第46話 守ること
ラヒカイネン男爵の火魔術が的に向かっていく。俺はそれを即座に水魔術で打ち消した。そうして急いで的の前まで走る。そして的を守るように立ち塞がった。
続いて衝撃波が俺を避けながら的に放たれる。魔術式を見てしっかりと無効化する。
なのに、後ろから的を貫いた音が聞こえた。
「あ……」
それを聞いてつい声が漏れてしまった。どうやら術式を無効にしている間にもう一つ術が放たれていたようだ。
ライヒカイネン男爵が苦笑いする。
「休憩にしようか」
「はい」
今日も失敗してしまったと少しだけ落ち込む。それを含めての相殺訓練なんだけど悔しい。まだラヒカイネン男爵は初級の魔術でしか攻撃していないのに全部消す事が出来ない。
座学で、魔術式を見た上でそれを無効化する魔術式を書く、というのは、割とできるようになった。この間、そういう試験を受けて満点を取った。
でも、実践となると、どこからどんな魔術が出てくるか分からない。だから慌ててしまう。
おまけに『込める魔力が多い』と指摘されてしまった。それも反省点だ。
元刺客、という事以外にも、まだ実力が足りないから俺は見習いなのだろう。もっと努力しなければならない。
「だからいつも言っているけど、そんなに焦らなくていいから」
ラヒカイネン男爵がまた苦笑いをした。
「分かってはいるんですけど、どうしても焦ってしまうんです」
そう答えると、案ずるような目を向けられる。
間違いなく俺は急いているのだろう。元刺客だからよくは思われていないのは自覚している。だからこそ、きちんと実力をつけるべきだと思っている。
それは自分が向上したいというのもある。でも、それ以上に見捨てられるのが怖いという気持ちもあるのだ。
もちろん、すぐに魔王達が俺を見捨てたりしないのはわかっている。でも、そういうことではないのだ。
ふぅ、とため息を吐く。
「ウティレ」
「あ、はい」
さすがに注意された。弱気では駄目なのだ。
「守るという経験は初めてなのだろう?」
「……はい。直接自分に向かってくるよりずっと難しいですね」
ラヒカイネン男爵の言葉を素直に認める。
よくこの訓練をされているのは、職場に王妃殿下がいるからだろう。
彼女自身も自分の身を守れるよう学んでいるようだが、もしもの事があっては困るのだ。
それに、彼女は元勇者という事もあって、敵がとても多い。俺を送り込んだプロテルス公爵は、陛下に抑えられてある程度権力を奪われているが、その一派はまだ水面下で動こうとしているそうだ。
それ以外にも彼女を『魔王陛下を誘惑する悪女』だと考えて排除しようとしてる者達もいる。
王妃殿下に送られる暗殺者はとても多い。
特に後者は正義感で動いているから、とても厄介だと魔王も言っていた。
だから俺たちも彼女を守れるよう、日々努力している。
もちろん、訓練を受けているのは俺だけでなくヨヴァンカ様達も同じだ。ハンニだって王妃殿下の危機を予言して事前に防ぐために修行をしている。
それに、当然俺達は王妃殿下だけでなく、魔王陛下や王妹殿下も守らなくてはならない。
そして、こうやって王族の方々を守ることが、自分の地位を、立場を守る事になるのだ。
特に、王妃殿下が倒れたら、俺達の、魔族に味方したヴィシュ人の立場はとても厳しいものになるだろうから。そんな事を許すわけにはいかない。
この休憩が終わったらもう一度実践をするという。次は成功させるぞと俺は決意を新たにした。
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