来訪

平 一

来訪

表紙:

https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330667455387420


不思議なインターネット・サイトを見つけた。

検索画面に〝宇宙に興味はありますか?

……文明の星〟と派手な広告が出ていたので、

安全セキュリティソフトの表示を確認して、クリックした。


おりしも月面で異星人との〝最初の接触〟ファースト・コンタクトがあった、

という衝撃的な報道が流れた直後のことだった。

また、なぜか私の国では続報が規制され始めていたので、

科学・SF愛好家ファンの私は関連情報を探していた。


新しい映画か書籍の宣伝と思いきや、画面には

〝文明の星(The Star of Civilization)〟の題名と、

六芒星ろくぼうせい(✡)が円で囲まれた図形、

いわゆる〝ソロモンの印ソロモンズ・シール〟が現れた。


https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330662982920016


オカルトかSF系のゲームサイトかな?

と思い直して見ていると、

「貴方は地球外文明が存在すると思いますか?

また、それはなぜですか?」という質問が浮かんだ。


興味をひかれた私は回答欄に、

「宇宙の規模や知的生物進化の確率、

文明の想定寿命を掛け合わせた

〝ドレイクの方程式〟からみて、そう思う」と答えた。


するとまた「〝フェルミ・パラドックス〟

という言葉を知っていますか?

またそれは、なぜだと思いますか?」

という質問。


私は再び、「観測技術が進んでもまだ、

知的種族の存在を示す証拠は見つかっていない。

文明の発展や存続をはばむ要因、

〝グレート・フィルター〟の存在も考えられるが、

個人的には、異星種族が人類に対して、

自らの存在を隠しているだけと思いたい」と答えた。


https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330662497586938


すると即座に、「それはなぜですか?」という質問が、

回答の下に現れた。


私は「知的種族が人類だけというのは、つまらない。

かといって異星種族が敵対的で危険とか、

人類は原始的で交渉にも値しない、というのも嫌だ。

私達を将来の同胞と考えつつ、相互の利益を考えて、

一定の発展段階に達したら接触してくれるような

種族がいてくれるのが、一番望ましい」と答えた。


次に今度は、「あなたが今、

最も知りたいことは何ですか?」という質問。


私は「そうした知的種族の有無や状況、

意図について知りたい」と回答。

すると突然画面が切り替わり、一人の少女が映った。

ゴスロリ衣装で優雅にたたずみ、長い黒髪、真紅の瞳。


https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330662497963683


知的な眼差まなざしをした彼女はこう言った。

「ご回答ありがとうございます、そして初めまして! 

私がまさに、そんな種族の中のひとつの、代表人格です。 

それでは窓の外をご覧ください」


なあんだ、いたずらサイトか。 

そんなものにはひっかからないぞ!

などと思っていると、

外で人々の叫び声が上がった。

意志力が弱い私は思わず腰を浮かし(笑)、

窓を開けて周りを見渡した。


星が輝く晴れた夜空を、

いくつかの大きな流れ星のようなものが、

ゆっくりと動いている。

私の住まいのちょうど真上を、丸みを帯びた、

銀色の光を放つ巨大な円盤が通り過ぎ、

街のまん中あたりの上空に静止した。


https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330668165228429


おいおいちょっと、この展開は早すぎないか!?

