第8話 シスコン姉妹はシェアする

 6・7話のコメントにてご指摘のあった部分を修正しました。

 これからも何か気になる部分がありましたら遠慮なくコメントお願いします!

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「はい真恋、どっちが食べたい?」


 私は買ってきたケーキをテーブルの上に並べる。少し早歩きで帰ったのでケーキの形が崩れていたりなどしていないかと不安だったが、牡丹の包装がきちんとしていたおかげかそのようなことにはなっていなかった。


「うーん、じゃあこれかな」


「え?それでいいの?」


 私の予想とは違い、真恋はモンブランではなくチーズケーキを選んだ。


「真恋ってモンブラン好きじゃなかったっけ?」


「好きだよ」


 私が不思議に思いそう聞くと、真恋はそう答えさらに疑問が深まる。


「私がモンブランが好きだったのはね、お姉ちゃんが好きだったからなんだ」


「……え?」


 私が疑問を浮かべてたのを察したのか、真恋はそう話し始めた。


「昔からお姉ちゃんが憧れで、お姉ちゃんに近づきたくって、それで色々真似してたんだ。モンブランを食べたのもその1つ」


 確かに私はケーキの中ではモンブランが好きだ。真恋がモンブランが好きとわかった時はお揃いなのがひどく嬉しかったのを覚えている。偶然だと思っていたのがそう言った理由だったなんて思いもしなかった。


「あ、もちろんモンブランはケーキの中で一番好きだよ!お姉ちゃんの真似して食べてたらハマっちゃったんだ」


「そうなんだ、ならやっぱりモンブランは真恋が食べて」


「ううん、モンブランはお姉ちゃんが食べて、買ってきたのはお姉ちゃんなんだから」


「いやいや真恋が――」


「ううん、お姉ちゃんが」


 私と真恋は互いに一歩も引かずにモンブランを譲り合う。こういう時、私たちは互いに折れたことは無かった。きっと今日もそうなのだろう。そう考えた私は真恋に提案をする。


「じゃあさ、二人でシェアして食べよう」


「うん、それならいいかな。ありがとうお姉ちゃん」


「お礼を言うようなことじゃないよ」


 私はそう言って食器棚からフォークを二本取り出し持ってくる。


「それじゃあ食べよっか」


「うん!いただきまーす!」


「いただきます」


 まず私はチーズケーキに手をつける。『Lily garden』のチーズケーキは茶色という珍しい色合いをしている。何でも、ゴートチーズというノルウェーのチーズを使っているらしくそのチーズがこういう色らしい。

 チーズケーキを一口大に切り分け、口へと運ぶ。チーズケーキはねっとりとした食感をしており、濃厚なキャラメルのような甘さを引き立て、その中にほんのりと塩味を感じるのがいいアクセントになっている。それでいてチーズの味わいもするのだから不思議だ。


「この時期にモンブランって珍しいね」


「なんか店主の奥さんが大のモンブラン好きで、いつでも食べれるように作っててそのついででお店に出してるらしいよ」


「へぇ、お姉ちゃん詳しいんだね」


「ここ、大学の仲のいい友達の実家のお店なんだ」


「ふーん」


 普段は育児であまり店には出てこない百合園家の奥さんだが、一度だけお店で会って話したことがある。その時はモンブラントークで盛り上がったものだ。

 

「お姉ちゃん、交換しよ」


「あ、そうだね。はいこれ」


 真恋がケーキの交換を促してくる。私はチーズケーキを真恋へ差し出すが、真恋はケーキのお皿をこちらへ差し出す気配がない。


「真恋?どうしたの?」


 私がそう聞くと、真恋はおもむろに手に持ったフォークでモンブランを切り分けると、私の方へ差し出してくる。


「お姉ちゃん、はいあーん」


「え?真恋?」


 突然のことに私は困惑する。その間も、真恋のフォークを持った手はこちら近づいてきている。


「あの、真恋、それは恥ずかしいというか、なんというか」


「これくらい小さい頃はたくさんやったしお姉ちゃんもしたでしょ?」


「でも、だからこそ恥ずかしいというか」


「あーん」


「真恋なんか怒ってる?」


「あーん」


 突然のことに私は困惑するも、真恋は有無を言わせぬ雰囲気でモンブランを突きつけてくる。それどころか、なぜか怒っているようにも見える。その様子に、私は覚悟を決めて口を開く。


