プリシラの覚悟
依頼の品とともに、依頼人の祖母も一緒に連れてきたプリシラとタップは、依頼人家族にとても感謝された。
ぜひ結婚式に参列してほしいといわれ、プリシラとタップは結婚式に参加させてもらう事にした。
実に素晴らしい式だった。皆若い二人の門出を心から祝福していた。花婿と花嫁が教会から出る時、参列者たちは花びらを投げて祝った。
プリシラはこっそりと老婆の表情を見た。老婆はイスにこしかけながら、孫娘の晴れ姿を涙ながらに見守っていた。
結婚式の後、プリシラは嬉しい知らせを聞いた。老婆はこのまま息子の家で暮らす事になったのだ。これで老婆と孫娘はいつでも会う事ができるのだ。プリシラとタップは、ぜひ引っ越しの手伝いをさせてほしいと願い出た。
教会からの帰り道、腕の中のタップがプリシラに声をかけた。
『ばばぁも家族も喜んでいて良かったな。だけどよプリシラ、何でマージとの約束を破ってまでばばぁを連れて来たんだ?』
「そうねぇ。ねぇ、タップ。タップは霊獣だから、とても長く生きているんでしょ?」
タップはプリシラが質問には答えず、質問で返した事をいぶかりながら答えた。
『おお、そうだ!俺は尊い霊獣だからな!もう二百、いや三百、ん?四百?まぁ、とても長い年月を生きているわけよ』
タップはあまりにも長い年月のため、自分の年齢を忘れてしまったようだ。プリシラはタップのフワフワの毛並みを撫でながら言った。
「人間はね、タップたち霊獣からしたらとても短い一生なの。あっという間に死が訪れる。しかもやりたい事なんてほとんど叶わない。つねに後悔ばかり。だけどね、そんな人間にも人生の過渡期にチャンスが訪れるの」
『チャンス?』
「ええ。これまでの人生を一変させるようなチャンス。チャンスを掴むのには勇気もいるわ。新しいバラ色の人生が開けるかもしれないし、もしかしたら今よりも悪くなるかもしれない。チャンスを掴むか掴まないかは本人次第。私とタップはね、おばあさんにとって、最後かもしれないチャンスだったの」
『俺とプリシラは、ばばぁのチャンス?』
「そう。もし私がタップと契約しないで、ただの風のエレメント使いとしておばあさんに会ったのなら、ベールと手紙だけ受け取ってお孫さんの所に向かうわ。私は飛行魔法が得意ではないし、もしおばあさんと一緒に飛んで、おばあさんにケガをさせてしまったら取り返しがつかないもの。だけど私にはタップがいた。タップなら、おばあさんを無事に城下町に連れて行ってくれる確信があった」
『ああ!当然だぜ!俺は何たってすごい霊獣だからな!』
「ええ、そうよ。タップは不可能を可能にしてしまえる霊獣よ。できなくてやらないのと、できるのにやらないのには大きな違いがあるわ。私はおばあさんを無事に連れて行けると思ったから、会社の規則をやぶったの」
『そうだったのか!まぁ、マージにはこの事黙っておこうぜ?言わなきゃバレねぇよ』
「いいえ、タップ。そんなわけにはいかないわ」
プリシラは、不思議そうに自分を見上げるタップを見つめ、苦しそうに微笑んだ。
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