Exhibition Game
第73話 思うんだけど、あたしって
実は、友達がいなかった。
「マヒロ、日本に帰ったら、サッカーするの?ダンスするの?」
「えー、わかんない♪ あたし天才だから両方かな♪ 」
日本人学校の友達に手を振ってバイバイする。次にあたしたちはいつ会えるのか、もう分からない。もう会えない可能性の方が高いから、そのうち忘れてしまうだろうな。
この頃のあたしには、友達なんてそんなもんだった。
パパの海外転勤が続いて、あたしが身に付けた、とりあえず誰か現地の子と仲良くする処世術は、言語よりも体を動かすことだった。言語が違っても、遊び仲間を見つけるには、それが最適だったから。
小さい頃からヒップホップを習ってた。この国に来て、ダンスで仲良くなった子に、この国でも流行しているサッカーに連れて行かれて、それでサッカーも覚えて、とんとん拍子で街のクラブチームに入れてもらえて大活躍だ。ダンスもサッカーも人よりすぐに巧くなって、褒めてもらえてあたしはご満悦だった。
思うんだけど、あたしって、ちょっと天才肌なんだよね。
日本に戻って、あたしは適当に家から近い高校に入った。
どうもあたしの言動は、周りから見ておかしいらしく、どこに行っても大抵はちょっと浮く。高校では、帰国子女だからって、みんな何となく納得してくれたみたいだけど、多分、それは違う。だって、どこの学校でも、変だって言われてきたから、自分が変なのは分かってるし、あんまり気にしたことはない。それくらいあたしはマイペースだ。
で、この学校には、ダンス部がなくてサッカー部があったから、サッカー部に入った。結構軽い気持ちで入ったんだけど、ダンス部がなくて良かったんだろうなと、大人になってから思った。
「あたしの名前は、後藤まひろでーす。Go toの後藤でーす」
って自己紹介したら、まひろじゃなくて、ゴトゥーって呼ばれるようになったのが最初の予想外だった。ゴトゥーって呼びにくいと思うんだけど、3年間、そう呼ばれ続けることになった。
問題は、その後の予想外だった。
自分なら誰より上手で、入部したら即レギュラーだなんて思ってた。ちょっとくらい年上でも、体が大きくても、そんなの関係なくって自分がいちばん巧いだろうと。ところが、そんな思い上がりは、あっという間に潰された。
まずは、3年生。キャプテンの原先輩がダントツで巧くて、
先輩なんだから仕方ない、そう思おうとしたら、同学年にも凄いのがいた。
ニシザーこと
勘だけで突っ走るあたしと違って、才能の上に重ねた基礎と努力で、どこのポジションでも期待されたことに応えられるバランスの良さ。同い年でこんな巧い子は見たことがなかった。
そして、そのニシザーに連れられて来た、遅れてきた新入部員。
ハセガーこと
キーパーどころかサッカーすら経験ないのに、体格と運動能力が半端なくて、先輩たちの負傷があったとはいえ、あっという間に試合に出るようになった。ニシザーが連れてくるだけのことはあるなと思ったけど、こんなにニョキニョキ上達されると妖怪としか思えない。妖怪、怪獣、怪物、そういうの。でかいから怪獣かな。
ニシザーもその頃はFWだったから、ライバルでもあって、ニシザーより点を取ろうと思ってた。
それから、ハセガーは、新人キーパーで早く一人前になりたいって、試合の度に人一倍気合が入る。そんなハセガーを少しでも楽にしたくて、もっと点を取れるようになりたかった。
だから、あたしが、その後の3年間で南高の点取屋みたいに言われるようになれたのは、この二人のおかげでもある。
なお、高校に入って最初にできた彼氏が、原先輩がめっちゃくちゃ可愛がっている弟だったせいで、あたしは原先輩に、めったくそにいたぶ、違う、可愛がってもらえた。まぁ、よく拳骨食らったけど、嫌じゃなかったし、構ってもらえるのは楽しかった。でも、その話をし出すと止まらなくなるから、今はちょっと置いとく。
同じ学年で、最初に試合に出るようになったのが、あたしたち3人だったから、まあ、3人セットみたいに周りからは見られていたけれど、実際は、ニシザーとハセガーのペアにあたしがくっついてたというのが本当のところ。だって、だーれもあの二人の間には入れないもん。3人組って言っても余りものみたいな感じだったのは否めないよね。
でも、なかなか面白い、いや、素敵なポジションだったんだ。
高校1年の夏、県の
