俺に懐いた幼女の姉は、学校で人気な美少女だった。

浅木 唯

第1話

その日、有翔ゆうとは小説を買いに駅前の本屋へと足を運んだ。目当ての本を買うことが出来て上機嫌の有翔は、誰かの名前を呼んで泣いている茶髪のショートカットで四歳くらいの小さな女の子を見つけた。


しかし、面倒事を避けたかった有翔は、周りの人たち同様見て見ぬふりをして立ち去ろうとしたが、あまりにもいたたまれなくて声をかけてしまった。


「お嬢ちゃん。どうしたのかな?」


できる限り怖くないように笑顔を作った。女の子は有翔の顔をまじまじと見つめた。


「おね...おねーちゃんがね。いなくなっちゃった...」


お姉ちゃんがいないことを思い出してしまったのか、また泣きそうになってしまった。


「じゃあ、お兄ちゃんが一緒にそのお姉ちゃんを探してあげる。」


「ほんとっ!」


女の子がニパッと目を輝かせて笑顔になって安心した有翔は、女の子と手を繋いだ。


「お姉ちゃんはどこに行ったか分かる?」


「ううん。分かんない。」


近くに交番が無いこともあって、あたりがついていないけど周辺を探す。


「そういえば、お嬢ちゃんのお名前はなんて言うの?」


「かりん!」


「へぇ〜、かりんちゃんって言うんだ。いい名前だね。」


かりんが寂しくないように、会話をしながら駅の周辺を歩いていたが、姉は見つからずに再び目に涙を溜め始めたとき


「花凜!」


「おねーちゃん!」


かりんを呼ぶ声が聞こえた。それに反応して俯いていた顔を上げ声の主を見て、パタパタと駆け出して行った。有翔はかりんが転けないように手を離さずついて行った。


「どこ行ってたのよ!」


かりんを叱りながらも、その腕はしっかりとかりんを抱き締めている。


「ごめんなさい。」


有翔はその場に居続けるのも気まずくなってきたので、そっとその場を立ち去ろうとするも、かりんの姉が有翔を見た。


「ちょっと待ってください。」


「なんとか再会することが出来て良かったです...それでは。」


一刻も早くその場を立ち去りたい有翔は、それだけを言い残して行こうとしたが、後ろから小さい力で服の裾を引っ張られるのを感じて足を止めた。


「おにーちゃん。行かないで...」


可愛くおねだりされてしまっては、立ち去る気もなくなってしまう。泣いてしまいそうなかりんの頭を撫でてて落ち着かせる。


「えーっと、何か用ですか?」


「あ、すみません。この子の面倒を見てくれたお礼を...」


有翔の真正面から見て、かりんの姉が口を開けたまま動かなくなった。


「どうしたんですか?」


「もしかして、塩野しおのくん!?」


固まったと思ったら急に名前を呼ばれて、かりんの姉の顔をよく見ると、あることに気がついた。


「あ!永澄ながすみさん!?」


永澄 絃葉いとはといえば、有翔の通う学校で一、二を争う眉目秀麗、才色兼備なウルフカットの良く似合う美少女としてちょっとした有名人だ。そんな人がたまたま助けた女の子の姉なんて誰が思うのか。


「塩野くん。お礼がしたいから連絡先教えてくれないかな?」


有翔からすれば、美少女の連絡先を貰えるという一世一代の大チャンスな訳だが、絃葉の立場故になかなか連絡先を交換しずらい。


「お礼はしてくれなくてもいいよ。だから、連絡先は別に要らないかな。」


少し惜しいことをしたかなと思いつつも、しっかりと断りを入れた。


「おにーちゃん、もう会えないの?」


どんな畜生でもない限り、小さな女の子の涙目上目遣いに抗うことは出来ない。


「そんなことないよ。」


「花凜もこう言ってることだし、また会って欲しいから連絡先交換するよね?」


絃葉から詰め寄られ仕方なく連絡先を交換した。


「うん。ありがとう。」


「お礼は別に要らないけど、何かあったら連絡してくれ。」


有翔は花凜から手を離して立ち上がる。


「花凜のこと見ててくれて本当にありがとう。また連絡するね。」


「おう。」


有翔はまた屈んで花凜と目線を合わせた。


「花凜ちゃんもまたね。」


「うん。おにーちゃんまた会おうね。」


花凜と絃葉が手を振ってくるのに、有翔も手を振り返してその場を離れた。有翔はすっかり花凜に懐かれてしまい、絃葉と連絡先を交換する羽目になったが、それも悪くないかと思うようにした。

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