転換生

リバース・ボイス＆実りの宴

　命の数は平等だが、命の価値は不平等だ。

　当たり前だ。

　女が偉い。

　子を産むから。

　子を産まない女は許さん。

　と言っても。

　俺も女が好きでない。

　俺の能力はしょうもない。

【リバース・ボイス】。

　男に女言葉をしゃべらせる。

　女には男言葉をしゃべらせる。

　あー。

　パリピグループなんかに入ったのは一生の不覚だ。

　コイツらはただの「勉強しません同盟」だ。

　どうしてくれよう。

「俺さー。もう１曲行っちゃうー！」

　あのさ。

　社会人ではないんだ。

　交際費は経費で落とせない。

　ああいうのは社交パーティーだ。

　飲み会と一緒だ。

　本当に空気読めないんだな。

　お前らボンボン。

　あーあ。

　タンバリンタンバリン。

　どうしよう。

「俺がー！　俺たちがー！　正義だー！」

　これが俺の能力を使うと、

「私がー！　私たちがー！　正義なのー！」になる。

　やらんけど。

　まったく。

　割り勘という言葉を考えた奴を殺したい。

　たかりだ。クソが。

　夜の町を歩く。

　お姉さんがチンピラに絡まれてるとかあってたまるか。

「あの部長ムカつく！」

「まあまあ」

　はあ。ＯＬさんか。

　いいだろう。給料の内だ。

　学年５番取ったことを知られたら、俺は何をされるか。

　使うか。

【リバース・ボイス】。

「あの部長、僕のことを何だと思ってるんでしょうね！」

「どしたの？」

　あー。

　百合カップルが成立したら俺のせいだ。

　どうしよう。

　アイツらの陰謀に思えて来た。

　俺の勉強時間を削りたいのか。

　付き合いが悪いか。

　あーあ。

　仕方ない。

　１人ずつ破滅させるか。

　射程距離は教室１つくらいは余裕だ。

　俺は冬林美穂乃と言う。

　母の名前はリリカって言うんだ。

　日本が限定的一夫多妻でなかったら飯田橋美穂乃って名前だった。

　母は第９夫人くらいだから。

　まあいいけど。父は尊敬している。

「次の文章を稲村。読んでみろ」

「はい」

　まったく。

　一般の学校なんかに来るのではなかった。

　父と同じ学校に行くべきだった。

　行け。【リバース・ボイス】。

　言い忘れたが、私は高１の１５歳だ。

　アイツらを蹴落とすと決めたら１人称が何か直った。

　まあ、いいけど。

「『おい、ロミオ。どうしてお前はロミオ様なんだよ』『私が好きならあなたのお父様も家も捨ててくださいませ』」

「おい。逆だ逆」

　教室は爆笑だった。

　後１人。

「西木野。訳せ」

「『肉は切り取ってもいいが、血は流したら駄目よーん。一滴も』」

「あー、確かに男装しているがカマ言葉は使うな」

　あーあ。

　オカマとか差別語なんだけど。

　しょうもないな。今の教師。

　教室は白けた空気になった。

　良し。

　このウケ狙い馬鹿どもから距離を取るのは合法だ。

　諸君。これが学生生活って物なんだ。

　女の子が４人くらいいるけど、恥をかかされたって顔してやがる。

　私はそれに同調しておけばいいだけだ。

　父さん母さん。

　普通の学校も修羅場。

「アイツら何！」

「しょうもないね」

　はい。【リバース・ボイス】発動。

「俺たちを舐めてんのか、あのクソは！」

「ゴミが！」

「勉強出来ねえわけだよ！」

　ほいほい。

　これ本音を話させる能力なのかな。

　あー。

　父さんがいないのが微妙に不安。

　父さんの能力は【ハニービー＝ニードル】。

　弱い能力者を強くしてくれる。

　私には効く。

【リバース・ボイス】→【仁義の呪い】

　異性が私の悪口を言っていたら、ソイツから距離を取ってくれる能力になる。

　１人に使うと解除。

　いやまあ、いないんだけどね。父さん。

　父さんの能力は１時間に１回しか使えない。

【スプーン＝マゲール】→【スプーン＝スネイク】

【バナナ＝カウント】→【バナナ＝コーラス】

【ウェアリング＝パーフェクト】→【ディスガイズ＝パーフェクト】

【愛のベルラベル】→【和解のベルラベル】

　これで乗り切ったらしい。３年間を。

　国立ウィル能力研究大学附属高等学校。通称異能力バトル高校で。

　いやー。

　いないんだけどね。父さん。

　だから、私は第２能力を使う。

　陽一義兄さん。

　次女の未来（みく）姉さんの旦那。

【フェアネス＆カインドネス】。

　全てのウィル能力者に第２能力をくれる能力。

　いやー。

　何の得があるんだろう。

　そう。

　人間って案外損得を考えない生き物なんだ。

　働けばいいし。

　そう。

　評判ゲームなんだよ。

　協力ゲーム？　違う違う。

　アレは心理学者の作ったゲーム空間。

　アイツら、一杯儲けたっていう「評判」が欲しいの。

　普通の社会だったら遠慮する。大金は。

