蒼炎のユキナ姫と聖剣をもった僕~ユキナの願い~

小空Q

第1話 少年、ケイカは大人になれる?!


 ――その少年、涼壬桂嘉(スズミ・ケイカ―10歳)は――ついに大人への階段を昇ってしまう。


「……僕は昇ってしまった……」


 自分でも認めた。

 真夜中、ノートに描いた美少女のイラスト。

 見よう見まねで描いた美少女の半裸の姿だった。

 下着姿の、卑猥な妄想イラストを真似て描いてしまったのである。

 10歳の少年が(表では)してはいけないことをケイカは――とうとう――やってのけたのだ。


「パンツ……パンツ……」


 異性の下着にもほんのり興味を持ってしまうお年頃。

 しかし、実は違った。

 桂嘉は時折、夜中に、不意なことから欲望と妄想に悶え苦しむ時があり、それがイラストとなって創作精神を生み出すのである。


「つ、続きを描く?」


 今のままではパンツの1枚絵だ。

 ではなく、女の子に対する少年ケイカの熱い思いをぶつけたい。

 そんな興味は色んなところへ向かっていった。

 ――脱がす? はたまた何かポーズを付け加える感じがいい?


(らめええええええええええええええええええええ!)


 妄想でアタマが爆発したみたく、10歳の少年は椅子から転落し、床を転げ回る。


 だが、ふと何か思いついたのか「――ハッ!」と、椅子の元へ転がり戻って鉛筆を握りしめた。


「お、おぱ、おっ……お胸なら描いてもいいよね?!」


 アイディアは良いが――描くのはよくない。

 10歳の少年はお胸もだめだからだ。


『―――やめたまえ』


 心の中で良心の神がしかめっ面をして咎めてくる。

 が、瞬間――

『やめるな!』

 背後から悪魔が現れ、神の首を切り落とした!


『――心の神は死んだ。少年よ、やりたまえ』


 行け、GO!

 少年をさらに超えたスーパー少年になるのだ!

 悪魔のささやきに、少年は勇気づけられ、


「そうか! 悪魔か死神の、そういう悪い子の絵ならいいんだ」


 なるほど、それなら許されると?

 だが10歳の少年は根っからの正義党で、ヤバい系の女子よりまだまだ純粋な女神とか神秘な天使みたいな、わかりやすく可愛い憧れのアイドルっぽい子の方が大好きだった。


「うん、うん、だから……!

悪魔じゃなくて、悪魔を倒す戦乙女で……で、その時に、胸のところが見えたり、パンツが見えちゃうのは仕方ないよね?!」


 うんうん、それなら仕方がない。不可抗力というものだ。

 と、勝手に納得し。

 ケイカは悪魔のイラストを描くのは取りやめ、天使だか女騎士だか、善女っぽいのを描こうとする。

 だが、その類の女性は翼とか装備とか、身につける物があまりに豪奢すぎた。

 素人同然な少年には、ましてやまだ未熟な彼には描くことは不可能である。


「…駄目だ、違う。そうじゃないんだ…」


 桂嘉はノートを破り捨てた。

 そう、目的が違う。

 描きたいのは翼や武装ではないし、善悪の概念的なテーマでもなく、発散したいのは純然たる禁書(=エロ妄想)だ。


 ――そうして。

 追加の下着を数枚描きあげたところで少年は疲れ果て、心の神魔大戦争は休戦に入った。

 しかし戦いの後には虚しさしか残らない。


「……これじゃあ、僕は変態だよ……」


 やっと己の愚行に気づいた。

 ベッドの中で少年はノートを胸に抱き、今日、越えてはいけない一線を越えた事に、喪失感にも似た涙を流す。


(僕は最低だ。生きていちゃいけない人間なんだ…)


 誰だってそこまで言ったりしないが、少年にとって誰かに見られたら生きていけないノートではある。

 こっそりと、決して見つかることのないベッドの裏にノートを隠し、そして少年は目を閉じた。


「…このノート、どうしよう」


 気が済んで飽きたら、粉々に破いて、記憶共々に破棄したら良いだけなのだが。

 ――少年、ケイカにはまだそんな未来を想像することはできなかった。




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