第50話

有翔の上履きが隠された月曜日以降、有翔は特に足達から何か嫌がらせのようなこともされず平和に過ごしていた。


しかし、有翔は足達からの視線をこれでもかと感じていた。そして、土曜日になり侑季と有翔は一緒に絃葉の家に向かっている。


「そういえば、先週は三人で何してたの?」


「水族館に行った。」


侑季が怒るであろうことを予測して、有翔は澄まし顔でしれっと言った。


「え?ボクよく聞こえなかったよ。もう一回言ってくれる?」


「水族館に行った。」


「ボクを置いて三人で行ったの?」


「当たり前だろ。」


案の定、侑季な険しい表情を浮かべる。


「どうして、ボクも一緒に行ける時にしてくれなかったのさ?」


「言っておくが元はと言えば、侑季がドタキャンしたのが原因だからな。」


「ボクのせいって?」


「急用が入ったから仕方ないのは分かってるけど、花凜ちゃんが寂しそうにしてたから、花凜ちゃんの行きたい所に連れて行くことになったんだ。」


侑季は元々約束をドタキャンした罪悪感を持っていたので、俯き気味で言った。


「それを言われたらボクは何も言えなくなっちゃうよ。でも、花凜ちゃんはボクと遊ぶのをそのくらい楽しみにしてくれてたってことだもんね。」


先程とは打って変わって俯き気味の侑季が嬉しそうに笑っているのが、有翔からチラッと見えた。


「侑季はあくまで俺のついでであって、俺と会えるのを一番楽しみにしてくれてるに決まってる!」


相変わらず花凜のこととなると暴走する有翔は、侑季に張り合ったが相手にされることは無かった。


そうこうしている内に花凜の待つ家に着いた有翔と侑季は手馴れた様子でインターフォンを押す。しばらくすると、いつものように勢いよく家から出てきた花凜が有翔に飛びついた。


「おにーちゃん、会いたかったよ。」


「花凜ちゃん、久しぶりだね。俺も会いたかったよ。」


有翔は飛びついて来た花凜をしっかりと受け止めて、頭を撫でながら言った。


「あ、花凜ちゃん、久しぶり。先週はごめんね。」


有翔に頭を撫でられて嬉しそうに笑っていた花凜が、顔を上げて侑季を見る。有翔も侑季を見ると、その顔は罪悪感に塗れていた。


「侑季おねーちゃん、かりん気にしてないよ。」


花凜に慰められても、侑季の表情は晴れない。それを見て有翔は花凜に耳打ちする。


「侑季お姉ちゃんに渡すあれ持っておいで。」


「うん。」


花凜が一旦家に戻って数分すると大きなぬいぐるみを抱えて現れた。


「はい。侑季おねーちゃんおにーちゃんとおねーちゃんと一緒に行った水族館のお土産だよ。」


花凜が持ってきたのは、ダイオウグソクムシのぬいぐるみ。本当なら有翔から渡す予定だったが、花凜が自分で渡したいと言うので、今日渡すことにしたそれを、俯いている侑季に手渡す。


「いいの?貰っちゃって。」


よっぽど嬉しかったのか涙ぐんでいる侑季を花凜が抱きしめる。


「サプライズ上手くいったの?」


いつの間にか有翔の隣にいた絃葉が話しかける。


「見ての通りだよ。それで、どうだった?」


「もうすっかり慣れちゃったよ。最初はいちいち反応してあげてたんだけどね。」


一週間も共に過ごして、絃葉は無事ダイオウグソクムシを克服したようだった。


そして、花凜と侑季のイチャイチャが一段落したところで、絃葉が侑季に声をかける。


「こんにちは。水戸南さん。」


「絃葉ちゃん、こんにちは。先週はごめんね。」


「急用だったんでしょ。仕方ないよ。それで、申し訳ないんだけど、この後二人で話がしたいんだけどいいかな?」


「うん。全然大丈夫だよ。」


侑季は二つ返事で了承した。しかし、


「花凜ちゃんはそれでいいの?」


気になったので聞いてみると


「おねーちゃんから聞いてたから」


との事らしいので有翔は花凜と手を繋いで公園に向かった。


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