「無欲な人」って評判が欲しいから。

　つまり人間関係とは。

　評判を破壊するゲームだ。

　私の第２能力。

【実りの宴】

　女の子５人でつるむようになった。

　あんなアホ男子がハーレムなんて身の程を知らない。

　どうしような。

　父さんの方がイケメン。

　あー。

　どうしような。

　クラスの男子ってなあ。

　ここ進学校でもないのに遊び呆けて。

　そうか。

　どんどん差は開くのか。

　大学か。

　お父さんと結婚しようかな。

　まったく以って男ってのは。

「どこで遊ぶ？」

「カラオケ行けね」

「アイツらと鉢合わせ勘弁」

「山菜採りにでも行く？」

『熊ぁ！』

　ハモってやんの。

　買えばいいよね。山菜なんて。

　命賭けてまで新鮮なわらびは要らねえ。

「私、勉強したいな」

「私も」

「男は欲しいけどオカマは要らねえ」

　いいことを聞いた。

　我が能力はカップル破局能力だった。

　こんなに強いのか。【リバース・ボイス】。

　皆には内緒。

【実りの宴】は更に内緒。

　ヤバいんだよね。

　カップルに強制子作りさせる能力。

　封印級。

　あー。

　あっはっは。

　いや、不妊治療が要らないんだけど。

　子供も一応健康体で産まれて来る。

　４０過ぎてると微妙なんだけどさ。

　うーん。

　コイツらは切らなくていいか。

　私らグループにちょっかいかけて来る女がいたら【リバース・ボイス】でイケメン台詞をしゃべらせる。→彼氏が出来る。→【実りの宴】で妊娠させる。→円満退学。

　いやー。

　父さん異能力バトルばっかりしてて、高校の勉強が出来ないのがコンプレックスらしい。実質中卒だって。

　はーあ。

　いやー。

　いいけどさ。

　私は頑張るか。

　学歴は要らんけど学歴コンプレックスは持ちたくないな。

　ベストを尽くさなかったという後悔はごめんだ。

　男子の間で「オカマごっこ」が流行り始めた。

　このアホどもは。

　どうしような。

　もう嫌。

　猿と３年間過ごすの。

　いや、どの学校行っても同じだけどさ。

　ウチのお父さん、本当にイケメン。

　高校２年までは背低かったらしいけど。

　あーあ。

　女子グループがなくなった。

　男子憎しで全員が団結したということだ。

　私の能力が知られたらヤバいな。

　あー。

　ヤバイ。

　何か顔に出そう。

　ここまで大事になるのか。

　えーと。

　うーん。

　あー。

　まあ、仕方ない。

　最悪退学すればいいや。

　転校出来るし。

　国立ウィル能力研究大学附属高等学校。通称異能力バトル高校に。

　あそこには飛竜お兄ちゃんがいる。

　お兄ちゃんの能力は見たことないけど間違いなく強い。

　立ち居振る舞いで分かるんだよ。

　誰が近付いて来ても悠然としてる。

　達人のそれなの。

　どうしような。【フレンドシップ】。

　奏さんって素敵な人がいるんだけどね。

　仲間同士で能力を共有する能力を持ってるんだ。

　参加させてもらうべきだろうか。グループに。

　ただし、バレるんだよね。【リバース・ボイス】も【実りの宴】も。

　あーあ。

　私たち姉妹はほとんどが奏さんのお嫁さんになるのかな。

　年結構違うんだけど。

　うーん。

　あーあ。

　どうしよう。

　困るんだよね。

　んー。

　あー。

　エンドレス兄さんもいたな。

　この人の母親は旧姓ピリオド＝エンドと言った。

　今は冬林ピリオド。

　能力名は【ピリオド＝エンド】と【ダンス・ウィズ・ヴァンパイア】だ。

　義母さんの能力を共有させてもらうべきかなあ。

　悩める。

　もうちょっとだけ粘ってみようか。

　男子がカマ言葉を使うのが流行ってる。

　つまり、私の能力はバレない。

　使いまくる。

　シリアスっぽい場面で。

　もちろん先生がいる時も。

　当てられた時も含む。

　これは貴重なレポートだなあ。

　一般学校にウィル能力者が紛れ込むとどうなるか。

　うーん。

　おやおや。

　へー。

　流石に男同士の恋愛はないらしい。

　面白い。

　もっとやろう。

　女子にも使っちゃえ。

　荒っぽくなっても不自然でない。

　なよなよ言葉の男子。

　がさつ言葉の女子。

　いやー。

　気持ち悪い空間だ。

　って、私がやったんかーい。

　勉強勉強。

　勉強するのは合法なのよ。

　面白いなー。

　先生に使わせるかな。女言葉。

　うーん。

　まあ、いいけど。

　この能力、大学にも異能力高校にも申請してないから。

　知ってるのは父さんだけ。

　父さん好き。

　奏さんがいなかったら父さんのお嫁さんになりたい。

　うーん。

　妹３人もいるんだよな。私。同腹の妹が。

　はっはっは。

　今の時代に同腹か。

　うーん。

　むぅ。

