剣王転生〜剣を捨てた最強の剣王は、生まれ変わって剣を取る〜

農民ヤズー

第1話剣王・ディアス

また新作を投稿しました。

細かい設定は考えておらず、見切り発車で書いているので名前や設定が間違っている場合がありますが、その場合は優しく指摘していただけると助かります。


更新は基本的に毎日七時の更新となりますが、更新がない場合は忘れているかできていないかですので、まあそんなもんだろと許していただけばと思います。


それでは以下より本文となりますが、楽しんでいただければ幸いです。

——————————

 また勝つことができた。良かった。これでまた人は幸福になれる。また、幸福に一歩近づくことができる。

 だからきっと、良かったことのはずだ。


「——おめでとうございます。これで七度目の勝利となりました」

「いやはや、また人間の領土が増えることとなりますな。これもひとえに剣王様のお陰でございます」

「それでは、増えた分の領土は我々の方で適切に処理しておきますので、剣王様はお休みください」

「……ああ。任せる」


 いや、もしかしたら、私は勝たない方が良かったのかもしれないな。


 勝つために戦ったはずなのに、その戦いで勝つことができたはずなのに、負けた相手は私以上に勝ちたいと思っていたはずなのに……

 それなのに、私はそんなふざけたことを考えてしまった。


 人魔戦争。あるいは、境界戦争と呼ばれる戦いが人間と魔族の間で起こってからもう何百年、何千年と経った。

 始まりがどうであったのかなど知らん。

 ただ、現在は人と魔を隔てている境界の術を書き換え、領土の奪い合いをしているのが事実だ。


 十年に一度、両種族から百の武勇に秀でたものを集めて戦わせ、最終的な勝者がいた陣営が勝ちとなり相手から領土を奪うことができる。そしてあらかじめ決めていた通りに境界を動かし、陣地を得る。あるいは、失う。

 それが境界戦争と呼ばれる戦の概要だ。


 その戦争で、私は王として剣を振るい、魔族に勝利し、今回も新たな領土を手に入れた。


 皆が喜ぶのもわかる。これで人間は新たな土地を手にいれ、土地にあった財物を手に入れ、人員を手に入れ、発展し、幸福を手にすることができるのだから。そのはずなのだから。


 だが……もう、いいのではないだろうか?


「アガット、ライーダ。それと……」


 王の部屋の前で待機していた臣下の二人を呼び、そこで言葉を止めて天井を見る。それ以上なにもいうことはないが、それだけで相手が理解したと判断し、正面へと向き直る。


「ここの守りはいらん。ついてこい」

「「はっ!」」


 二人の返事を聞き、歩き出す。

 どこに向かうのかなど聞かれることなく、ただ後ろからついてくる足音だけが聞こえる。

 この三人とももう長い付き合いだ。言葉など交わさずともついてきてくれる足音が、今はとても心地良い。


「剣王陛下。どうかされましたか?」

「……少し、歴代の王達の顔を見に来ただけだ」

「左様でございましたか。では、しばしの間私めは離れて——」

「いや、そのままでいい。そなたらの仕事を邪魔するために来たわけではないのだからな」


 やってきたのは、歴代の王達——境界戦争の優勝者達の絵が飾られている、王の執務室。

 王の、とはいえど、王として最も大事なのは境界戦争で勝つことであるため、執務室には他にも数人の臣下が作業をすることができる空間がある。

 どちらかというと、ここでまともに仕事をするのは臣下達の方が多いだろう。所詮私は戦争で勝つための駒であり、民を安心させるための神輿でしかないのだから。


「七度目か……」


 歴代の顔を見ていると、自然とそう呟いていた。


「遅ればせながら、此度の勝利おめでとうございます」


 そんな私の呟きを聞いたからか、執務室で作業をしていた臣下の一人である男が祝いの言葉を口にしたが、確かこの男はこの執務室のまとめ役だったか?


「……そなたは、剣王として勝ちたいと思ったことはあるか?」

「はは。私などが勝てるほど甘い戦ではありますまい。ですが、憧れがなかったといえば嘘になりますな。私に限らず、この国に住まう者……いえ、この世界に住まう人間で一度も思わないものはおらぬでしょう」


 戦争で勝つことで人はより幸せになれる。魔族の危険に脅かされることなく過ごすために剣を取るものは大勢いる。

 その中で戦争に参加することができる者は限られているが、剣を手にした以上は誰しもが戦争に参加すること……そして、戦争で勝つことを夢見る。私とて、昔はそうだった。自分こそが都権を取り、振り続けた。


「……そうか」


 だが、今の私にはどうにも空虚なものにしか感じられなかった。


「私などは、こうして筆を取って計算仕事をするくらいしかできませんが」

「それとて立派な仕事だ。私となにも変わらんさ」

「ありがたきお言葉。ですが、陛下の代わりは誰もおらぬのですから、ご自愛ください」

「私の代わりはいない、か……」


 そんなことはない。現に、こうして歴代の王達は変わってきたのだから。

 私が死んだところで、別の誰かが戦い、王になるだけのことだ。


「……私はな、終わらぬ戦いの終わりが見たかった。無茶であろうと、無謀であろうと、いずれ自分がと、そう思っていた。だが……ふっ。やはり無謀な夢であったな」

「そのようなことは決して。確かにまだ戦は終わっておりませぬが、それでも確実に終わりへと近づいたことでしょう! 未来の歴史では、剣王の名は何者よりも輝いておられるはずです!」


 剣王などという名前が欲しかったわけでも、歴史に名を残したかったわけでもない。ただ私は……俺は、誰もが苦しむことのない平和な世界を、誰もが笑っていられる理想の世界を手に入れたかっただけだった。


 だが、結局そんなものは理想でしかなく、単なる餓鬼の夢物語でしかないのだと、理解できてしまった。それも、この歳になってようやくだ。少し、遅すぎたかもしれないくらいだ。


 だが、もう十分だろう。私はもう十分戦ったはずだ。

 私が降りたところで、次は育っているはずで、今後も人間は〝幸福な暮らし〟を続けていくことだろう。


「すまないが、戦王庁の者どもに伝えてくれ」

「はっ。なにをでございましょう」

「私は王を降りると」


 もう、十分戦ったはずだ。

 もう、十分勝ったはずだ。

 もう、十分手に入れたはずだ。

 だから……もういいだろう?


