第27話 藤崎愛純は温もりを思い出す

「ふぅ、結構食べちゃったなぁ」


「おかげで参考になりました」


「また食べさせてね」


「はい!でしたらそのときは是非妹さんも一緒にどうぞ!」


「あー……」


 何気ない会話の中、牡丹の口から真恋のことが出て私は言葉を詰まらせてしまう。絶賛喧嘩中……かどうかはわからないが、私自身は真恋にどう言った対応をすればいいかに悩んでいる。真恋は私を堕とすとか言っていたが、どうすれば真恋の勘違いを正せるだろうか?


「愛純さん、どうかしましたか?」


「あ、ううん、なんでもないよ」


「?そうですか」


 真恋とのことを考えていると、私の様子を見て不思議に思った牡丹が声を掛けてくる。なんでもないと答えると、牡丹はまだ疑問を感じているようだがそれ以上聞いてくることはなかった。


「それじゃあ、そろそろケーキ屋巡りに行こうか」


 しばらくゆっくりしたところで、私は今日のもう1つの目的に行こうと提案する。二人でケーキ屋を回って研究や見識を広げるのが今日の2つ目の目的だ。


「今日はもう少しゆっくりしてからにしましょう」


「え?でももう試作品の試食は終わったよ?」


「愛純さん、自分がどういう格好か忘れちゃったんですか?」


「うーん、まあ大丈夫だよ」


 私は膝にかかってるブランケットをどけて立ちあがろうとするも、すぐさま牡丹に静止される。


「もう少し温まってからにしてください!」


「えー別にいいって」


「ダメです!」


 そんな会話をしながら立とうとする私を牡丹が押さえつける。そんなことを続けていると――


「ダメで――イヤッ!?」


 牡丹が足をローテーブルに引っ掛けて体勢を崩す。至近距離にいた私がそれに巻き込まれる。


「危ない!」


 咄嗟に牡丹を抱きしめ私が下になる。体を捻ったせいで、私は元々座っていたクッションからズレたところに落ち、尻餅をついてしまう。


「いたた……大丈夫、牡丹?」


「はい、愛純さんは大丈夫ですか?」


「うん、少し尻餅ついただけ」


「そうですか……ふふっ」


「ん?」


「捕まえましたよ!」


「うわっ!」


 私の上に乗ったままの牡丹はそのまま私に抱きついてくる。


「ちょっと!どいてよ!」


「もう少しあったまってからにしましょう」


 私が牡丹にそう訴えるも、牡丹は私を離そうとしない。


「もう……わかったよ」


 抱きしめられたまま、カーペットの上に横になる。


(あったかい)


 牡丹の熱を感じながら考える。牡丹の体温は私よりも高いのか、触れた箇所からじんわりと熱が伝わってきて、私の体を温めてくれる。


(でも、真恋の方があたたかかったな)


 今日の朝、昨日の夜、この数日で何度も感じた熱。牡丹の熱を感じながら、私はその熱を思い出していた。


 ♡ ♡ ♡


「牡丹、そろそろ行こう」


「そうですね、そろそろ行きましょうか」


 大体十分間、二人で抱き合ったままの時間を過ごした私は牡丹に出発することを提案する。牡丹も賛成のようで、今度はすぐに私の上から退いてくれた。


「えーっと、確かここら辺に……」


「よっと、何か探し物?」


「愛純さん、ちょっとこっちきてくれますか?」


「いいけど」

 

 私が立ち上がったところでクローゼットの近くにいた牡丹が私を手招きする。私がそっちに近づくと、牡丹はクローゼットから何かを取り出す。


「ありました!愛純さん、これ使ってください!」


「ダウン?」


 牡丹は取り出したものを私に広げてくる。どうやら黒いダウンのようだ。


「はい、私は使いませんので、もらっていってください」


「そんな、悪いよ」


「愛純さんに風邪を引かれる方が悪いです!」


 私がダウンを突き返すも、牡丹はその度にダウンを差し出してくる。


「貰うのに抵抗感を感じているのでしたら、次会うときに返していただければいいので!」


「……まあそれなら」


「はい、どうぞ」


 どちらも折れない様子に牡丹が折衷案を挙げ、私もそれに同意する。牡丹からダウンを受け取り、軽く身支度を整える、と言っても私はスマホをしまうだけだが。身支度を終えた私達は、階段を降り裏口から牡丹の家を出る。


「うう、さむっ」


 再び外の冷気にさらされた私は、急いでダウンを着る。


「ふぅ、ちょっとはマシになった」


「よかったです。本当にもらってくれてもいいんですよ?」


「それはいいって、ちゃんと返すよ」


 そんな会話をしながら牡丹が駅方面へ歩き出し、それに私が続く。


「今日はどこまで行く?」


「今日は電車に乗って行くつもりだったのですが……」


「大丈夫、スマホの中に定期入ってるから」


 そこまでいって私が何も持ってきていないのを思い出して言葉を濁していた牡丹に、私は、スマホを取り出して牡丹に見せながらそう言う。


「そうですか、なら大丈夫ですね」


「うん!それで、どこまで行く?」


「春休みの間に大学近くに新しいケーキ屋ができたそうなのでそこに行こうかと」


「そっか、大学始まったら混みそうだね」


「ええ、ですので今のうちにと思いまして」


「大学なら歩いて行かない?今日食べすぎちゃったしちょうどいい距離でしょ」


「ですが愛純さんが風邪ひいてしまうのでは?」


「私は大丈夫だよ。牡丹にダウン借りたし」


 本当はちょっと寒いが、体を動かせばちょうどいいくらいだろう。


「そうですか?それでは歩いて行くことにしましょう」


 私の様子を見て大丈夫と判断した牡丹も、それに賛成のようだ。流石にあれだけの種類を食べた上でこの後ケーキを食べに行くとなればお互い気にするようだ。


「何キロくらいだっけ?」


「ここからですと、3キロくらいありそうですね」


「おー、結構いい運動になりそう」


「そうですね、着くまでまたお話でもしましょうか」


 私たちは部屋での雑談の続きをしながらケーキ屋への道を歩いていった。

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