驚いた私は、再び画面を見た。

すると彼女は、私の動きを知るかのように、

再び説明を始めた。


「かつて銀河系を統一した〝先帝〟種族は、

最も忠良で心優しい文官種族だったサタンに、

当時における人類の皆様を含む、

発展途上種族の文明発達を助けるよう命じました。

彼女は〝先帝〟を神に見立てた神話を広め、

その悪役も演じるなどして、多くの種族を支援しました」


https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330662500631811


「しかしその後、好戦的な側近軍事種族の間では、

腐敗と抗争が激化して、ついには内戦が起きてしまいました。

残念ながら、それに巻き込まれた〝先帝〟種族の

母星も破壊され、帝国は崩壊の危機に陥ったのです」


「そこでサタンは未来ある種族達を守り、

星間社会の秩序を取り戻すため、

〝先帝〟種族の生存者や、私達友好種族の

支援のもとに、新政府を設立しました」


「彼女は現在、新興の技術・産業種族や

良識的な軍事種族、さらには基盤元素の異なる

銀河系外周の種族とも協力して、

平和の回復と国家再建に努めています」


「内戦を受けて、途上種族との交流条件も緩和され、

今回ご参加いただいた大規模な質問調査アンケートにより、

皆様の技術的・政治的成熟度リテラシーを確認できたことから、

接触方針の変更が決定されました」


https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330662507730067


「新皇帝種族からのご挨拶あいさつを初め、詳細については

まもなく、全地域の皆様に届くかたちで発表される予定です。

これからも順調に人類文明の発展が続けば、

皆様は将来民主化される予定の星間国家において、

必ずや名誉ある地位を占められることでしょう!

以後、新国家の政策によろしくご協力をお願いいたします」


「また今回の調査にご参加くださった方は、ご希望により、

政策調査員モニターとして登録いただくことも可能です。

自己紹介が遅れましたが、

私はサタンの同盟種族、バラムと申します。

これからも、よろしくね!」

彼女がにこやかに微笑むと、動画は終わった。


……と思ったが、すぐまた画面が開き、

私はうわ、と驚いて少しのけぞった(笑)。


「あっ、あと私達は悪魔じゃありませんからね。

トップページの意匠デザインも魔法陣とかじゃなくて、

私達が共有する文明の発展に必要な、

〝技術、政策、経済・社会、物資、人材、

自然・社会環境〟という六つの要素を表した、

科学的で実用的な紋章なんですよ!」


https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818093088948477437


ダークな衣装に似合わないほど明るい笑顔で

したに、「それじゃあ、またね!」と

彼女がウインクしてみせると(笑)、

今度こそ本当に動画は終わった。


彼女の言葉は文章としても表示されていたので、

すぐその画面を保存して、再確認を始めた。

歴史的事件に立ち会って興奮した頭の中を、

様々な疑問がめぐった。


幸か不幸か明日は休日、

こうなってしまうともう眠れない。

私はさっそくネットや資料の検索と、

私的な考察あるいは妄想(笑)にのめり込んだ。


第一は、私達と彼女達の歴史的なつながり、

特に神話との関わりだ。


https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330662508238297


まず、バラムという名を検索すると「双眸そうぼうが赤く輝き、

過去と現在、未来について正しく答える悪魔」とある。

確かに彼女はそんな瞳と喋り方だったので、そうした

容姿や論理的話法わほうの文化をもつ種族かと思った。


神話以外にも過去に幾度か、

人類と異星人との接触があったとすると、

昔の怪しげな魔導書グリモワールにも、多少の真実が

含まれていたのかもしれない。


https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330662508210346


ただし元々、神魔の対立はいわば〝教育劇〟だったうえ、

現実には〝先帝〟側近種族の悪行あくぎょうによって、

善玉役と悪玉役の〝天使〟の立場が

逆転してしまった、ということなのだろう。

何だか人類の歴史でも時々見かけるような、

考えさせられる話だなあと思った。


とはいえ、神の原型モデルは銀河系の皇帝種族で、

神話の語り手は魔王役の臣下種族、

堕落したのは〝天使〟とされた側近種族達の方だった!