「……………………はあ?」


 今は突然のことで頭が受け入れていないのかもしれない。なんとも惚けた声が返ってきた。

 だが、直に理解できるだろう。


「頼んだぞ」


 そう言いながら胸についていた勲章をそばにあった棚の上に置き、マントを床へ放り捨てた。


「お、お待ちください! なぜそのようなことをおっしゃるので——」

「私は、もう長くない。それに、もう十分だろう。七十年も戦い続けてきたのだ。七度の戦。七度の勝利。人類は魔を退け、大陸の七割を支配した。もう、私がおらずとも人はやっていける。元々、私は王の器などではなかったのだ」


 ただ剣を振るうしか脳がない男が、よくもまあ剣王などと呼ばれてここまで来ることができたものだ。その点は自分でも賞賛に値すると思っている。

 だが、ここまでだ。私は王に相応しくないことなど、とうに理解している。それでも人のためと思い戦い続けたが、少し長く居座りすぎた。


 だが、私の言葉を受け入れられなかったのだろう。私の対応をしていた執務室のまとめ役ではなく、臣下の一人が声を荒らげた。


「し、しかし! しかしあなたがいなければ我々は——」

「それにな……もう、疲れたのだ」


 戦にも……人にも。


「で、ですが——」

「剣王陛下。おこころ安らかにおやすみください。後のことは、我々が……我々にお任せください」

「そうか。よかった……」


 尚も言い募ろうとしたその男をとめ、まとめ役の男が臣下の礼をとりながら答えた。

 良かった。私の意思は、想いは、しかと伝わったようだ。本当に良かった。これで……解放される。


「そなたの名は、確か……クロ……」


 なんだったか。確かに聞いたことがあるはずなのに、思い出すこともできない。


「クロード・ドラクネスでございます。陛下」

「そうか。そうだったな。臣下の名すら覚えられていない私は、やはり王には相応しくないな」


 主人の意を汲んでくれるだけではなく、外が戦勝で浮かれている中であっても己の仕事をこなしてくれている臣下の名前すら覚えておくことができないなど、王にあってはならないことだ。


「そのようなことは決して!」

「クロードよ。……この国を頼む。そなたらも、頼んだ。剣を振るうだけが戦ではない。そなたらの戦場はここだ。ここでの戦が終わることは生涯こないだろう。辛く、苦しい時もあるだろう。だが、それでもそなたらはここで戦い続けてほしい」

「……はっ!」


 クロードと、他の執務室の面々を見廻してから一つ頷き、私に付き従ってくれていた臣下であり、護衛であり、弟子である二人へと体を向ける。


「アガット・クレイグ。ライーダ・サラン。できる限り彼らのことを守ってやってほしい。それから、他の者達への説明も頼んだ」

「「はっ。拝命いたしました」」


 この三人も、言いたいことはあるだろう。引き留めたいと思っているはずだ。それでもなにも言わずにいてくれることが、ありがたかった。


「感謝する。そなたらが……今この場にいるそなたらこそが、真の忠臣である」


 私の心配をするふりをして新たに得た領土の話し合いをする自称忠臣とも、ただ勝利に浮かれて酒に酔うだけの貴族とも違う。

 こんな祝いの時であっても浮かれることなく己の仕事をこなし続けてくれているこの者達こそが、私にとって真の忠臣と言える者達だ。

 こんな素晴らしい者達が仕えてくれたことは、私の王としての人生における幸福の一つであろう。


「……人類に勝利あれ」

「「「人類に勝利あれ!」」」


 戦争時にいつも口にしていた台詞を呟き、その後に続いた重なった声を耳に部屋を後にする。

 だが、そこで一つ気づいたことがあった。


「最後に、一つだけ置き土産をしていこう」


 そう言いながら腰に帯びていた剣を抜き……


「——【天断】」


 私の一振りは、文字通り天を断った。


「ああ、これで民の笑顔がよく見える」


 曇っていた空は突然割れ、そこから陽の光が城下を照らした。

 突然の現象に空を指差す者も、私の仕業だと気づいてこちらに手を振る者も様々だが、皆一様に笑っている。


「では、私は逝くとしよう」


 この光景を見られただけで、私は満足だ。最後に見る光景としては、悪くない。


「「「剣王陛下万歳!」」」


 聞き慣れたはずの、だが震えている声を耳にしながら、私は自室へと戻っていった。




 翌朝、自室にて『剣王』ディアス・グリフォスの永眠が確認された。

 享年八十八歳にて七度目の『人魔境界戦争』に勝ち抜き、人類の領土を守った剣王の死に、世界中の人々が嘆いた。


——————


できる限りなくそうとは思っていますが、いつも通りのことながら誤字脱字があると思います。

誤字の報告してくださる場合はお手数ですが、上・中・下で大体文章のどの辺にあるのか教えていただけると助かります。ただの誤字報告でも歓迎です。





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