、本当に一瞬でした!)
マキシミリアンの暮らすダンジョンは、帝国にあるダンジョンとは雰囲気がずいぶんちがう。
清々しいというか、明るい雰囲気がある。
寒さや暑さも感じない。
壁から天井や床まで、うっすらと白っぽい光で、全体的に発光している。
(これは王宮と似ていますね。こういう素材なのでしょうか?)
エリザはなんとなく、タイルを思い出しながら、つるりとした壁面にふれてみた。
「いらっしゃいませ、エリザ様。私たちのお家へ、ようこそお越し下さいました」
背後から子供のようなかわいらしい声で話しかけられて、ちょうど彼女が出現するのを、ふりむいたエリザは目撃した。
マキシミリアン公爵夫妻は、モンスター娘たちを保護して、一緒にダンジョンで暮らしている。
そのあたりについては、エリザは転生前のゲームプレイで情報としては知っている。
ぷるぷるした半透明のゼリーのような、ぽてっとした大福餅のような形のものが床の上に染み出すように出てきた。
そのあと、淡い水色の乙女像のような姿にすうっと変わっていくのを、エリザはただ驚いて見つめていた。
ただ知っているだけなのと、実際に体験することには、大きな差がある。
スライム娘が軽く会釈して、微笑を浮かべた。
肌に色がついて、髪や手足はまだ透けているけれど、水色の瞳が印象的な少しふくっくらとした頬の童顔の乙女がいる。
髪の長さは、丸い華奢な肩にかかるあたりで、ふんわりとしているように見える。
エリザよりも、少しふくよかな胸のあたり……少しなはず……まあまあ、ふくよかな胸のあたりには、水浴びや入浴のあとのような感じで
(きれいですね。でも、服を着てないのは、けしからんですね~、これは大きなお兄ちゃんたちが課金してコレクションしたがる気持ちも、なんとなくわかります)
「ひゃっ!」
スライム娘は、すたすたと歩み寄ってきて、エリザに抱擁した。
エリザが思わず、小さく声をもらした。
そのままスライム娘に取り込まれてしまったりしないか、ドキッとしたからだった。
「こわくないですよ。ふふっ、エリザ様はいい匂いがしますね」
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