　えっと。どうしようかな。

　こんな笑える見世物そうそうないし。

　しばらく見てたい。

　良し。

　学校全体がオカマとオナベになるまで私の戦いは続くのだった。

　いやー。ぎすぎす。

　私は大人しい。

　何でこうなったんだろうって顔してればいい。

　笑いをこらえるって泣き顔に見えるんだよね。

　同性からも。

　父さんからメールとか来ない。

　奏さんに連絡したいな。

　やっぱり年上がいい。

　同年代との結婚なんてない。あり得ない。

　あーあ。

　んー。

　さて。

　学年３番取っちゃった。

　うーん。夏休み。

　実家に帰ります。

　電車で３時間くらいだけど。

　ただいまー。

「お前か」

　エンドレス兄さんだ。

　ピリオド義母さんはスウェーデン系アメリカ人なんだ。

「勉強してるか」

　社会学をね。

「またロクでもないことしてるのか」

　えー。

　心読む能力とかあるの？

「物理に弱い」

　はあ。

　それもそうか。

　アイス１個ちょうだい。

　うーん。身内には使わない。能力は。

　ピリオド義母さんを矯正させたかったんだよね。

　あの人の口癖は「やってくれる」と「痛い目を見たいようだな」なんだよね。

　効かなかったけど。

　父さん外人の嫁もらってるんだ。第何夫人だっけ。

　弓乃、桃、おだまき、こあら、蘭、光理、くるみ、椿、リリカ、恋、はこべら、美代、葵、弥生、千恵美、澄香、アリス、ピリオド、鳳仙花、奈々、苺、都、うらら、瞳、綾音、レイ、月影、以下省略。

　数えてられるか。３８０人近い嫁なんて。学校だよ。

　２学期になった。

　学校はぎすぎすしていた。

　男子は一言もしゃべらない。

　アレだろう。

　流石に我に返ったんだろう。

　どうしような。

　私の能力ってこんなに強いのか。

　まあ、二度はないな。

　この学校、進学率落ちて底辺校になるのかな。

　まあ、私の知ったことではない。

　給料もらってるわけではないし。

　美人の先生か生徒がいたら奏さんにプレゼントしたいけど。

　特におらん。

　どうでもいいか。

　さてさて。

　今日も勉強だ。

　あー。

　あのＯＬお姉さんとすれ違わないかな。

　奏さんと吊り合うんだよな。

　ウィル能力者の子供産むと生活補助費出るし。今の法律。

　んー。

　繁華街か。

　ちょっと怖いな。出会える保証がない。

　あー。

　兄弟に何かいい能力者いないかな。

　桃義母さんの息子の鈴太郎兄さんが【クリスタライズ】って能力を持っている。

　ウィル＝クリスタルってアイテムを造り出す能力なんだ。

　我が家を滅ぼせる官僚なんていないよ。

　あれー。

　その桃義母さんの【ミラクル糸電話】か。

　紙コップを通信機・盗聴器に変える能力。

　折り紙で作った「紙コップ」でも可。

　これをどこに仕掛けろと。

　何。エンドレス兄さん。

「誰の能力かは言えん。クリスタルをもらって来た」

　？

「【アドレス＝ハンター】」

　おやー？

　ウチの一家ではない。この能力。

　ストーキング野郎と取引したの？

「犯罪者は一般人を間引いてくれる」

　危険思想。

　てか、そんな強能力があってたまるか。

「まあな」

【吾輩はサンタクロース】

　人に贈り物をしたいと心から願っていると住所まで導いてくれる。

　ガチでしょうもない能力者ばっかりなんだよな。異能力バトル高校。

　本当に国防の役に立つのかな。私たちが。

　外国語に男言葉と女言葉の違いってあるのかよ。

　あー。

　すれ違っただけのお姉さん。

　結婚相手紹介してあげます。

　奏さんが気に入らなかったら、ウチの父さんでもいいです。

　生活費はいくらでも。

　仕事つらいなら結婚しましょう。

　超能力者の命は一般人より重いんです。

　だから、母親のあなたも偉人になれるんです。

　さあ。

　ハンティング！

　未婚女子。

　お父さんお母さん。

　あなたたちを尊敬します。

　子供か。

　しばらく冬林家無双が続くから産んでもいいかな。

　誰の子供だろうな。

　んー。

　お父さんイケメンなんだよな。

　３８０人の嫁かあ。

　あのＯＬさんたち、奏さん気に入るかなあ。

　うーん。

　私の能力なら見せても問題ないよね。

　弱いし。

　こんなに恐ろしい能力とは思わないし。

　うーん。

　姉妹になるか義理親子になるか、それが問題だ。

　学校はどうでも良かったけど、やっぱり就職出来る人って美人だなあ。

　ハンティングして帰ろう。

　あのお姉さん２人ゲット出来るなら、この学校に来た甲斐もあったよ。

　うんうん。

　さて。

　正直に話そう。

　子供産んでくれませんかって。

　こんにちわー。

　便利だな。この【吾輩はサンタクロース】の能力。

　まあ、コイツとは絶対結婚しないけどさ。はっはっは。