女の子♀と体を強制的に入れ替えられた男の子♂が不憫な思いをしていたけど、男の子♂に告白されたので女♀として幸せになって見返してやるお話

卯月らいな

前編 元女の子の半生

私の名前は、山岸風子。高校3年生。


人生の春もそろそろ終わりを告げ、将来の進路を決めなきゃいけない、人生の大きな岐路に立たされていた。


もともと、物理と数学が得意で、地元の国立工業大学に進路を取ろうと思っていたのだが、親は大反対。


世の中が目まぐるしく変わる中でも、古風な考え方に取り憑かれていて、私は就職かお見合いの二択を迫られていた。


兄は4年制の大学の文学部に進学して、サークル三昧で真剣に勉強するわけでもないが、親はそちらには文句は言うことはない。


曰く、男と女は違うということらしい。


女は婚期を逃すと一生後悔するというのが父親の口癖だった。


嗚呼、女に生まれたことを生まれてから今まで何度呪ったことだろうか。


親元を出て、奨学金を得ることも考えた。


だけど、理系の大学となると、修士課程、博士課程まで進まねばと思うと、返済までの道のりが地獄のように思えるのだ。


理解のある親の元で男として生まれたらどれだけ生きやすかったことだろうか。


そんなある日、私の元にチコと名乗る天使が舞い降りた。


「体を入れ替えるキャンディー?」


「そう。この青いキャンディーを食べた人間と赤いキャンディーを食べた人間の体を入れ替えることができるんだ」


人間の赤ん坊のような体型で羽が生えていて頭の上に輪っかが乗っている。


ルネサンス期に描かれた宗教画のような生き物が、部屋にやってきて、そんなことを言うんだから、無神論者な私も半ば信じそうになってしまう。


「それって、一度、入れ替わったら元に戻れなくなるってこと?」


「その心配はないよ。戻りたくなったら、いつでも自由に戻れるように、2組のキャンディー、合計4個あげるから」


「なんで私にそんなものをくれるの?」


「神様はいたずら好きでね。魔法のアイテムをあげたら、数奇な人生を歩みそうな人にあげるんだ」


「ふうん。私がそんな面白い人間に見えるんだ」


「アイテムの説明はしたからね!これをどう使おうとボクは干渉しない。ただ、天から行く末を見守らせてもらうよ」


そういうと、天に舞って去っていった。


体を入れ替えるか。


もし本当ならば男の子と入れ替わりたいな。


それも、家庭が裕福そうな男の子。


1学期の終業式の日、私は、クラスメイトの石川純平くんを体育館裏の桜の木の下に呼び出した


優しいとか言われてクラスの女子の間では密かにモテているらしいけど、全く自覚のない超鈍いやつだ。


「なに、こんなところに呼び出して」


「このキャンディーあげる。ここで食べて」


「なんで、また、バレンタインの時期にしては季節外れだし」


「いいから!いいから!」


私は純平くんの口に赤いキャンディーを放り込み、自分の口に青いキャンディーを放り込んだ。


すると意識がもうろうとしていき、やがてブラックアウトした。


目が覚めると保健室のベッドだった。


そして、毎朝鏡でよく見る顔、私の顔が覗き込んでいた。


半信半疑だった入れ替わりは成功したようだった。


私の体に入った純平くんは、何が起きたのかわからずオロオロしていたので(その姿が大変かわいい)、入れ替わりキャンディーについて、とりあえず説明することにした。


「なんでそんなものを僕に食べさせたんだ!その説明が正しければ、もう一組のキャンディーを食べると元に戻れるってことだよね。どこにあるんだ。出して!今すぐここに」


私の体でそんな口調でしゃべるもんだから、僕っ娘にしか見えない。


「やだね。せっかく、念願の男の体になったのに、みすみす戻ってなるもんかよ」


「でも、一生このままでいるつもりじゃないだろう?」


「そうだなあ。男であることに飽きたら戻ってもいいよ」


「受験を控えてる大事な時期なのに!?一日もこんなことをしているのがもったいないよ」


「体が入れ替わっても受験勉強はできるでしょう?いざとなったら、替え玉受験をしてあげるから。大丈夫、勉強には自信があるから」


そう言いくるめると携帯の番号を交換つつ、彼の家に帰ることにした。


「ただいまー」


「おかえりなさい、純平」


母親との中は良好か。


家庭環境は恵まれているように見える。


部屋に入ると、私は誰にも見られていないか確認した。


むらむらする。


私は、男の痴態、まさしく自分の姿を部屋の鏡で見つめた。


「はぁ……」


10分が過ぎ、天国のような体験を私は終えることができた。


男ってずるいなと改めて思った。


男がこんな気持ちの良いことができる一方で、女は毎月生理で苦しまなければならない。


こんな格差があっていいものだろうか。


一生、女に戻りたくないと、私はそのとき、思った。


それから、毎日、私は純平を演じて、受験勉強を頑張ることにした。


そして、11月20日、模試の結果はB判定!


志望校合格が現実味を帯びてきた。


親の経済力は問題なし。


合格したら大学院まで行かせてくれると約束してくれた。


ふと、我に帰った。


これまでの私の風子としての人生はなんだったんだろうと。


このまま、純平としての人生を歩んでいった方が私は幸せになれるのではないかと。


私は風子、かつて純平だった子を例の桜の木の下に呼び出した。


「お前、最近、うまく女子の輪の中に入れてるみたいじゃないか」


「冗談じゃないよ。君の家庭だと塾にも予備校にも行かせてもらえないじゃないか。家事手伝いたくさん押し付けられて。勉強に専念したいから、あのキャンディーをちょうだいよ」


「捨てたよ」


「えっ……」


それは、嘘じゃなかった。


「俺は、石川純平として一生生きていくって決めたんだ。男の方が俺の性にあってるんだ」


「そんな、勝手なこと!僕の人生はどうなるんだ!」


「俺の代わりに風子として生きてほしい。勝手を言っているのはわかるがね」


「そんな……」


へたへたとあひる座りで、彼女はへたり込むとさめざめと泣き出してしまった。


「あばよ」


俺はぶっきらぼうな振る舞いで、その場を後にした。


その後、俺は志望校に合格し、勉強三昧の日々を送りつつ、彼女もでき、順調な人生を歩んでいる。


山岸風子が、その後、どんな人生を歩んだかは知らない。


携帯の着信の履歴もない。


女であったことは俺にとって、今となっては過去の足かせでしかなかった。

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