プリシラの仕事

 プリシラはマージ運送会社に就職した。マージが取り仕切る会社は、社に持ち込まれた品物を、甥のトビーが風魔法で運ぶ。


 時には手紙で、または客が直接依頼に来る。その時は、トビーが依頼者の言う場所まで行って、荷物を取ってくる事もある。


 仕事の中で一番多い依頼が手紙だ。勿論この国には郵便制度がある。だが手紙配達は馬車が行う。届くまではかなりの日数がかかる。


 トビーが空を飛んで手紙を届ければ、それだけ連絡が早くなるのだ。


 マージはプリシラに仕事の内容を説明してくれた。この仕事ならばプリシラとタップで行う事が可能そうだ。プリシラがホッとしていると、マージは真剣な顔で言った。


「プリシラ、タップ。これだけは約束して?私たちの仕事は、お客さんの荷物を届ける事なの。だからね、お客さんにどんなに頼まれても、お客さん自身を運ぶ事は絶対にしないでね?」


 タップが大きくなれば、プリシラ以外の人を乗せる事も可能だ。だがもしも客を乗せて事故でも起こせば、取り返しがつかない。


 プリシラはきもにめいじてうなずいた。


 プリシラはまだ研修期間のため、実際に仕事をする事はない。早々に仕事を終わらせて帰って来たトビーがプリシラにせがむ。


「なぁなぁ、プリシラ。約束だぞ?風魔法教えてくれよぉ」


 プリシラはまとわりつくトビーに苦笑しながら微笑んだ。弟がいたらこんな感じなのだろうか。


「ええ、約束だからね。風魔法、教えてあげる」


 トビーは文字通り、空中に飛び上がって喜んだ。


 プリシラとトビーは会社の外に出た。タップは外に出しているイスの上にちょこんと乗っている。どうやらプリシラの指導を見ようとしているようだ。プリシラは照れ臭い気持ちになりながら指導を始めた。


「トビー。最初に断っておくけど、私の風魔法は独学よ?だから私には合っている学び方でも、トビーには合わないかもしれない。だから参考の一つとして聞いてほしいの」


 トビーは頬を真っ赤にさせてうなずいた。プリシラは苦笑してから、小さな木箱をトビーの足元に置いて言った。


「じゃあトビー。この木箱を風魔法で浮かせてみて?」

「えっ?!俺、空を飛ぶ事はできるけど、物なんて浮かせられないよ」

「そんな事ないわ。トビーはあれだけ自由に空を飛べるんだもの。自分が浮くのと変わらないわ?」


 プリシラは足元の木箱に風魔法をかけると、木箱はフワリと宙に浮いた。トビーは手を叩いて喜んでいた。


 プリシラは小さな頃から独学で風魔法の特訓をしていた。その中で確信めいたものが一つあった。風魔法とは、見えない風を形成し操る事だ。


 プリシラが行っている木箱の浮遊魔法は、風魔法で木箱をおおいつくして操っている。


 トビーだとて、無意識に風魔法を自身にまとわせて空を飛んでいるのだ。


 プリシラは手のひらに風魔法を発生させ、トビーにわかりやすいように高速回転をさせた。するとプリシラの手のひらに小さな竜巻が起こった。トビーは興味深げに竜巻にみいっている。


 プリシラは微笑んでからトビーに言った。


「トビー。私が発生させた風魔法と、トビーの飛行魔法、どう違うと思う?」

「ええっと。俺の風魔法は、フワッとしてて。プリシラの風魔法はすごく早くてグルグルしている」


 トビーの擬音だらけの感想に、プリシラはくすりと笑ってから答えた。


「いいえ、トビー。トビーの飛行魔法と私の風魔法に何の違いもないの」

「?。そんなわけないだろう。俺のは空を飛んで、プリシラのは竜巻を発生させてる」

「それは結果が違うだけ。根本の風魔法は同じなの」


 プリシラは、手に発生させた小さな竜巻を木箱に投げた。竜巻は木箱を飲み込みグルグルと回転した。やがて回転がおさまると、フワフワと空中に浮いた。


 トビーはクプリシラの魔法をジッと見つめていた。プリシラは木箱にまとわせていた浮遊魔法を、今度は自分にまとわせた。


 プリシラの身体はフワリと空中に浮いた。トビーは驚きの表情で、プリシラを見上げた。プリシラはトビーを見て微笑んだ。


「ね?風魔法は皆同じなの。トビーは風飛行魔法が得意なんだもの。すぐに上達するわ?」


 トビーは頬をピンク色にさせて大きくうなずいた。



 

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