冒険者のみなさんに、帝国から毎月金貨30枚支給します!
平 健一郎 (たいらけんいちろう)
welcome to the Shangri-La world
序章
完全にダンジョン探索と切り離せなかった、モンスター討伐が無くなってしまった。
(モンスターがいなくなることなんて、絶対に無いと思ってたんですけど)
帝国領内の地上を全て調査したわけではないけれど、冒険者ギルドからの報告では、ダンジョン内でのモンスターの出没情報は皆無とのこと。
帝国宰相エリザは想定外の異変によって、モンスター討伐に関連した生業を行ってきた民衆の混乱は、今後も広がると予想した。
「エリザ、民衆に金貨を支給するという案は良いが、どのようにその財源を確保する?」
「女王陛下、取り急ぎ支給用の金貨の錬成を行う許可を願い致します」
若き宰相エリザは、帝国の貴族令嬢たちの中でも、女王陛下から才色兼備の貴人として寵愛を受けて、十九歳にして帝国宰相の地位を与えられた美少女である。
エリザはこの世界が、オンラインゲーム【聖戦シャングリ・ラ】の世界がベースになっていることを理解している転生者である。
しかし、オンラインゲーム【聖戦シャングリ・ラ】が配信終了したあと、この世界に何が起きるのかまでは想定しきれなかった。
(とにかくモンスターが消滅したということは、今後は魔法だって誰も使えない世界になりかねないですから。とにかく帝都の銅貨を金貨に錬金して、財源を確保しておきましょう)
帝国の最高権力者の女王陛下の絶対命令があれば、錬金術師たちに銅貨を金貨に変えさせて、応急処置の困窮者対策の施策を実行することができる。
ゲーム内には銅貨、銀貨、金貨と、小粒の宝石である魔石が流通している。
魔石はダンジョンのモンスターを討伐すると、ドロップするレアアイテムで、最上級品はオリハルコンという七色に色彩が変化している金属の粒である。
今後はモンスターが出現しないということは、魔石も現在発見されていて商店で流通しているか、コレクターの貴族が所持している分しか無くなってしまう。
現在よりも、希少価値からレートが上昇していく可能性はある。
この世界の主要なエネルギー資源は、目に見えない魔力である。 その結晶である魔石は、ダンジョンのモンスター討伐によって調達されていた。
モンスター討伐で敵モンスターに大ダメージを与える錬成された武器には、素材として魔石が使われている。
しかし、モンスターが完全に消滅したと仮定すれば、モンスター討伐には欠かせない魔力付与された武器は、今後は錬成されずに、魔石はエネルギーの供給源として使われるとエリザは予想した。
魔石を国庫を開きかき集めておくよりも、現在、帝都に保有している魔石で、国庫の銅貨を金貨へ錬金術で錬成して国家予算を倍増させて、それを困窮する平民にばらまくことで、内乱を防ぐ。
それが宰相エリザが、女王陛下に進言した対策案だった。
労働者として、冒険者を安く雇用する冒険者ギルドの報酬制度。
ダンジョンや野外でモンスター駆除で不慮の事故で亡くなってしまった場合に、ギルドへ登録されている遺族への特例報酬の給付金制度。
冒険者になるためのスキル育成のための訓練所の運営者たちに対する減税処置。
冒険者ランクの高い者への報酬額の格差を設定して、個人ではなく冒険者パーティーを編成させ、一定のランク以上の冒険者パーティーのリーダーには、騎士階級として土地を持たない貴族階級としての地位を与える特例処置。
こうしたダンジョン探索や野外に出現して襲来して損害をもたらすモンスター駆除の危険な労働を貴族が行わずに済む制度が、すでに宰相エリザが就任した時には広く普及していた。
モンスターの出現によって、平原諸国の戦乱の状況から同盟を結び、一つの帝国という国家を形成した歴史的な背景がある。
帝国の最高権力者の女王陛下はエルフ族であり、平原の中央にある大樹海には、エルフ族の国がある。戦乱の時代に覇権争いに干渉せず、中立国としてあり続けた。
モンスター出現によって、人間に似ているが見た目が少しちがう獣人族を、奴隷制度で売買する差別が行われるようになり、エルフ族を奴隷にするために侵略しようと大樹海へ進軍した国はすべて撃退された。
エルフ族の王国は、魔法技術において、どんな平原の国々よりも優れていることを知らしめるにはそれで充分だった。
モンスターによって滅亡する国がいくつもあり、奴隷階級とされていた獣人族が逃亡して、獣人族をエルフ族が大樹海へ保護したことで、エルフの王国を盟主とする同盟とモンスターへの対策へのエルフ族の協力を求める考えが、愛と豊穣の女神ラーナ信仰の神聖教団の仲介によって平原各国にもたらされた。
エルフ族と人間族で、同じ信仰を受け継いでいた。
こうして、エルフ族の女王を絶対君主として迎える平原の帝国が誕生した。それから千年後の世界が、現在である。
この世界のエルフ族は大樹海の中心にある世界樹から生まれ、死亡すると肉体は消滅して、世界樹を通じて転生してくる。
男性の容姿のエルフ族は、戦乱の時代よりずっと昔に絶滅していて、エルフ族は女性の容姿をしている。
この世界に君臨するエルフ族の女王陛下は、人間の女性を寵愛する。ゲーム上の設定では、宰相エリザは、エルフの女王陛下に寵愛され、幼少期から育成された人物である。
能力値のパラメーターが高く、優秀なキャラクターだが、モンスター討伐の冒険者パーティーのリーダーを女性キャラクターに設定して、さらにキャラクターの性的嗜好のマスクデータがlesbianになっていることや、蛇神ナーガの異界のゲート封印に関連するイベントを全部クリアすると、このキャラクターがゲームに登場する。
華麗なるオンラインゲーム【神聖シャングリ・ラ】と宣伝されたゲームの「Sorcery doll/風の精霊族の巫女と蛇神封印」のイベントの後日譚の世界。
転生した彼女の記憶によると、「蛇神祭祀書に選ばれし者」というダンジョン探索者たちのシナリオで、新種族のグーラー(女性の恋人から愛情表現として吸血する半人半妖のグール)の乙女が登場するはずだった。
しかし、ダンジョン、もしかすると大陸の全域でモンスターが消失してしまっている未曾有の事態が発生してしまった。
(メイプルシロップ先生、この事態も、ゲームの新しいイベントなのでしょうか?)
