第2話

(逃げなきゃ、逃げなきゃ。 死にたくない。)

とにかく遠くに。撃たれた店員さんの姿が思い浮かぶ。血が彼女の外にまわりになってた。

(あんなに笑ってたのに。あんなにすこしまえまで僕と喋っていたのに。あんなに僕に優しくしてくれたのに。)

路地に出る。道路に出ると路面店のアパレルの店員さんはレジの後ろに隠れていたり、道路を歩いてる人は、みんなが人を掻き分け掻き分け逃げる芋虫のようだ。

(こっちは通れないな。急がなきゃちんたらしてたら店から出てくる。)

走りながら頭の中で考える。

(ハズレってなんだよ。やっぱり俺のことなのか。やっぱりさっき見たネズミのホログラムは俺の見間違えじゃなかったのか?)

ネズミのホログラムが言っていた。殺し合いをしてもらうっていう言葉が頭の中で何度も反芻する。俺なのか。わかんない。なんで俺なんだよ。なんでいつも俺ばっかりなんだよ。

気づいたら頭の中に鳴り響いていたピッピッって音は聞こえなくなっている。

やっぱり俺の勘違いだったんだ。

走りまくったからか息が上がっている。コーヒーを飲んだからか口の中が乾燥している。

さっきの犯人はどうなったんだろう。そう思い、スマホのSNSのアプリを起動させる。

さっきの地名の場所を検索スペースにいれるとすごい量の件が投稿されている。

「やばくね。」

「銃声聞こえたんだけどw」

「警察が出てるんだけどやば。」

その文面を見て安心した。警察が出てるなら大丈夫だ。中には、発砲動画の動画をあげてる人もいた。一発目の後に撮られた動画のようだ。店内の様子を思い出す。仲良く談笑する女学生、新聞を広げてみる中年男性。考えても無駄だ。わかってる。僕がトイレのドアを開ければ助けれたかもしれない。

唐突に喉に空気が入ったように嘔吐する。

女学生、中年男性が血だまりの上に倒れてるのを想像する。わかってる。わかってる。僕だけ1人で逃げたんだ。じゃあどうすればよかったんだ。

自動販売機で水を一本買う。なかなか水が喉を通らない。

頭の中でピッピッピッの間隔が迫ってくる。

まさか。

バイクがこちらに向かってくる。明らかに法定速度をオーバーしてるように。反射的に体が動く。

逃げなきゃ。

バイクが入れない路地に入り込む。路地から路地を全速力で駆け抜ける。路地がL字になっている。勢いよく壁を蹴って曲がる。うわー。曲がると自転車があった。痛えー。膝が擦りむいた。なんでこんなとこに自転車があんだよ。自転車を倒しながら進む。バイクの大きな排気音が聞こえてくる。花が植えてあるプランターを倒し、室外機の上を乗りながら抜ける。

広げたところに出る。

やばい、このままじゃ追いつかれる。どこかに隠れなきゃ。

アパートが見えてくる。二階建ての青色のところどころさびれているアパートだ。あそこだ。錆びれた階段をのぼる。手前のドアノブから手にかける。ひねる。開かない。バイクの音が大きくなってくる次第に。二つ目ガタガタ。開かない。三つ目、ガタガタ。残りは三つ。四つ目、ガタガタ。開けよ。目から涙が一粒滴る。死にたくないよ。生きたいよ。頼むから開いてくれよ。五つ目、ガタガタ、開いた。

入るか?この部屋に誰かいたらどうする?バイクの音が大きくなっていく。入るしかない。ドアの音が大きくならないように静かに開ける。中は電気がついてないみたいだ。玄関には男物の靴が二つ置いてある。靴を脱ぎ忍足で部屋の中に入る。誰かいるのか?中に入っていくと安心した。誰もいない。テーブルにはコーヒーが一口分。脱ぎ捨てた服が乱雑に置かれている。

ピッピッ。カツカツ。階段を登ってくる音が聞こえる。やばい。やつが来る。どこに隠れる。トイレ?いや、トイレは見つかりやすい。食器棚?いや、あそこには入れない。

押入れしかない。押入れの戸をあけ、布団が一枚入っていたがその中に入る。

ガチャガチャ。男は僕がしたように順にドアノブを捻っていく。あ。僕の中で思考が真っ白になる。鍵を閉めてない。中にいる人に夢中で鍵を閉めてない。心臓の鼓動がありえないくらい胸打つ。

ガチャガチャ。2個目。ガチャガチャ。3個目。

ガチャガチャ。4個目。このまま引き返してくれ。このアパートにはいないんだって思ってくれ。

ガチャガチャ。僕がいる部屋だ。入ってくるな。入ってくるな。 

ガシッ。やつが靴を脱がずに部屋に入ってくるのが聞こえた。

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