探し屋さんは最期に旅をする
赤路湊
探し屋と常勝無敗の武神 前編
探し屋と呼ばれる人物がいた。
人、物、果ては事の顛末まで、あらゆるものを探し当てる。性別は不明、年齢は不詳、住所は不定、其の人物がその地位に至るまでの経歴も誰も知らない。だが確かに言えることは、其の人物の遥か優れた能力は奇跡とも呼べる程のものであるということ。しかし世の評価は高名とはとても言い難い。「依頼した物を探し当てたは良いものの、それを眼の前で破壊された」「行方不明となった人物を探し当てたあと、夜闇へと攫っていった」。能力の高さこそ広く認められているもの の、依頼者を嘲笑うような行動を起こすこともあるとされ、投げかけられる悪評は決して少なくはない。また一方では、打ち立てた実績の数々の中には到底信じられないようなものも含まれているため、「詐欺師」「胡散臭い」と片付けられることもしばしば。
「今日はここらで寝泊まりしますか」
男とも女ともつかない顔は力ない表情を浮かべ、一本に束ねられた美しい青銀の髪は、纏う紫紺のハットとスーツに際立たされる。そしてとても放浪者とは思えないような僅かな荷物を抱えて、金瞳は宿を探す。探し屋を名乗る其の人物が次に土を踏むのはこの街となったようだ。
◇◇◇
「ですから団長を探していただきたいのです!」
「お願いします!探し屋様!」
翌朝、探し屋を訪ねる者が二人。
騎士風の装いの男女はカフェにて頭を下げる。
男はサミリフ、女はセシーラと名乗った。
「はぁ。お話を伺うという約束まではしましたが…」
それを受けた探し屋は濁しながら反応する。
探し屋の力を持ってすれば、人を一人探すことなど容易い。しかし探し屋は依頼を安請け合いしない。自身の奇跡とも呼べるその能力は、使い方次第では世界を根底から揺るがすことすら可能であると自負しているからだ。故に能力を悪用されることは絶対にあってはならない。
一方、探し屋はかなりの気分屋でもある。
ただ単純に面倒だからと依頼を断ろうとすることも少なくはない。探し屋は何よりも自由を愛している。堅苦しい前述は決して嘘ではないが、依頼を快く引き受けるか否かは探し屋の気分に大きく左右される。
「もちろん依頼料は弾みます!このくらいでいかがでしょう!」
サミリフは勢いよく指を5本立てる。事前に打ち合わせて納得しているとは言えど、顔に出やすいセシーラはそれを見て苦しそうな表情で頷く。彼らにとってその5本指は相当に大きな金額なのである。
「まあ、その金額は十分なのですが…」
それでも探し屋は色好い返事をしない。
探し屋はお金に困ってはいない。探し屋にとって依頼料というのは依頼者の本気度を確かめる一つの指標。そしてサミリフらの提示した金額は探し屋を納得させるに十分な額だ。通常であればこの時点で契約を成立させる流れになるのだが、今回はそうもいかない。理由は二つある。
一つは探し屋が昨夜ほとんど眠っていないこと。
酒の有名なこの街は、夜遅くまで賑やかである。
探し屋は酒を愛している訳ではないが、酒に合う料理というものには大変興味がある。移動に時間を費やすことが多い旅する探し屋は、普段の食事は腹を膨らませることだけが目的になりがちだ。故に本来あるべき楽しさを伴う食事に飢えている。その結果、昨日は街が静まり返るときまで探し屋は飲食店を渡り歩いた。そして寝不足となっている。
そうであるならば、依頼料に問題のない本依頼を素早くこなして宿へと帰るほうが、ここで渋ってサミリフらの懇願を受け続けるより良いのだが、問題は二つ目の理由にある。
探し屋はある目的を持って目的地のない旅をしている。そしてこの旅はどこの場所においても一定の滞在時間を要するのだ。つまり、昨日この街へ来たばかりの探し屋は、暫くの間この街で活動することとなる。探し屋が依頼を引き受けそれを完遂すれば、否が応でもこの街に探し屋の名は知れ渡る。そうなれば、探し屋の元へは幾人もの依頼者が足を運ぶであろう。依頼に時間を取られるのは、探し屋の目的のためにはあまり好ましくない展開なのである。
「「お願いします!」」
眠気のために憂いを先に残すか。先のために今を乗り越え得る程の知恵をここから振り絞れるか。そんな探し屋が難しい表情が伝わったのであろうサミリフらは、改めて頭を下げて乞う。
「…………わかりました。引き受けましょう。先に2、成功報酬で後に3でいいですか」
「本当ですか!はい!構いません」
「ありがとうございます!探し屋様!」
自らの押しの弱さに苦い顔を浮かべる探し屋とは対照的に、サミリフは小さくガッツポーズをし、セシーラは満面の笑みを浮かべ感謝の気持ちを伝えた。
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