【3万pv達成!】愛する姉と恋する妹のシスコンラブコメ

熊肉の時雨煮

第1章 とあるシスコン姉妹のこじれ

第1話 愛する姉は愛しの妹にキスをした


「……ぷはっ」

「ん……」


 2つの息が重なる。取り込んだ酸素は頭まで回っていないのだろうか、私の頭はまるで溶けたように放心していた。

 私の鼻を掠める綺麗な黒い長髪から匂いが香る。私がプレゼントしたシャンプーの香りだ。私の匂いに染めたという事実が私の醜い独占欲を満たす。

 

「……お姉ちゃん?」

 

 目の前では真恋まこが惚けたように私を見てそう呟いた。

 真恋の声を聞き、彼女を見る。真恋の目には恍惚とした表情を浮かべた私が映っていた。


「あ……」


 瞳に映る私の姿を見た瞬間、思考が冴え、私の胸が早鐘を打つようにドクンドクンと脈打ちだす。それは世界で一番愛している存在と至近距離にいるせいか、はたまた私がつい先ほどした行為に関する罪悪感だろうか。


「ご、ごめん!私、明日学校早いから!!」

「あっ、待っておね――」


 真恋の静止の声を振り切って真恋の部屋を飛び出す。そのまま駆け足で自室へ駆け込んだ。鍵をかけ、ベットに飛び込み布団を被る。


「最低だ、私って……」


 外界と壁を作ろうと被った布団は意味をなさず、私の耳には扉を叩く音と私を呼ぶ真恋の声が聞こえる。


「気持ち悪い」


 藤咲愛純ふじさきあすみ、18歳。大学へ通うための上京の前日。



 その日、私は6つ下の妹にキスをした。


 

 ♡ ♡ ♡



 チクタクチクタク、と小気味良いリズムを時計が刻む。窓からさした西日が私の顔を照らす。


「……また夢か」


 時計を見ると時刻は17時過ぎ、どうやらソファへ横になって少し休むつもりが昼寝してしまったようだ。


「もう三年……いや、まだ三年か」


 先ほどまでの見ていた夢を反芻しながらそう考える。その夢はまるで罪を忘れるなとでも言うかのように、周期的に訪れる。


「何でキスしちゃったんだろう」


 あの時、気づいた時にはキスをしていた。いくら考えてもなぜしたのかはわからない。ただそうしなければいけないという焦燥感が私を支配していた。


「夕飯作らないと」

 

 そうやって私は無理やり思考を切り替え、寝過ぎで気怠い体をソファから起こす。


「……気持ち悪い」


 私のTシャツの背面は寝汗で濡れ、べっちゃりと私の背中へ張り付いていた。ソファへ目を落とすと、そちらもTシャツ同様ぐっしょりと濡れている。

 

「早く着替えよ」


 着ていたTシャツを脱ぎ去り、椅子の背もたれへかけると、たまたま近くにあった昨日着たTシャツへ袖を通す。濡れたTシャツを手に取ると、洗濯機へ放り込むためゴミ袋の貯まった廊下を、かろうじて見える床を狙って進む。

 ゴミ袋の密集地帯を抜け脱衣所へたどり着いた私は洗濯機の中へTシャツを投げ込む。ふと洗濯機を見ると、その中はたくさんの洗濯物でいっぱいだった。


「そろそろ掃除も洗濯もしないと、着る物も無くなっちゃうし」


 学生の一人暮らしにはあまりに不相応なマンションの一室は、これまた不相応なゴミ屋敷へとかしていた。あまりの家の有り様に掃除をしないとと考えるも、また後日でいいかという思考に至りキッチンへ行くために廊下を引き返す。

 夕食の献立を考えるため冷蔵庫の中を除くと、そこには卵がいくつかと数枚のハム。そしていくつかの調味料があった。冷凍庫には冷凍食品の類は1つもない。


「あー、そういえば昨日冷蔵庫の中切らしてたんだった」


 そう言いながらも一縷の希望をかけ野菜室を除くと、ラップで包まれたいくつかの野菜のかけらがあった。


「1食分にはなるかな?」


 そう考えひとまず野菜室の中にあるものを全て出す。キャベツ1/4玉にきゅうりが半分、プチトマトが数個。


「今日の夕食はハムエッグとサラダかな」


 まるで朝食のような献立に苦笑いを浮かべながらも、自分の料理知識と技術ではどうすることもないと割り切る。

 電気ケトルに水を注ぎ電源を入れる。リビングのテレビをつけニュースを垂れ流しながらまな板を取り出し、野菜類を適当に切っていく。

 あまり多くない野菜類を切り終わった頃、ピーンポーン、と玄関から来客を告げるチャイムが鳴り響いた。


「何かネットで何か買ってたっけ?それとも何かの宗教の勧誘?」


 身に覚えのない来客に疑問を覚えていると、再び玄関からチャイムが鳴る。


「はいはーい、今出まーす」


 気の抜けた返事をしながら再び廊下を抜け玄関へ向かう。

 この時、私はインターホンで相手の姿を確認するべきだったのだろう。しかしこのゴミ屋敷を進むのが面倒だと考えた私はたった数歩のためにそれを怠った。それこそが私の今日いちばんの愚行だった。


「どちら様で――」


 玄関に辿り着いた私は何の躊躇いもなく扉を開く。そこにいたのは、配達業のお兄さんでも、怪しい宗教勧誘のおばさんでもなかった。


「――久しぶり、姉さん」


 サラサラと手入れのされたウルフカットの綺麗な黒髪、私に似た顔立ち、背丈や髪型こそ変わっているもののその姿は記憶の中の彼女の姿に重なった。


「なんで……?」

「今日からお世話になるからよろしくね♪」


 そこには三年ぶりに顔をあわせる妹、真恋の姿があった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――


 初めましての方は初めまして、『吸血公女に拾われた』を読んでいただいた方はありがとうございます、作者の熊肉の時雨煮です!

 今作『愛する姉と恋する妹のシスコンラブコメ』は私の二作目にして初めてのラブコメです。本日、12月1日は公開初日記念、そしてカクヨムコン9参加のスタートダッシュとして複数話時間差投稿を予定しています!次話の公開予定時間は15:02です!

 みなさんどうか温かい目で読んでいただければと思います。

 姉妹百合は最高だぜ!!

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