オンラインゲーム【聖戦シャングリ・ラ】のストーリー構成、キャラクターデザインは、成人向けマンガを執筆しているメイプルシロップこと緒川翠というマンガ家が手がけており、その繊細な画風を真似をするクリエーターが増え続けている。
マンガ家たちだけでなく、イラストレーター、アニメーション制作スタジオのアニメーター、また最近ではVTuberのアバター制作のCGデザイナーにも影響を与えている。
しかし、スポンサーの老舗アダルト映像製作会社サンダースが、もっとプレイヤーが課金するようにゲームシステムを調整するように製作指揮を行っているゲームプロデューサーの岡田昴に要求。
全面的に製作協力している人気マンガ家のメイプルシロップこと緒川翠が、作品として版権を持っていてスポンサーの老舗アダルト映像製作会社サンダースは、このゲームのみにしか権利を持たないので、これ以上の課金要求には応じないと岡田昴はサンダースよりも規模の小さな下請けのゲーム製作会社にすぎないが主張し、緒川翠と協力してスポンサーの意向に逆らった。
そうした軋轢の結果、スポンサーのサンダースの金儲けに情熱的な社長の風間良和は、ゲームは人気のあるうちに終わらせて、出版社とゲーム内容をマンガ化して電子書籍化することや、月額定額制の動画配信している企業へ、限定のアニメ化作品にして配信する企画を進めるための談合を進めていた。ゲームの人気があるうちに売り込んで、ちゃっかり便乗して儲けが欲しい。
そうしたビジネスの世界の影響力と情熱が、ゲームの世界にも影響してくることがあることや、ゲームの世界に実際に転生している人がいることをゲームを製作している関係者たちはまったく想像していない。
宰相エリザに転生したのは、一人暮らしで、彼氏なしの、高校卒業後就職した会社の倒産で、生活保護受給中の失業中の不遇な引きこもり気味の二十歳のニート女性だとは想像できなかった。
二十歳の女性の失踪は、役所のケースワーカーの訪問により判明して、ニュースで報じられたが、警察は事件性が無いと判断して、失踪者として彼女の失踪を処理して、マスコミもそれ以上、芸能人の離婚のゴシップや話題のスイーツの紹介を優先した。
世間からはすぐに、彼女の失踪は忘れ去られた。長引く不況や円安の物価高騰など、彼女の失踪は自分の生活に密着したニュースだと感じなかった。
ゲームの世界へ転生できると世間の人たちが気づいていたら、彼女と同じように転生したいと望む人は、どれだけいるのだろう?
彼女は宰相エリザに転生して、自分の名前すら思い出せもしないけれど、時々、攻略していた【聖戦シャングリ・ラ】のゲーム内容や、大好きなマンガ家メイプルシロップこと緒川翠の耽美的な作品のことを夢でみて、なつかしく思うことがある。
感覚として銅貨は100円、銀貨は1000円、金貨は1万円といったところ。
月の日数は30日で微妙にちがうが、日曜日のように美と豊穣の女神の礼拝のため5日おきに休日を取る習慣がある。だから6週で1ヶ月。1年は12ヶ月というところは変わらない。
会社のようにギルドが存在しているが、国営のギルドは、病院と教会を合わせたような役割の神聖教団のギルドと、冒険者ギルドだけである。
帝都の王宮にて女王陛下との拝謁を終え、玉座の間から退室した才色兼備の若き宰相エリザに一ヶ月前に転生した失踪者の女性は、オンラインゲーム【聖戦シャングリ・ラ】のキャラクター宰相エリザになりきるために努力しながらも、未曾有の事態に対処しなければならなかった。
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