「あ、あーん……あむっ」


「美味しい?」


「……美味しい、です」


 そう答えたものの本当は、心当たりのない真恋の怒りへの不安と、あーんされているという状況へのドギマギで、味なんてわからなかった。


「じゃあ次はお姉ちゃんがあーんして」


「え、えっと」


「はーやーくー」


 そう言って真恋はテーブルへ身を乗り出して口を突き出してくる。


(あーんされるよりはマシかな)


 私はそう割り切ってフォークにチーズケーキを一切れ刺し真恋の方へ差し出す。


「は、はい、あーん」


「あー……あむっ」


 私が声をかけると、真恋はフォークへ近づきチーズケーキを口へ含む。


「どう?美味しい?」


「ん、おいひい」


「っ!!」


 私が真恋に感想を聞くと、真恋はフォークを咥えたままそう返す。私の手元に顔があるため必然的に真恋は上目遣いになり、その絵面がどこか背徳的で私はまたドギマギしてしまう。


(するもされるも生き地獄だ……)


 私の心臓の鼓動は高まり、ドクンドクンという音が聞こえてくる。


「ん!なんかこのチーズケーキ独特な味だね!私は好きだけど」


「そ、そうだね」


 余裕のない私は真恋の感想にまともに言葉を返すことができない。そんな私を見て、真恋はニヤリと笑った。


「もしかしてお姉ちゃん、ドキドキしちゃってる?」


「っ!!そ、そんなことないけどなぁ」


「どうかなぁ?ふふっ……ボソッ(私でドキドキしてくれたんだ、嬉しい)」


「ちょっと、からかわないでってば……」


 私がそう訴えるも、真恋は未だニヤニヤした顔でこちらを見ていた。


「……よしっ」


「お姉ちゃん?」


 このままでは恥ずかしさで死んでしまう。そう考えた私は最終手段を行使することにした。一度席を立つと、物置の方へと足を進める。大量に積まれた真恋の引っ越しの段ボールをすり抜け、奥の方にシックな質感の箱が見えてくる。私はその中身を取り出し倉庫を出ると、食器棚からワイングラスとワインオープナーを取り出しテーブルへと戻る。


「それってワイン?」


「うん、引っ越し祝いで貰ったやつ。今まであんまり飲む気にならなくて二十歳になってからも付き合い程度でしか飲んでなかったけど、今日はパーティーだしね」


 それに酔って恥ずかしさを忘れたいし。私はワインのコルク栓を開け、持ってきたワイングラスへ注ぐ。貰ったワインは白ワインで、柑橘系の果物の香りがフワッと広がる。ワインの準備ができた私は、コンビニで買ってきたおつまみを持ってくる。

 

「ケーキにおつまみ合わせるの?」


「流石にケーキを食べ終わってからだよ。真恋は何か飲む?」


「じゃあカフェオレ」


「寝られなくなっても知らないよ?」


「大丈夫だよ」


 私がそう心配するも、真恋は問題ないと言うのでコーヒーの準備をし、仕送りの中に入っていた牛乳を混ぜる。


「はい、できたよ」


「お姉ちゃん、ちょっと遅いけど乾杯しよ」


「そうだね、しよっか」


 私はワイングラスを、真恋はマグカップを手に持ち乾杯をする。


「乾杯!」

 

「かんぱ〜い!」


 ♡ ♡ ♡


「そうなんら、真恋、受験ベンキョー頑張ったんだねぇ」


「うん!お姉ちゃんと一緒に住みたくてね」


「わらひと住みたくてぇ?ふふっ、うれひいなぁ」


「お姉ちゃん、もう酔ってるでしょ?」


「よっへないよー」


「もう、仕方ないなぁ」


 一瞬の浮遊感の後、ふかふかの何かの上に優しく投げ出される。


「こんなに無防備な姿、他の人に晒しちゃダメだからね」


 だんだんと眠気が回ってくる。重い瞼がしまっていく。


「おやすみ、お姉ちゃん♡」


 眠りにつく前、私の視界が最後に写したのは、恍惚とした表情をした真恋だった。

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