結果として、ハセガーは壁を乗り越えて懐に入ってしまえば、実はパーソナルスペースが狭いというタイプで、それはあたしも同じで、親しくなった途端、二人でペタペタくっつくようになってしまった。
ハセガーは大きいから、甘えたくなる。
あたしにしてみたらそれだけだ。
でも、ニシザーから見たら違うらしい。
あたしがハセガーにくっついてると、ニシザーは慌ててひっぺがしにくる。
そんな面白いことに気付いたので、余計にハセガーにあたしはくっつくようになった。ハセガーはあんまり気にしてないけど、ニシザーは結構ムキになっている。
試合以外では穏やかな感じのニシザーがハセガーのことになると違ってしまうのだから、面白かった。
ニシザーがムキになる理由を知ったのはいつだっただろう。
1年の終わりだったかな。
ハセガーが、たまにニシザーのことを名前で、
「やだ」
「なんで?」
「他の子が、ニシザーのこと、雅って呼んだら嫌だもん。ゴツーだって、そう呼ぶでしょ」
「そら、そうかもしんないけど」
「それが嫌なの。雅って呼ぶのはわたしだけだよ」
ハセガーがちょっともじもじしてから、顔を上げて、あたしを真正面から見た。
「ゴツー」
話しかけられたあたしは、先を促すように首を傾げた。
「……わたし、わたしね、変かもしんないけど、……ニシザーが、雅のことが、好きなの」
「あたしもニシザーのこと好き♪ 」
「そういうんじゃなくて!」
「……え?」
そうしてハセガーは、ニシザーと付き合っているのだと白状した。それはそれは、なるほど、と思う。
「ニシザーには、わたしが喋ったこと、秘密にしておいて」
「はーい♪ 誰にも言わないよー」
あたしは細かいことは気にしないのだ。
それから多分1か月も経たなかったと思う。2年に進級したかしないかの頃。
「ゴトゥー……!」
あたしが余りにハセガーとベタベタし過ぎてニシザーが遂にキレた。
あれは怖かった…。
部室で壁ドンしてきたニシザーの顔、その形相が、目が、ちょっと盛って言うと、あたし、殺されるんじゃないかと思った。
「ハセガーにあんまりくっつかないでほしいん」
「……はぁい」
「ゴトゥーだから言うけど、私、長谷川
そこでニシザーは口篭っちゃったけど、ハセガーから聞いてたから、ニシザーの言いたいことは分かってた。
「うん、分かった。……それから、誰にも言わないから、許して」
「ハセガーがゴトゥーを気に入ってるから、多少なら、くっついても許すけど、事と場合によっては許さないん」
どんなコトとかどんなバアイなら許してもらえるのかなっ?
「分かりましたぁ」
そう言うしかなかった。
それからも、あたしはハセガーにくっついてる。ありがたいことに、まだ、コトとバアイにはよってないみたいで、睨まれるくらいで、無事生きている。
むしろ、あたしとしては、二人の関係を知れて喜ばしかった。
ハセガーとニシザーの両方から両方の話が聞けるのだ。
周りはみんな二人のことをサッカー馬鹿だと思ってたけど、ふだんは全く知ることができない二人の恋をあたしだけが知っていたんだから。
やたら惚気るハセガーと
やたら悩み相談してくるニシザーとの
両方の話を聞く。
これが、まあ、普通といえば普通で、それでいて時々普通じゃなかった。ハセガーがプロで、ニシザーが大学進学を決めた頃なんて、両方から毎晩相談受けたし。
まあ、あたしも悩みや惚気を二人によく聞いてもらったからお互い様なんだけど♪ 。
高校を卒業して、あたし達はバラバラになった。
それでも、二人はちょくちょくあたしに連絡してきて、あーだこーだと報告してくれて、結局、あの二人は高校の時からずっと仲が良くって、一緒にいられないときも、気持ちがぶれることがなかったことをあたしが一番よく知っている。
大したもんだと思う。
まあ、人の恋愛相談に乗っていられるほど、あたし自身の恋愛がうまくいっていたとは言い難いが、原くんとは、くっついたり離れたりもしたけれど、なんだかんだで、やっぱりくっついている。
原先輩をお
ちなみにだが。
さすがに、今では二人のことを、それぞれ涼、雅って呼んでるし、
あたしのことは
「まひろー!!聞いてよ、雅ったらさあ」
気が付いたら、ゴトゥーは卒業してた。
でも、トモダチは卒業しない。
一生だ♪
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