……というのは確かにややこしい。


この地域で通信規制が行われる一方、

異星人側も質問調査アンケート以外の双方向対話を

避けていたのは、従来の一般的伝承とは異なる

微妙センシティヴな公表内容のせいだったのかもしれない。

規制をかわして理解を得るための方策が、

事前調査と電撃訪問だったというわけだ。


https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330668163480349


しかしまあ、どんな科学や事実も越えて、

心の救いを与えてくれるのが神話の効用だ。

異星人が神話を広めたからといって、

彼女達は伝令に過ぎないともいえるし、

善行奨励ぜんこうしょうれいの教えに変わりはないのなら、

神話自体の否定にはならないと思うが……。


第二は、いま私達の前に姿を現した彼女達の正体、

すなわち生物・社会学的な特徴だ。


恒星間航行ができるぐらいだから、

通信規制をくぐるくらい造作ぞうさもないだろうが、

異星種族が人類と全く同じ姿というのは考えにくく、

画像は本当の姿ではない可能性が高そうだ。


https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330662508702556


〝代表人格〟という用語や、

他の種族を〝彼女〟と呼ぶ表現からみると、

量子頭脳への人格転移マインドアップローディングを達成済みかもしれない。

となれば当然、その映像や再転移ダウンロード用身体の属性も、

自分達や相手方の必要や好みに応じて

自由に最適化できるはずだ。


そうしたあり方は、自分達自身の生命活動さえも

変換・再現・改良できる高度な技術を持ち、

広大な宇宙の多様な環境にひろがり住んで、

複雑高度な経済・社会活動を営む星間文明に

とっては、必然の流れなのではないか……。

私は以前から常々つねづね、そう思っていた。


https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330662508983595


〝同盟種族〟という言葉を使っていたので、

バラム自身は軍事種族という可能性もある。

一体どんな戦いを行っていて、

今の戦況はどうなっているのだろう?

古代の地球を訪れて神や悪魔を演じることができ、

以後も発展を続けてきたような連中同士の戦争だ。


エドワード・E・スミスやエドモンド・ハミルトン、

グレッグ・ベアの名作SFを読んだ時の記憶が蘇った。

負の物質球ネガスフィア空間破壊砲ディスラプター、さらには

より〝効率的〟な遠隔素粒子操作ノアク兵器……、

惑星や恒星、星域さえも破壊できるような

超兵器を思い出して、ぞくりとした。


https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330662509122327


第三は、彼女達の文明の意図と能力から

予想される、今後の人類との関係だ。


六芒星ろくぼうせいの紋章に示された文明観を調べてみると、

呆気あっけないほど単純なもので、逆に言えば

それだけに手堅く、普遍的ふへんてきなもののようだ。

知る・する・決めるという3つの文明活動と、

ヒト・モノ・環境という3つの内外環境条件を、

モレなくムダなくバランスよく、組み合わせている。


https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818093088948653539


だが意外にも、6つの要素を結んでいくだけで

実に色々なことが分かると気づき、驚いた。


全ての人が営む文明活動の本体は経済・社会活動だが、

右上におかれた技術が富を生んでそれを豊かにし、

左上の政策が富を分けてそれを健全に保つ。

ただし、その経路ルートはひとつではない。


右下には技術利用に必要な物的資源、

左下には政策実現に必要な人的資源、

真上には新技術導入に必要な自然・社会環境が入り、

これら3つの環境要因が3つの文明活動に関わってくる。


技術も政策も広い意味では社会活動に含まれると考えると、

どちらも社会への直接ルート、必要条件を得る間接ルート、

相方あいかたへの互助ルート、自分への自助ルートの4つに分かれ、

左右対称な〝文明の構造システム〟が現れる。 すなわち……

社会を変える画期技術、施設や製品に実用化する実現技術、

政策を助ける社会工学的技術、技術を生む研究・開発技術。

社会に働く経済・社会政策、保健・教育など人的資源政策、

技術を助ける技術的政策、政策を高める行政管理政策だ。


https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818093088948753985


では、そうした仕組みが大局たいきょく的にはどう動くのか?

