波動

みにぱぷる

波動

「彼は十年前、三人の人を殺して終身刑になりました」

 ナレーションが淡々と語る。

「こんにちは」

 糸田という名前のその男は吹っ切れたような笑顔で挨拶して、椅子に座る。

「正直、人を殺したという実感はいまだに消えてくれない」

 糸田という男はそう語る。


 人の生死について考えるというテーマのもと、授業で、僕はある教育番組を見せられた。タイトルは「人の死との関わり方」、いかにも教育番組らしいタイトルだ。僕の横に座っている男子はうとうとしている。まだ開始して五分も経ってないのに。僕の前の席に座る男子はカリカリと鉛筆を動かして、感想文を書いている。こんな感想文後日提出でも減点されないだろう、と踏んで書いてない人が多い中、彼はとても真面目だ。後ろからもカリカリと音がするので、後ろに座る女子も感想文を書いているのだろう。

 僕は退屈げに頬杖をつきながら、半分無意識になってスクリーンを見る。

「殺した時は本当に自分を失っていました、それは今でも覚えてます。でも、今考えればそんなに怒ることだったか、と。後悔してももう遅いですけれども」

 ここで、糸田の語りは一旦終わり、髭面の大学教授が画面に映し出される。

「殺人というのは多くが衝動的です。計画的なものもありますが、多くは、衝動的。殺す殺す、という思いがつい抱かれて、ふとしたことから事件を起こしてしまう」

 殺す殺す。その重々しい単語が僕の中で反響する。

 殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す。

 ああ、そんな。

 殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す。

 反響の勢いはまるで津波のようで、火事の燃え広がりのようで。数秒で爆発的に増えていく。

 殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す。

 僕の手が前の席の男子の元へと伸びる。もう制御できない。

 僕は彼の首を力一杯締める。

 殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す。

 このままではいけないと思いつつ、やはり制御できない。衝動的なものなのだから。

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波動 みにぱぷる @mistery-ramune

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