輝紡譚

アイビークロー

#∄


 神の声とは、意外と届かないものなのだ。




 世界は既に滅びの道を辿り始めている。

 おかしいな、ワタシが愛した世界はこんなじゃなかったはずなのに。


 一面の花畑。美しいわけでもない色褪せた眺め。閉ざされた十二の蕾を掠めてひらりひらりと花弁が舞う。まだ開かないそれを見ないふりして、溜息を吐く。なんの意味もない、ただ運命から目を背けるためだけの行為。バカバカしい。

 濃霧の如くぼやけた白の中、大樹に背を預けて上を眺める。底抜けに白が広がるだけ、空が見えるわけでもないのに。

 霞む世界、ひとりぼっちの死の花園で静かに終わりを待っている。

 何もできず、ただ、見ている。愛しいワタシの世界が崩れていく様を。




 光が見えた。誕生の光。

 無意識に手繰り寄せたらしい。気づけば、側にその仔がいた。

 普段は気にも留めないそれが、なぜだか大切なものに思えて。


〈ン〜?〉


 不思議な匂いのする仔だ。ケモノだけどニンゲンで、機械だけど生きてる。

 極めつけはその姿。造り手は神の現し身を造りたかったらしい。


〈キミ、おもしろいヤツだね〉


 ちぐはぐに神をなぞるカタチのその仔に向かって笑いかける。

 この仔になら託せるだろうか。


〈ン、気に入った!〉


 仔の額に触れる。芽吹きの場所は…白澤の森。

 精一杯の祝福を込めて、送り出す。


〈そんじゃ一つ、キミに賭けてみようか。

ひつじくさびで、待ってる〉






 メーデー、愚かで愛しきこの世界よ。


 並んだ蕾を撫ぜるように風が吹いた。

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