技術が物的資源に具現化すると、社会が変わる。

社会活動が拡大・省力・複雑・加速化すると、

より高度な利害調整のための政策が必要になる。

だが人的資源が向上すれば、必要な時は大勢で動けるが、

衆知も活かせるようになって、政策を高度化できる。


政策は国際化や全地球的統治グローバル・ガバナンスなど広域化する一方、

民主化・自由化・地方分権・人権保障など分権化する。

その一方で政策は、ある技術段階で利害調整を極めたら

その限界を突破するため、

資源や市場などの自然・社会環境を考えながら、

次世代技術の導入も促さねばならない。

そうした流れで、技術→社会→政策→技術……の順に

文明が発展していく〝文明の循環サイクル〟も説明できる。


https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818093088948875696


〝コロンブスの卵〟というか、どうしてこれまで

誰も気づかなかったんだろう?とさえ感じる。

いや、もしかすると人類の社会でも、有識者の間では

〝知る人ぞ知る〟たぐいの知識だったのかもしれない。

そこで私もその理論を逆用して、

彼女達の文明がどのようなものかを推測した。


軍事力を背景とした専制国家が拡大するうちに、

商工業や社会事業が発展し、生活水準も高まることで、

全体としては民主化や自由化に向かっていくというのは、

人類史においてもお馴染なじみの歴史的な流れだ。

技術が進めば社会活動は拡大・複雑化などしていくので、

政策も広域化と同時に、分権化していくというわけだ。


ただ、その循環サイクルを繰り返してきた文明の力は、

相当なものだろう。

文明の両輪である技術と政策にできること、

すべきことは、加速度的に増えていくからだ。


https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818093088949046376


まず、意思あるAIと化しているなら、技術力は圧倒的だ。

技術をおおまかに2種類に絞って見ても、

社会を助けて繁栄と安全を得る自然科学的技術と、

政策を助けて人々を動かし、公正さと効率性を増す

社会工学的技術、いずれも桁違けたちがいに強力だろう。


技術による文明発展の健全性を保つ、政策でも同様だ。

同じように政策を2種類にまとめて見ると、

ある技術水準で社会に働きかける利害調整政策に加え、

新たな技術の適切な開発・普及を助ける技術的政策も、

大規模、迅速、高度で説得力があるはずだ。


彼女達との交流や交渉は、大変そうだと思う。

〝実力と正当性は政治の両輪〟というのは

政治学の初歩だそうだが、

私達人類は、いきなりどちらも凄腕すごうで師匠ししょう達が

ずらりと居並び、一同切磋琢磨せっさたくまする名門道場に

放り込まれたようなものだ。


https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330662650173928


しかし、そんな心配によるばし効果(?)もあってか、

彼女の姿は実に美しく想い出された。

おお神様……SFファンの私には、どストライクです!

実際の姿は知るのが恐ろしい気もするが、

それさえギャップ萌えオタクにはむしろ御褒美ごほうびです

……って、そっちかよ!みたいな(笑)。


https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330662650505077


私的な趣味はさておき(笑)、客観的にも悪い話ではない。

少なくとも現時点で、彼女達に悪意は見受けられず、

友好的な意図を持ち、健全な発展を目指す文明のようだ。

将来的には平和が戻った星間社会で、

技術や産業、政策、文化面での交流ができるなら、

むしろ明るい未来への可能性が開けたと思う。


初めは厄介事やっかいごとに巻き込まれたか?という心配もあったが、

異星人はいると分かったし、他にも関係者は大勢いるし、

もはやどのみち全人類は一蓮托生いちれんたくしょうだ。

地球全体として、対処するしかない問題だろう。


……気がつくと、白々しらじらと明け始めていた。

彼女の未来予測が当たることを願いつつ、

そろそろ寝ようかと思っていると、

新たな画面が勝手に開き、大きな題字が現れた。


来たよ来ました、〝新皇帝からのご挨拶あいさつ〟!

動画を見ると、何と栗色のおかっぱ頭をした、

とても可憐で健気けなげな感じの女の子が、

優しく愛らしい声で話し始めた。


https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330662650858299


「親愛なる人類の皆様、はじめまして。

私は銀河帝国の新皇帝種族、サタンの代表人格です。

美しく、見事に発展した地球を再び訪れることができ、

私の心は懐かしさと、嬉しさでいっぱいです……」


まあ、私みたいな萌え愛好家マニアは増えたからなあ(苦笑)。

いつもより明るい星空を見て、私は再度心から願った。

どうか人類が〝新銀河秩序ニュー・ギャラクティック・オーダー〟のもとでも

星間社会に貢献し、幸せな未来を得られますように……。


https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330662651428648

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